「鯉ちゃんが構ってくれなくて辛い」

「なんじゃ藪から棒に…」


うだうだと縁側でめそめそしていた。
視界に入る見たくないものを見てしまって、心の黒いものを浄化するように吐き出すと総大将は冷たい目で見てきた。くそうヒゲむしるぞ。


鯉伴が山吹乙女を娶ってから早半年。
新婚の彼らにとってはまだまだお暑い時期のようで、あっちでいちゃいちゃ、こっちでいちゃちゃ。

いーやーだー!


「寂しいよう。昔はあんちゃんあんちゃんって金魚の糞みてぇにくっついては俺の仕掛けた罠にはまってギャンギャン泣いてたのに…」

「人の息子を糞扱いするな、それとお前だったのか鯉伴が帰ってくるたびに手の付けられないほど汚ねぇ顔で泣いとったのは…」

「ちくしょう山吹ちゃんめ…なんか俺、娘を嫁にやった親の気分だ…」

「事実は間逆で息子が嫁を貰ったがな」


それでも取られた!
まだまだヒヨっ子じゃないか、結婚なんて早すぎる!


そう言って祝言の席で暴れるだけ暴れたのに、まだスッキリし足りない。
ああ、可愛いな鯉ちゃん。さすが俺の弟分だ。


「いつ盃交わしたよ、テメェはワシの義兄弟じゃろうが」

「人の心読むな。サトリかおめぇはよ」


いつの間に読心術を会得したのだ。
人んちに入り込んで心まで読めたら最強にもほどがあるだろう。


「…つーかよ」

「あんだよ」

「魎、ワシの祝言の時はそんなに悲しまんかったのに何で鯉伴の時はそんな…」

「てめぇと鯉ちゃんなんか月とスッポンぐれぇの差があるわい!鏡見て来い!」


小さくてふわふわしてむにむにしてつやつやしていた鯉ちゃん。
飴を上げると和三盆の砂糖菓子のように甘い笑顔で受け取った鯉ちゃん。
顔の穴という穴から液体出して泣き喚く鯉ちゃん。

出入りの時には目だけで殺せるような凛々しい鯉ちゃん。


「さーみーしーいー…!!!」

「ごぁっ!!オイ転がるんじゃねぇ!!」

「うるせぇ慰めろよ兄弟!」

「だからこうして一緒に縁側にいるんじゃろうが!」

「違ぇーよ!もっと甘いの!もっと柔らかいのがいい!!鯉ちゃん連れて来い!」


ゴロゴロゴロと総大将のケツ目掛けて何度も寝返りを打つ。
総大将は心底呆れた溜息をついて、「いたた…」と言いながら腰を上げた。
なんだ、年か。


「おーい鯉伴ー!魎がうっとうしいから何とかしやがれ」

「ああ?見てわかんねぇのか邪魔すんなよ」

「あなた、そういう言い方は…」

「良いんだよ、山吹は何も気にするな」




「だとよ」

「うわぁぁあん!冷てぇよぉぉおお!!」

「どぁっ!テメ!」

「っが、やったなテメェ!」

「ぐぇっ!テメェから始めたんじゃろうがっ!」


フライングヤクザキックを噛ましてマウントポジションげっと。
総大将も大人しくやられてくれないから腹とか頬っぺたに重い拳が入る。


「大体魎が祝言をあんだけぶち壊したから鯉伴も冷たくなったんじゃ!」

「うるせぇ!お前に俺の気持ちがわかってたまるかー!」


ぼっこぼっこと殴る蹴る。
なんだなんだと本家の妖怪達の視線が向けられていることがわかったけれど、もう止められない。


「あなた…止めに入らなくて良いのですか…?」

「あの2人はアレで良いんだって。大体…魎が俺に構い倒してたのだって親父に向けた…お袋に対する嫉妬からだ」

「え…そうなんですか…?」

「捩くれてんのさ、魎の愛ってのは」



幼少の鯉伴の可愛さに本来の寂しさを忘れてしまっていたのだ。
罵声を飛ばして、拳を振り上げて、

それでも大人気ない2人は楽しそうに笑っていた。


「魎にはワシがおるじゃろうが!」

「はっ!ずっとずっとずーっと女に現を抜かしてた奴がぬかしてんじゃねぇぞ!」

「お前も特定の女作れば良いんじゃ!フラフラと遊び倒しやがって!」

「バーロー!俺のことなんてずっと放置してたくせに偉そうに!」





「なんだかんだで、仲良いんだよ。親父と義叔父貴は」

「…そのようですね」


寂しい思いなんて、大っっっ嫌いだ!

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