立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花…

僕の姉ちゃんは、この昔の賛辞を地で行く人だった。


「黒田坊、今日寒いから制服をどうにかして温めといて」
「ええ、ではストーブの前で拙僧が温めておきましょう」



「氷麗ー、お水冷たいよう」
「え!?あ、すみませーん!毛倡妓、お湯用意してちょうだい?」
「はーい」



「首無、新しい髪紐ちょうだい?今日体育があるの。こないだの切れちゃって」
「ええ、どうぞこちらを。お嬢に似合うものを用意しておきましたよ」



「お母さん、家庭科の課題ー」
「はいはい、エプロン作っといたから持って行きなさい」



「おじいちゃん、今日友達と約束してるんだけどお金無いの」
「ったく、しょうがないのう」



我侭放題で自分勝手。
それでも許されるのは、奴良組の最初の子供で、女の子で、なにより弟目から見ても"すこぶる美人"だからだと思う。

容姿端麗、スタイル抜群、傍若無人なその性格は"小悪魔"として最近じゃ認識されている。


「リクオ、むーたんの餌やってくれた?」
「したよー」
「ありがと」


新しいものと可愛いものが大好きで、最近のマイブームはペットである金魚のむーたん。
ペットという割には僕が餌をやって僕が水槽の水を変えているんだから、本当に姉ちゃんは自己中心的だ。


「お嬢、お迎えが来ましたぞ」
「もう来たんだ、最悪、早すぎ」
「自転車でこちらへ向かっておりますが…足止めしましょうか?」
「うーん…ま、良いわ。ありがとう烏天狗」


毎日違う男の人が家の近くまで迎えに来る。
さすがに屋敷に入れることはしないけど、近くまで来た彼氏(なのかどうかはハッキリ聞いたことが無いけど多分きっとそう)をいつも烏天狗が姉ちゃんに教える。


「リョウちゃん、行ってらっしゃい」
「行ってきます、お母さん。皆、今日もありがとう。大好きよ」


ウインク一つがこんなに様になる人もいないと思う。
姉ちゃんが黒田坊の温めた制服を持って居間から出ると、皆が頬を染めてと息を漏らすのも日常。
甘い言葉と、甘い笑顔。
皆が見惚れるのもおかしくはない。


「さすがワシの孫」
「さすが私と鯉伴さんの娘」
「さすが僕の姉ちゃん…」


血の繋がった僕達も鼻が高い。
外を見ると、制服を着た姉ちゃんが門の外で待っている彼氏(仮)にカバンを持たせていた。
ちょっとスカート短すぎじゃない?
シャツの胸元開きすぎじゃない?


「昨日の男よりは背が高いな」
「でも華奢だ。もっと逞しくないと…」
「顔は5日前の人が断トツね」
「そう?あたしは3日前の子が好きだわ」


皆が彼氏(呪)査定を開始するのも毎朝のこと。
姉ちゃんはそのまま彼氏(殺)の自転車の後ろに座って学校に向かった…と思う。
ちゃんと学校に行っているのかはわからない。
だけど、一応毎朝家を出るから信じている。


「僕も行こっと…ごちそうさま」
「リクオ、気をつけてね」
「はーい」
「なんじゃ、お前学校行くなら三代目として夜も活動せんか」
「もう、僕は継がないって言ってるでしょ…」


僕は"立派な人間"として幹部から白い目で見られている。
姉ちゃんは"立派なヤクザの娘"として褒め称えられている。
僕達、性別が間逆だったら良かったのに。
今日も姉ちゃんは、ぬらりくらりと自分にとって都合の良い楽しい時間を過ごすのだろう。

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