ご主人ならば一定の距離を保ちましょう 生まれた時から、魎の世界は普通と違っていました。 視界が変だというわけではございません。 ただ、常に自分の後ろに何か荘厳なものがいる気がしておりました。 古い歴史を持つ、由緒正しい一族の三男で末っ子。 事なかれ主義で長いものに巻かれるよりかは近づかない、そんな性格をしております。 ただし好奇心は末っ子ですから勿論強くて、成長するにつれて物事と一定の距離を保ちながら静観する癖が付きました。 「おーおー。今日も悪いことしてますなぁ…」 廊下を渡りながら庭を見下ろすと、生徒会長が取り巻を引き連れて何やら話しておりました。 悪い顔をしているので、きっと悪い企みなのでしょう。 「あ、犬神…やっほー」 「………」 「?」 玉章のすぐ隣にいる犬神はすぐに魎に気づきましたが、手を振られると顔を赤くしてそっぽを向きます。 せっかくこちらから手を振ったというのに、なんという奴でしょう。 魎は悪いことに足をつっこむ気などさらさらありませんでした。 人間として真面目に生きる気もさらさら無くて、 妖怪と関わって生きていく気もございません。 妖怪を倒すことが出来ることを知っていました。 幼い頃から自分に害をなすモノがいれば、触るだけでそのものが消えてしまいましたから。 だけど、消すのは勿体無い。 「おーい柊、手が空いているなら次の授業の準備手伝ってくれ」 「はーい。先生、俺お腹すいた」 「昼休みは今だ。何故メシを食わんのだ」 「忘れた」 由緒正しい寺の息子でした。 先祖代々に渡って蓄積された徳は末っ子の魎に全て受け継がれました。 兄は苛々しているようですが、努力家なので問題ないでしょう。 きっと立派な住職になってくれます。 「薬臭い科学準備室で良いなら、俺の秘蔵ラーメンをやるよ」 「ありがと先生、だいすきー」 「ははは。お前シャツ直せ。だらしない」 「ちぇ」 目に映る人間とは違う生き物には毎回ワクワクさせられました。 あれは何だ、これは何だ、人を襲うのか?それは可哀想だろう。 消すと楽しみが無くなります。 だからちょっとだけ力を抑えて、それでも妖怪たちには効果てきめん。 だけど消えることは無い。 「あ、お前こないだのテストの点良かったな。カンニングか?」 「先生ひどい」 「ははは。授業態度は良いのに生活態度が悪いからなぁ、柊は」 「ちぇ」 退屈な日常のちょっとした潤い。 妖怪がいれば、楽しいのです。 さあ、彼らは今日もどんな悪いことをするのでしょうか。 少し遠くから、観察してみましょう。 [*前] | [次#] 【戻る】 |