噛まれる前に叱りましょう



四国のとある高等学校では毎朝の光景だった。


「会長、おはようございます」
「御機嫌よう、会長様」
「お荷物お持ちします、生徒会長」


次々に生徒が近寄ってきては恭しく玉章に接する。
恐怖という名前のカリスマ性は、玉章が入学した直後から学校全体に広まった。


ただ1人を除いて。



「おっす、妖怪ども。邪魔だぞー」
「いってぇ!!」



制服をだらしなく着て、眠そうに半目で
通り過ぎる際に犬神の頭をカバンで軽く叩いて

玉章に唯一従わない人間、柊魎は開けた道を闊歩した。



「〜〜〜っこの魎!!テメェいきなり何しやがんだよ!」

「何だってー?聞こえないからもっと大きな声出すか昇降口来いよ」

「何言ってるか聞こえねぇよ!戻ってきやがれ!」



すでに玄関で靴を履き替えている魎は一度犬神を見て頷き、そのまま階段をのぼって行った。



「…あの野郎…完全に舐めてやがる…」
「まぁ彼は放っておいていいよ。いちいち相手をする犬神が悪い」
「玉章…だってよ、アイツめちゃくちゃ生意気だ!」
「仕方の無いことさ」



荷物を全て人間に持たせ手ぶらな玉章はこらえるように笑う。
犬神は、この玉章の態度も気に入らなかった。

全ての妖怪と人間を統率できる玉章が、ただ1人の人間を従わすことが出来ていない。
しかも玉章は、それを悪く思わず好きにのさばらせている。

犬神にしたように精神肉体を痛めつけるわけでもなく静観しているのだ。



「彼に触れることが出来ないんだから、どうしようも出来ないよ」
「アイツのどこにあんなチカラがあんのか俺は不思議でしょうがない…」



もし触れたら最後。
凄まじい電気ショックが全身を襲い、半日は再起不可能になってしまう。

初めて犬神が魎と接触し、殴りかかろうとした時はそれはもう大惨事だった。
犬神だけが。



「さっきはカバンで叩かれて良かったね、もし拳だったら昔みたいになっていただろう」
「…思い出させるなよ…玉章ぃ…」



痙攣はおさまらず、口は開いたまま、涎と涙が噴出して、あと少し電気が強ければ下半身も緩んでいたことだろう。

情けない姿を曝した犬神を、魎は面白いものを見つけたような目で見て「なんだ、お前妖怪だったのか」と吐き捨て教室に戻っていったのだ。


妖怪だと知っても態度は変わらず、玉章の取り巻きに加わることも無く、かといって妖怪を倒そうとするわけでもなく、魎は平穏無事に学生生活を謳歌していた。



「闇を寄せ付けない存在…、面白いんだけど魎自身が僕達に無関心だからね。へたに関わったら僕だって消滅させられるかもしれない」

「そんなわけねぇよ!玉章の方が強いに決まってるだろ!」

「彼は邪悪なものを一切寄せ付けないから、僕達がたとえバットで殴りかかろうとしたって吹っ飛ばされるだけさ」

「…まるでもうやったみてぇな口ぶりだな」



呆れた様に犬神がぼやくと玉章は「当然だろう」と肩をすくめる。



「あの刀を取り出した瞬間、取り巻きが皆この前の犬神のようになったからね」

「……玉章、そうなること知ってて前に俺に…魎にケンカ売らせたのか?」

「人間だった犬神なら魎に触れるかと思ったんだけど、違ったようだ」

「……………」

「彼は意識すればあのチカラを飛ばすことも出来るようだよ。本当に無関心でよかった」



危ない人間だが、無問題。
それならば放っておいても無問題である。



「そろそろ授業が始まる時間だ。行くよ犬神」
「……おう」



どうも腑に落ちない感情を抱きながら、犬神も玄関に向かった。

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