つがいを見つけてあげましょう



今日の授業も終わってまばらに生徒達が帰っていく中、魎はゴソゴソとカバンを探っていた。
カバンの次は机の中、その後はロッカーを探る。


「なぁ、犬神。ちょっとお前これ臭ってみてくれない?」
「…なんだよ、ただの筆箱じゃねぇか」
「臭った?」
「…おう。なんなんだよ」
「じゃあ今から俺のケータイ探してくれない?臭い覚えたろ?」
「ぶっ飛ばすぞテメェ!!」


ガタン、と机から勢い良く立ち上がったため魎の筆箱が床に落ちた。
「あーあ」と覇気の無い魎の声が余計に癇に障った。


「んだよ、役に立たない犬だな…もういい。自分で探す」
「最初からそうしろよ!ムカつく野郎だな本当にテメェはよ!!」


犬神の吼える声もスルーして魎は再び机に戻っていった。
イチから仕切りなおしだ。

苛々した目で魎の行動を追う犬神だったが、教室の外に玉章がいることに気づいて席を離れる。


「玉章」
「犬神、今日は特にすること無いから帰るよ」
「おう、カバン取ってくる」
「……魎は何をしているの?」
「ただの失せ物だ」


ジャージをひっくり返してぶんぶん振り回している姿は確かに気違いにしか見えない。
近くの女子生徒が小さく悲鳴を上げている。


「魎、何を無くしたんだい?」
「あ、玉章…ケータイ見つかんないんだよー。どっこにやったかなぁ…」
「番号教えて、鳴らしてあげる」
「うわ、優しい。玉章だいすきー」
「おい魎!!慣れなれしいんだよ!」


近づいて玉章に番号を教える魎。
奇異の目で見るクラスメート。
それもそのはず、学校の帝王にこうも親しく振舞えるのは魎しかいないのだから。


「………………あれ?」
「………テメェ、マジで噛み殺してやる…」


ブルブルと振動音が聞こえた。
魎はポケットを探り、中のモノを確認して大きく頷く。


「制服に入れたままだったのかー」
「ふざけんなよ!」
「これで帰れる。ありがと玉章!」
「じゃあね、また明日」
「帰り道に車に轢かれて死ねっ!!」
「ばいばーい」


笑顔で手を振って、魎はそのまま教室を出て行った。
鬱憤がつのる犬神は深い溜息を吐く。


「マジでムカつく…あの野郎…」

「ねぇ犬神」

「?」

「キミってあれだけ魎に馬鹿にされてるのに、魎のことを恨まないし憎まないんだね」

「…………へ?」


玉章は嫌な笑顔だった。
まるで自分が妖怪として目覚めた時のような笑顔。

ニヤリと、玉章は更にその笑みを濃くした。


「魎が好きなんだね、犬神」

「………………はぁ!?な、そんなわけねぇだろ!?」

「はいはい、僕達も帰ろう。それにしても、良い趣味だよ犬神は」

「ちょ、待てよ玉章!違う!断固として違う!」

「ああ、もう風が冷たい…寒くなってきたね」

「玉章!」


今日も帝王は、素敵なドSっぷりで犬神を放置する。
これからどうしてやろうか、と至極楽しそうな笑みを浮かべたまま玉章は教室を颯爽と出て行った。

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