12 価値
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勇気を振り絞って扉の取手に触れる
いつまでもマルコさんの優しさに
寄生虫のように縋っていてはいけない
そう思うのに手が震える
戦闘で人を殺めてきたくせに1回犯されただけで
こんなにも人として、女として弱くなってしまうのか
相手はもう死んだのに
何をそんなに怖がっているのか
取手を持ったままかたまっていると
マルコさんがシャワーから戻ってきた
「アリア何してんるんだよい。」
隣にきたマルコさんに取手を持つ手を
優しくすくい上げられる
「いつまでもこのままじゃいけないと思って
出てみようと思うのに身体が動かないんです。」
「アリア、無理しなくていいよい。
親父達もこの船に乗っている奴らは
アリアには無理をして欲しくないって
思ってるよい。」
優しい言葉が心に染み込む
「それにおれの手伝いを
してくれてるんだからねい。
おれはすごく助かってるよい。」
「ありがとう、ございます。」
頬を涙がつたう
マルコさんの役に立ててる事が
今の私には唯一の救いだ
◇◇◇◇◇◇◇◇
マルコさんとの共同生活は続いていた
黒く焼けていた肌は
雪のように真っ白になっていた
私が書類の仕事をすると
マルコさんは外での仕事に専念できると
喜んでくれる
体の関係も続いていて
マルコさんのために生きることが
私がこの船に乗っていても
いいんだとさえ思う
扉の向こう側に感じる人の気配
誰もこの部屋には入ってこない
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