涙だけは嘘を吐かない
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「まてよっ!俺が楽にしてやるって!」

後ろから聞こえてくる不愉快な声を
振り払いながら
裸足の足の裏が擦り切れそうなほど走り回る

「も、やっ・・・だ」

呼吸もまともにできない。
ドクンドクンと心臓が大きく鳴る。
足が絡まり体力のつきた馬のように
両足をふにゃふにゃと折って膝をつく

なんとか鍵が空いてる部屋を見つけ
滑り込むように入りクローゼットへと隠れた

親に捨てられΩ専用の施設で育ち
発情期を迎えないまま15歳になり
施設の紹介でメイドとして
働き始めて1年。

このまま一生来なくていいと
思っていた発情期が
なんの前触れもなく訪れた。

念のためにと付けている首輪。
首から下げている鍵を服の上から握る
冷たい感触が落ち着いた

ガチャリとドアが開く音

真っ直ぐと自分が隠れている
クローゼットへと向かってくる気配に
体が強ばる

古いクローゼットは
ギィィーと音をたてながら扉が開くと
真っ暗なクローゼットの中に差し込む光と
ニヤリと笑う男の顔

「隠れたって発情期のΩの
居場所ぐらいわかるよ」

この家の一人息子。
名門と言われる家系の
御曹司でαの男。

腕を掴まれクローゼットから
引きずり出され
ドンっと床へ投げられた

「っつ・・・」

押さえ付けられ
ビリッと布が裂ける音がする

「このためにお前を
買ってもらったんだ」

買う?
その言葉に頭が真っ白になる

「あたしは紹介でここに・・・」

「はっ!本気で思ってるのか?
お前がいた施設だって
俺らαが気に入ったΩを見つけるためのものだ
あの施設には容姿が整った者しか入れない」

見下した目と笑い声
ベロリと舐められる耳が
ゾワゾワと鳥肌が立つのに
気持ち悪いのに身体は熱くなる

『ここはΩ専用の施設なの
ここなら誰からも虐げられないわ。
安心してちょうだい。』

初めて施設に連れてこられた時に
優しい笑顔とともに園長に言われた言葉

Ωだとわかると
優しかった父や母、兄弟からでさえも
疎まれお前は恥だと言われ続けた。

デキが悪いと言われるΩでも
αやβにも負けまいと勉強も運動も頑張った。

奨学金で高校にも行けると言われた所に
園長から呼び出された。

『アリアさん。
あなたを是非雇いたいというお屋敷があるの
働いてみない?』

進学もしたいと思ったが
園長が折角仕事を紹介してくれるのに
進学を諦めメイドという仕事につたいのだ。
施設の先生達、優しかった雇い主
あれも全てはこのためか。

「お前は売られたんだ。
あの施設のΩ達はそういう運命なんだよ」

太股を撫でる手がだんだんと
スカートの中へと入る

すぐに良くなると
ハァハァと荒い呼吸が耳元で聞こえる

「い、やぁっ」

最後の力を振り絞り
思い切り男を蹴り飛ばした

「ぐっ」

うずくまる男の横をすり抜け
窓を開け足をかける

「おい!ここは5階だぞ!」

信頼していた者に裏切られるのはもう慣れた
それでも出てくる涙は何なのか

「こんな世界なら
あたしから捨てるわ」

腕を掴まれる前に
手を離し目をつぶった




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