山吹が仕事で日中は一人なもんだから時間つぶしに何をしようかと考えていた時の事だった。 屋敷内を目的無く歩いていると縁側で横になっている魎の姿を見つけた。 太陽の日差しを浴びるのが好きなのか、よくここで昼寝をしているのを見かけるが大体いつもは親父が傍にいるから一人なんて珍しいもんだなぁと思って近づいた。 枕も敷かずに仰向けで寝入る魎の顔は緩んでいて、見た瞬間に思わず噴出してしまった。 親父がしていたように魎の頭の傍に腰を降ろして、最初はぼんやりと景色を眺めていたが不意に名前を呼ばれて魎が起きたのかと思った。 「魎?」 だけど魎の目が覚める気配は無く、幸せそうな寝顔が更に緩んでいた。 自惚れでは無く、確実に俺のガキの頃の夢なんだろうと思った瞬間に魎が「…俺も大好きだぞー…」と寝言を言う。 昔はよく今の魎のように大好きだ大好きだと言ってたもんだ。 立場が逆転した今なんてあの頃は想像も出来なかったなぁ。 魎は変わらねぇなぁ、今も昔も同じように義叔父貴のまんまだ。 さらりと魎の顔にかかった前髪をどけると、小奇麗な顔が露わになる。 白い肌、すっと通った眉、鼻筋、夢によってわずかに染まった頬、そして血色の良い唇へと目線を移す。 「…………」 顔を近づけてじっと見つめる。 っとに顔は良いんだよな。 そういや昔はよく口吸いなんかもしてたなぁ。 ませたガキだったと自嘲しながら、昔のように魎に口付けを落とす。 弁明しておくが、本当に何の意味も無い行動だった。 唇を離すと、丸く見開かれた魎の目と視線が合う。 大事な事なので二回言わせてもらうが、本当に何も意味も無い行動だったんだ。 *** この感動を忘れる前に言っておくっ! 俺は今、縁側で昼下がりの優しい日差しを浴びながら昼寝をしていた。 とても幸せな夢を見ていて、きっと俺の顔もにやけていたと思う…。 い…いや…思う、というよりも実際にやけていたんだ。 あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ! 夢の中で幼い頃の鯉ちゃんが俺に駆け寄って来たんだ。 「魎義叔父貴ー!」って言いながら俺の腰に抱きついた鯉ちゃんがまるで満開の牡丹の花のように華やかで輝く笑顔を向けて「大好きだぞ!」って言うから「俺も大好きだぞ」と、にこにこしながら頭を撫でたら「耳を貸して!」ってきたもんだから俺もクソ可愛いなぁ畜生めって思いながら顔を近づけたら唇に軽い音が鳴って、その後の鯉ちゃんの天使のような笑顔! 「口吸いは一番好きな奴とするって雪麗から聞いたんだ」って言いながら照れる鯉ちゃんが本当に可愛すぎて俺マジで悶え死ぬ!と思っていた矢先にまたもや唇に軽い音。 な…何を言っているのかわからねぇと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…! 目を覚ましたらそこには成長した俺の天使が気まずそうに沈黙を保ったまま顔を赤くしていた。 頭がどうにかなりそうだった…。 夢の続きだとか、俺の妄想だとか、そんな「ああ、いつもの事だろバーロー」ってお約束なもんじゃ断じて無い。 俺は、今の出来事を茶化すべきか真摯に受け止め紳士的に対応すべきか瞬時に考えた。 そして出した答えがこれだ。 「…成長したなら大人の口吸いしようぜ?」 「っ魎!?」 鯉ちゃんの後頭部を掴んで無理やり自分に押し付けようとした。 唇が触れるか触れないかの所で聞こえたゴトンという何かが落ちる音。 そこには将棋盤を見事なほどに足の上に落とした総大将。 ブルブルと震える手は痛みを我慢しているせいか? 「うわ、痛そ…」 「っ何をしとるんじゃ魎!!」 「何って…見てわかんだろ、これから愛を育む2人の邪魔すんなよ。ああでも鯉ちゃんが見られて興奮するならいても良いよ、俺は特に気にしないから」 「どこの世界に息子と義弟のまぐわいを好んで見る奴がおるか!息子を誑かすな!」 「誑かしてねぇよ!自然に惹かれ合う2人の仲を引き裂くなんてどこの小姑だ!見たくねぇなら出てけば良いだろ!」 せっかく珍しく鯉ちゃんから俺に近づいてきてくれたって言うのに! 鯉ちゃんに構ってもらうのがどんだけ久しぶりだと思ってんだこのクソ大将は!! 「なんじゃとこの色情魔が!」 「うるせぇこの枯れジジイ!」 「枯れてなぞおらんわ!今でもワシは珱姫を想っておるわ!」 「そんなこと知るか!聞きたくもねぇわ!俺は愛の狩人なんだよ!」 「だったら外で狩って来い!ワシの目が黒いうちは本家でお前の緩んだ下半身の相手探しなぞさせんからな!」 「上等だコラァ!だったら今すぐ花買って来てやるよバーカ!この野暮天が!」 またと無い機会を無碍にしやがったボケ大将に唾を吐いて外に出る。 あああムカつくー!! 「………悪いな親父、助かった」 「ったく、お前も不用意に魎に近づくんじゃねぇ!ガキの頃とは違って今じゃアイツが手を出す範囲に入ってんだぞ!」 「…おう、肝に銘じとくわ…しばらく魎には関わらねぇようにする…」 こうして絶好のチャンスをモノに出来なかった魎は、自らの首を絞める事になったのである。 [*前] | [次#] |