煙草吸って酒飲んでハイなままやっちゃって幸せ気分で布団に潜り込んであと腐れなく朝目覚めてなにもなかったかのように大学の講義が受けたいし違う人と寝てみたいしレポート書きたいし美味しいもの食べたいしクラブでナンパされたい。私の中にはいつだって欲望が渦巻いている。欲望は私の動力源で嫌なことがオイルだ。私はいつだって楽しいことにむかっている。煙草だって講義中我慢してから、はしたなくコンビニ周辺で吸うのがすごく幸せ。セブンスターはパッケージが好きなんだけど結局はマルボロに戻ってきてしまう。マルボロでも本当の、赤。一瞬アイスブラストにしたけれど、あんなのはナルシストが吸っていればいい。くそみたいにタールがはいってて、バカみたいにニコチンが含まれてる赤がいい。私の肺は真っ黒だ。煙草をくわえて火をつける仕草が男の仕草の中で二番目くらいに好きだ。そうして、ふかく煙を吸い込んだときの、あのふっかふかの布団にダイブしたときの恍惚とした表情。わかるわかる、と内心頷きながら寒空の下で煙草をふかす。はじめの一口
が至高派なのだが近頃の煙草は高くていけない。短くなるまで吸い付くしてくれる。いつか、肺癌で死んでやるのだ。癌保険にしっかりはいってからな。

ピアスをデパートで買うのはポリシーじゃない。そもそも、私の4Gをのみこむピアスホールにみあったそれなんて、デパートじゃ売ってない。もっとアンダーグラウンドな、隘路に構えてるような店でないと。私の耳は4Gだ。それ以上にするつもりも、それ以下にするつもりもない。数字の中で一番複雑な形をしているのに、一番バランスがとりやすい、4なのだ。そして髪は断然ショートカットで、ブリーチして、アッシュかオリーブをいれる。そうして、ケイトのリキッドアイライナーでがっつりラインを強調したら、私は随分、クールだ。

ホールにかかってる曲にのれなくて、すみで水割りを飲んでいたら、このクラブ全体に薄く煙がかかってるのがわかった。ライトの光がくぐもって、海の中を泳いでいるような気分になる。熱気に浮かぶそれはマルボロだったり、セブンスターだったり、ピアニッシモだったりする。おんなじような人種が、おんなじように腰ふって、感じてる。ひどい場所だと思った。こんなにたくさん人がいるのに、私は一人だ。

隣に眉と鼻と唇にごついピアスをして、耳なんかもうマイナスいってんじゃないかってくらいの大穴あいた男が座ってきた。そんなに顔面ごちゃごちゃしてたらイケメンかどうかもわかりゃしない。鼻のピアスを見て、そういえばこないだ、服装にも化粧にも髪にも手入れがなってない女子が、「鼻ピとか牛じゃん」って言っていたけど、人の外見を言う前に、自分の外見気にしたらって呟いておいた。勿論Twitterに。オシャレな人とか、きつめに人体改造してる人って、けっこうコンプレックス抱えてる。なにも考えないで色褪せたストレートジーンズはいてるあんたより、ずっと美しい。流石に耳を尖らせたり、舌先を割ったりするのはやりすぎかなぁと思う。けれどそんなのは価値観の違いだ。基本的に耳に穴をあけるのと、かわらない。

隣の男はまず私のピアスを誉めてきた。悪くない。私はピアスに一番時間をかけている。次がネイルで、その次が化粧だ。男はサムと名乗った。親指みたいな名前だね、と返したら、なにそれ、と返ってきた。私はいっそう、彼が好ましくなる。サムは見た目のわりに馬鹿みたいに笑う男だった。名前を聞かれたので、「ココ」と答えた。私が好きな作家さんの小説に出てくる主人公の名前だ。サムは可愛いね、と言って、私にジントニックをくれた。多分このグラスはジンライムになって、苦いウィスキーになってから、空になる。この男は私と寝たいのだと思った。私はこのあと、レストルームなり、ホテルなりに誘われる。それは女としての魅力を確かめる場でもあるし、町中のくたびれた格好をしている女子の集団を見下す儀式だ。女に生まれたからには男に愛されなきゃ悲しいし、お洒落をしないと楽しくない。それがわからないニキビだらけの腐った女の子は、本当に可愛そう。

「ココは仕事何してるの?」
「まだ学生だよ」

私は、きっとサムはフリーターか、ショップの店員なのだと思った。

「専門学校?」
「ううん、大学生」
「頭いいんだ。この辺ならF大?」
「T大」
「ウソじゃん!!」
「ほんとほんと」

サムはぜんぜん、信じてないみたいだった。私は、ちゃんと名前の通った国立大の二年生で、何回か成績優秀者になる程度には真面目な内面をしている。たとえ金髪で、睫バサバサで、4Gのピアスをしていてもそうだし、専攻は日本文学の、しかも古文と呼ばれるものだ。他にもヨーロッパの思想史にも手を出しているし、サークルにも週一で顔を出して、ちゃんと後輩の男の子をたぶらかしてる。

「えー信じらんない!!でも大学生っていいねー女子大生って、AV でよくあるね」
「ちょっとー」

サムは下ネタでしか人を笑わせることができない部類の人間だった。私は馬鹿な人の方が好きだ。頭がいい男って、私みたいな女を凄い勢いで見下してくる。それが気にくわないし、童貞は面倒くさい。このクラブにいる人は、お互いを対等に対象として見てくれる。なんにも考えてなくても、いつの間にかレストルームでパンツをずらされてる。それくらいの強引さがないといけない。私はビッチだ。醜聞の中を駆け抜けるような女になりたいのだ。

サムはしきりに質問をしてきた。そして、私の回答を、いちいち馬鹿みたいな下品な話にかえて笑った。なのに、私がサムのことを聴くと、彼は適当なことを答えて、まともに取り合ってくれなかった。きっと彼は私をレストルームに連れていくのだと確信した。それはなんだかチープで、可愛らしかった。

このクラブの外に出ると、私はお嬢様になる。親は一流企業の代表取締役で、兄が跡を継ぐことになるだろう。私は、いい大学にはいり、卒業して、そうしたら、少しは働くだろう。でも、3年くらいしたら、十歳程度年上の人と結婚することになっている。その人は父の選んだいい人で、私はすっぽりと家庭におさまるだろう。そうしたら、私の人生は、とりあえず不自由になってしまう。こんなアンダーグラウンドな世界で、色んな男の子にプッシィを明け渡すような日常は、永遠に失われてしまう。なんだか悲しかったけれど、私がマダムになったら、こんな安いブランドでなくて、シャネルやティファニーに全身包まれて、社交界ではきっと私は美しい部類だろうから、ちやほやされて、スパに行って、いつか妊娠して子供を生む。家庭は円満にしたいし、その方が幸せだ。私と夫は、ルームメイトのようにそれを目指し、きっと成功する。私はいつだって、楽しい方へ、楽しい方へ向かってゆく。けれどその楽しい方というのは、人によっては不幸な方なのかもしれない。

サムは、やたら私の胸に執着した。私のEカップを揉んだり、吸ったり、つねったりした。なんだか赤ん坊みいだ。私の脳内では古い洋楽がガンガンループして、トランスしているようだった。思ったよりお酒を飲まされた。そんなに飲ませなくても寝てあげるよ、と思っていたのに。けれど、それがなんでなのか、私は簡単に理解できた。サムは私の首を、やたらしめてくるのだ。お酒のせいで、首を絞められると、なんだかそんなプレイをしているような気分になって、濡れた。サムは人を一人くらい殺してしまっているかもしれないけれど、ビートルズの暖かなロックに包まれて死ねるなら、それはそれで幸せかもしれないと思った。

サムは、メイクラブが終わると、私を置いてホールに帰ってしまった。私はトイレットペーパーを拝借して、汚れたところを拭った。彼とはこれっきりだ。服を直して、化粧と髪をどうにかして、水を飲んだら、ホールにかかっている曲が、クリアに聞こえた。ノリのいい曲だ。私はヒールを鳴らしてホールに戻った。肌が驚くほど冷たくなっているのがわかった。まだ熱気と肌の間にバリアーがあった。けれど、その熱はだんだん、私の肌に浸透してゆく。鮫肌のように、私はホールと一体になる。ゆらゆらと浮かぶ煙の中を泳いで、私はまた海に帰るのだ。


END



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