『俺が完全に狂う前にお前の手で殺してくれ 』



夢の中で旭は私にそう言った。
昨日も一昨日も、その前も。

何を言っているのだと笑うけど、彼は私の言葉に耳を貸さない。

今日は旭は笑ってた。
昨日は泣いてた。
一昨日も笑ってた。
その前は怒ってた。




「おはよう。」


学校で旭に挨拶すれば、旭も「おはよう。」と返してくれた。
いつも通り。
おかしなことは何もない。

ただ最近変わったことは、旭が部活に行かなくなったこと。

理由は知らないけど、避けてるみたいだった。
体育館を。バレーを。





『俺が完全に狂う前にお前の手で殺してくれ 』





まただ。
今日の旭は、泣いてもいなかったし笑ってもいなかった。
感情がないみたいに。
絶望を受け入れているみたいな表情。


「……わかった。」


今日、初めてそれを了承した。

旭の首に手を伸ばす。

触れたら、旭の呼吸が伝わってくる。



「旭は狂ってる。」

「ああ。」

「どうして私なの?」

「……とうしてだろうな。」

「弱虫。」

「そうだな。」

「へなちょこ。」

「ああ。」



私は少しずつ、手に力を込めていった。










「おはよう。」



いつも返してくれる人がいない。

つぎの日

旭は学校に来なかった。



俺が完全に狂う前にお前の手で殺してくれ