今宵も見事な月夜の晩。
井戸から這い出るは、血の気の無い骨と皮だけのようなお化けである。


「ぴーぷぽぺー うらめしやー」
「ろくまい、ななまぁい、はちま……あれまー!」


ガシャン、と鳴った。
同時に井戸から顔を出した2人だった。
青い顔を更に青くして、魎は粉々になった皿を救い上げる。


「…割れたか」
「…割れてしまった…俺の自我も割れてしまった…っ!あああああ二枚足らん!二枚も足らん!」
「落ち着けお菊の。嘆いても仕方あるまいよ」
「二枚だ!ちくしょう!マジむかつくんですけどー!!」
「落ち着けお菊の。現代コトバを使うと一気にただの顔色悪い痩せた男にしか見えんぞ」
「ファッキン!」


井戸からただならぬ声が響き渡る。
何事かと丁度パトロールをしていた黒羽丸が並立するお化けたちの井戸に近づいた。


「どうしたんだ?」
「おお、黒羽丸様。見回りお疲れ様です」
「ちょっと皿が割れちゃってぇー超さがってるんですぅー。べっこりー」
「すみません、アイデンティティが行方不明で」
「なるほどな、わかった。少し待っていろ。替えを持って来てやる」


このお化けたちが井戸をねぐらにして畏れを集めていることは周知の事実。
また、魎の存在に皿が必要なのも周知であった。
黒羽丸はそのまま飛び立ち、本家へ向かう。


「真面目なお人だなぁ」
「さげぽよー」
「お菊の、もうしばし待てよ。今黒羽丸様が新たな皿をくれるからな」
「待てるわけないしー。ていうかガチで意味わからんしー」


数分もしないうちに羽が風を切る音がした。
黒羽丸が井戸に戻って来て、魎に本家で使用しなくなった皿を渡す。


「ほら、皿だ」
「ありがとうございます、黒丸様。このご恩は決して忘れませぬ」
「皿が戻ると自我が戻ったな。良かったなぁお菊の」
「じゃあな、今夜もおつとめご苦労」
「「ありがとうございます」」


闇へと消えていった黒羽丸を見送り、嬉しそうに魎は皿を数え始めた。


「いちまい、にまい、さんまい、よんまぁい」
「良かったなぁ」


「ごまい、ろくまい、ななまい、はちまい」
「これも本家のおかげだな」


「きゅうまい、じゅうまい……10枚…だと…?」
「新たなパターンだ。それはそれで怖いかも知れぬな」


愕然と手にした皿を眺める魎。
裏返すと一枚の紙がテープで留められてあった。


「"次に割れたときのための予備"だそうだ…」
「ほほう…」






「「真面目か」」


――…今夜も仲良しお化けの楽しそうな声が、井戸から響いている。

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