進む道は異なれど
「灯ちゃんは二口と別れたの?」
「…は?」
部活終了後に日誌を書いていれば、及川は相変わらず邪魔してくる。
「だって最近迎えに来ないじゃん、二口。
ちょっと前まではしょっちゅう来てたのに。」
純粋になんで?って風に聞いてくる及川。
花巻には一部始終話したけど、そういえば及川には話してなかった。
特に必要性も感じてなかったから話さなかったけど、別に隠すこともないから話すか。と、そう思った瞬間に及川の表情がニヤニヤ笑いに変わる。
「もしかして文化祭の時に喧嘩した?
それとも二口クンの浮気?
ほら灯ちゃん、やっぱり俺にしといた方がいいんじゃない?」
腹が立つ。
「ほんと及川って人の神経逆撫でするの上手いよね。
尊敬しちゃーう。」
「お!脈アリですか?」
「ナシ。」
いやポジティブ過ぎデショ。
「そこは乗っかってよ灯ちゃーん。」
笑いながら言う及川に、少しホッとしてる自分がいた。
『あれから及川さんとは普通に話すの?』
文化祭の時に聞かれた二口の問がぐるぐる頭の中を回る。
部活終了後に毎日私が書いていた日誌は、夏休み前から1年生のマネージャーと交代で書くようになった。
部の責任者ということで、キャプテンの及川は私の時も1年生の時も日誌が終わるまで部室に残らなければならない。
インターハイ後は事情を知っている花巻が一緒に部室に残ってくれていたけど、最近はまた及川と2人きりだ。
もちろんみんなでいる時は今まで通りだけど、2人きりだと心のどこかでは緊張感している自分がいる。
及川はどう思ってるんだろう。
そう思うことは多々ある。
今まで通りに振舞っている及川も、もしかしたら私と同じように思っているのかもしれない。
でも、そんなことは流石に聞けない。
「でさ、二口は結局なんで最近来ないの?」
日誌を書き終え部室の鍵をかけた頃、及川にもう1度聞かれた。
「……会いたいの?」
「会いたくはないよ?
でもほら、純粋な疑問?」
表情を見る限り、嘘はなさそう。
まあどっちでもいいんだけど。
「春高まで会わないようにしようって2人で決めたの。
試合が始まれば敵同士だしね。」
会って情報を漏らすとか、そんなことはお互い思っていない。
これはけじめだ、私達の。
「ふぅん。
…偉いね、二人とも。」
まさかそんなことを言われるなんて。
でも、そう思ったのは一瞬だった。
立場
ライバル
後輩
目指す場所
進む道は異なれど、見つめる先は皆同じ
それは仲間も敵も変わりなく
「烏野も白鳥沢も伊達工も倒して、絶対に俺達は全国に行く。」
「うん。
絶対できる。」
青城は強い。
何も不安なんてない。
校門には3人がいた。
「おまたせ」と声をかければ返ってくる「お疲れ」って声。
私はコートには立てないけれど、みんなの為なら何だってできる気がするんだ。
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