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▼ なくさぬように

この家に住むこともだいぶ慣れた
夏から秋に季節も変わり
料理もできるようになった
1人で買い物にも行ける
もともと綺麗好きらしいクロロのおかけで
掃除なんてほとんどやることがないけど
空いた時間は読書をしたり
クロロがいる時はいろいろ教えてもらった

この数カ月で図太くなっと思う
何も言わないクロロに甘えて
居座っているのだから

目が覚めたのでベランダに出てみる

初秋の朝は肌にさらりとしていて気持ちがいい
ぐーっと背伸びをすると気持ちもひきしまった

生活費だと言って
結構なお金をくれるクロロ

その中で日常品・食事を買ってもだいぶ余る
秋になるし服を買っても余っていた
そのお金は部屋の引き出しに置いてある

もともと物欲がある方ではないから
そんなにお金は必要ないと伝えたが
ある分には困らないだろうと言われただけだった

朝食の準備をしているとクロロが起きてきた

「おはよう!珈琲でいい?パンもあるよ。」

「おはよう。珈琲だけでいい」

珈琲の香ばしい香りがリビングに広がる
クロロにはブラックで渡し
あたしは砂糖を二杯入れ
クリームを入れて丁寧にかき回し
ゆっくりと飲む

クロロとののんびりした朝は好きだ

「クロロ今日は帰ってくるの?」

珈琲を飲みながら聞く

新聞を読んでいるこちらを見ずに答える
「仕事だ。明日の夜に帰ってくる」

「そっか!じゃあ今日は適当になにか作ろーっと」

「あぁすまないな。」

「前から思ってたけどクロロって何の仕事やってるの?」

そこでやっとこちらを向く
その黒い瞳は何を考えてるのか全く読めない

「・・・盗賊だ」

表情を変えることなくこちらを見据えている

「え・・・盗賊って物を盗んだりするの・・・?」

「そうだ。欲しいものは必ず手に入れる。
そのために人を殺すこともある。
幻影旅団のリーダーが俺だ。」

最近観たテレビを思い出す
美術品が盗まれ警備員などもたくさん死んだ
その犯行グループが
幻影旅団ではないかとアナウンサーが言っていた

頭を鈍器で殴られた気分だった

この顔立ちが整っている青年をみて
あの幻影旅団のリーダーだなんて
思う人なんているのだろうか

クロロが言ってることが夢ではないかと
頬をつねってみる

「・・・いたい。夢かと思ったのに。」

そんなあたしの様子をみてクスクスと笑う

「俺が怖いか?」

「正直実感がわかない。
それよりさ。
あたしにバラして良かったの?」

実感がわかないのが本音だった
でも怖くはない

「かまわない。
お前が俺をどうにかできるわけじゃないしな」

「うー。確かに・・・」
勝てそうにないもんねと肩をすくめると
クスクスと笑われた

「・・・クロロはなんであたしを
置いてくれてるの?」

「何故だろうな。興味本位だ。」

「興味がなくなったら、追い出すの…?」

「・・・さあ。アラタ次第だな。
でもここにいることを
強制しているわけじゃない
出ていきたいなら出て行ってもいいんだぞ?」

「・・・っ!やだっ!」

思わず大きな声を出してしまった
恥ずかしくなり下を向き膝の上で
服を強く握った手を見つめるしかできなかった

あの家に連れ戻されるなんて
考えるだけで恐ろしい
好きな事ができ学べる生活を
知ってしまったあとなら尚更だ

優しい手つきで頭を撫でられる
「出ていけなんて言ってない。」

気持ちのいい暖かい手
クロロを見ると穏やかな顔をしていた

その手の温もりが嬉しく
自然と顔が綻ぶ

「・・・うん。クロロの役に立てるように
あたしなりにがんばる。」

この優しい手が人を殺してるなんて
やっぱり信じられない。

悪いことをしてる人だと知っても
今はまだこの温もりに甘えていたい

「期待してる」


そう言った彼の瞳に
一瞬見えた狂気じみた色には
気付かない

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