妖怪には沢山の種類があって、お化けも奴良組に所属する。


「ごめんください、皿ください」


決まった場所で、決まったことを繰り返し行う妖怪。
魎は某幽霊の直系で、また、皿を数えることで現代でも有名なお化けであった。


「はいはい、10枚ね」
「すみません、前のが古くなってしまったもので…。ありがとうございます、若菜様」


古い皿を差し出し、ペコリと頭を下げて、急ぎ足で住処に戻る。
決まった場所から離れると落ち着かないのであった。


「いちまーい、にまーい、さんまーい」


井戸の中で皿を数える。
若菜が言った10枚は勿論嘘で、そうしないと魎の個性が失われるのだ。


「よんまーい、ごまーい、ろくまーい」
「精が出るな、お菊一家の魎よ」
「あ、若。こんばんは」


丸くふちどられた空に本家の嫡男。
魎は井戸を這い上がってひょっこり顔を出した。
月夜に曝された青白い顔は血筋でもあり、井戸の中からほとんど出ることが無いからである。


「一家といっても、俺しかお菊はいないんですがね」
「まぁそれでも幽霊の代表格だ、頑張ってくれ」
「ありがとうございます。井の中の蛙になりたくはないですが、文字そのままの意味を取ると、それだと俺のアイデンティティが無くなるんですよね」
「ははは、そうだな」


若君が見つめる中、魎は皿を再び数え始めた。


「ななまーい、はちまーい、きゅうまーい」
「一枚足らんな」
「言ったそばから、俺のアイデンティティを奪わんでくださいよ」
「ははは、悪ぃな。ちょっとした悪戯心だ」


――…今夜も寂しげな声が、井戸の中から聞こえてくる。

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