お嬢の大泣き事件? ああ、リクオ様がお生まれになった時の…ええ、私も慰めた一人ですから覚えていますよ。 ご長男の誕生というのは大変喜ばしいことですから、本家妖怪も総大将も二代目も若菜様もリクオ様につきっきりになってしまったのです。 お寂しかったことでしょうね…。 ある日お嬢が幼稚園から戻ると皆が広間でリクオ様の腹ばいを見守っておりまして… そうなんです。 誰もお嬢のお迎えに上がらなかったんですよ。 それで、お嬢が泣きながら広間にやって来られて幼稚園のカバンを床に叩きつけまして… 「皆だいっきらい!」 と…。 皆大慌てになりましたよ。 でもお嬢には取り付くシマも無くて…二代目なんか特に嫌われていましたね。 二代目を見るお嬢の目は、まさにぬらりひょんの孫。 凍て付く鋭い視線で、二代目でさえも震えておりました。 私も長いこと本家勤めをしておりますが、今までに見たことのある二代目のどんな視線よりも恐ろしかったですね。 お嬢が男であればきっと立派な三代目に…ああ!リクオ様もご立派ですよ! ごほん、…ええと、それで私達も反省しまして、お嬢のお世話を金輪際忘れないよう誓い合いました。 二代目も毎日違う侘びの品を差し上げておられました。 百個目の大きなクマのぬいぐるみをお嬢に渡して、ようやく許されていましたね。 お嬢は贈り物が好きのようで、私も何度かお嬢に似合う糸で作ったぬいぐるみや、お嬢が所望する紅や白粉を買っては差し上げております。 いやはや、あの渡した時のお嬢の笑顔といったら… あの笑顔が見られるだけで「今日も頑張るぞ!」という気になれるんですよ。 本当にお嬢は、お美しくお可愛らしい。 [*前] | [次#] |