満ちていく
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別の船に移され暗く狭い部屋へと押し込められる
かび臭い部屋は窓もなくドアも施錠されていた

暴力をふるわれることはなかったが
与えられるのは質素なパンと水の飲みで

時折、聞こえてくる女の叫ぶ様な声と
男達の声でここは他にも女達が
いることがわかった

この部屋で考えることは
自分に力がないことの悔しさと
マルコの事だ

暴力を振るわれることはなかったが
食事をもってくる男の
ねっとりと絡みつくような視線が不快だった

時間の感覚はないが
この船に来て1週間ほどたった

身体が重たく寒い
熱があるな、と他人事のように思った

もちろん看病などされるわけもない
食事もとれないあたしを見かねて
食事をもってくる男が水をのませる

いつの間にか寝ていたのか
目が覚めると船は大きく揺れ
銃声や男達の怒号が聞こえてくるが
身体に力が入らないので
ただ床に寝転がるしかできない

爆発音と共に部屋の壁が壊され
外からの雨が身体にあたる

久しぶりに見た空は暗かった

打ち付ける雨がだんだんと
体温を奪い冷えていく

バンっという音ともに扉が開いた

視線だけ扉の方をみる

(マルコ・・・?)

自分は熱にうなされ夢を見ているのか
それとも死ぬ前の幻なのか

「アリアっ!!」

聞きなれた声が耳に響き
身体が抱き起こされる
暖かい温もりが肌に体温を戻してくれている

「大丈夫か!?
熱がおるじゃねェか!くそっ!」

「マル、コ・・・?」

「アリア、悪い・・・!
おれがそばにいれば・・・!」

マルコが泣いている
眉間に皺を寄せ苦しそうに顔を歪めていた

(泣かないで・・・)

そう思ったのに口に出すことができない
こんな顔をさせてしまう自分は最悪だ

もうマルコにこんな顔をさせたくない
強くならなければいけない

そう思うが耐えられずに瞼が閉じた

◇◇◇◇◇

次に目が覚めた時には
見慣れた部屋にいた
起き上がり部屋を見渡す

マルコと過ごした部屋だ
首を傾げていると扉が開き

マルコが入ってきた
起き上がっていたあたしを見て目を見開く

「アリアっ!」

「マルコ・・・」

掠れていて上手く声がでない

「アリア、2週間ほど意識が
戻らなかったから心配したよい・・・」

なんで自分が2週間も寝込んでいたのか
わからなかったが口から出た言葉

「あたし、マルコと離れる。」

あたしを見た時より更に目を見開いていた

それでも寝込んでいた前のことを
覚えていないとわかると
身体が回復したらと承諾してくれたのだ

歩けるようになり船を歩いていると
みんな心配して声をかけてくれた
意地悪なことを言っていたナース達の
姿がなくなっていたが
船を降りたのだろうと疑問にすら思わなかった


これが欠けていた記憶


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