お菊さん。
それは永遠と10枚あるはずの皿を数え続けるお化けである。


「いちまい、にまい、さんまーい………あきたー」


白い着物に三角の布を頭に付けて、さじではなく皿を投げる。
大体、ハナから9枚しかないことを知っていて何故数えねばならないのか甚だ遺憾だ。
しかし豆腐小僧が豆腐を持つことで個性を持つように、魎も皿を数えることで唯一無二のお菊一家として存在できるのだ。


「おうお菊の。5日ぶりの飽きが来たか」
「おうお岩の。今回は5日ももったか」


彼は隣の井戸に住むお岩一家の嫡男である。
その昔、彼の先祖が激しい恋の末に身を投げ幽霊になったことから彼の家系は続いている。
魎と同じく、日本を代表するお化けの、たった1人の跡継ぎだった。


「皿を数え続けると気が触れそうだ」
「はっはっはっ!ああ、目玉が」
「あれま」
「いかんいかん」


ドロドロの顔から笑った瞬間目玉が飛び出した。
慣れた手つきでそれを拾って元の場所に戻すお岩屋を魎は羨望の眼差しで見つめた。


「お岩のは良いよな、俺より顔が怖いのだから」
「そうか?でも俺は"うらめしや"しかキメ台詞が無いぞ」
「皿数えて足りないこと報告するだけの俺よかマシだ」
「はっはっは!ああ、また目玉が…」
「あれま」
「いかんいかん」


まさに井戸端会議である。
並立する井戸で生まれ育った2人は親友以上の繋がりがあった。


「「さて、今夜も頑張ろう」」


並立するいかにも怪しい井戸に近年人がめっきり近づかないことに、2人は気づかない。


「いちまーい、にまーい…」
「うらめしやー。ひゅーどろどろどろ…うらめしや〜」


――…今夜も退屈そうな声が、井戸から響いている。

[*前] | [次#]

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -