俺が握れるのは150円

「お前さ、来れないんじゃなかった?」

席に座る二口の向かいの椅子に座り、尋ねる。
俺が来たことで、二口はブッ!!っと吹き出した。

「花巻さんやばくないッスか!?」

二口はゲラゲラ笑う。
なんだか腹が立つし、戻ろうかと席を立つと、まあまあと二口に席に座るように促される。

「指名料とるぞ。」

「ここそういうお店なんすか?」

「違うけどそういうのも悪くないな。」

「じゃあアイディア料で指名料チャラにしといてください。」

せめて何か頼めとメニューを見せれば、じゃあアイスティーで。と答えたのでその旨を岩泉に伝える。

「なんで岩泉さんは普通なのに花巻さん達はそうなっちゃったんですか。」

まだ笑いが止まらない二口。
理由とか俺らが聞きてえよ。

「で、質問戻すけど、お前来られないんじゃなかったのかよ。
伊達工も文化祭って聞いたけど。」

もしかしてバックれてきた?そう聞いたら、二口はニヤリと笑った。

「…て思うじゃないすか?」

「?」

「なんとちゃんと許可を取ってきました。」

「…へぇ?」

詳しく聞こうと思った時、コトンとグラスが置かれる。

「ああ、あざ……ぶっは!!!」

グラスを運んできたのは及川。
やっぱり及川の破壊力には勝てなかったらしい。
ゲラゲラ笑う二口に釣られて俺も笑う。

「及川さん半端ねぇ!!
あ、今写真撮りました。」

「チョット!笑い過ぎ!!
それに写真も事後報告かよ!!
しかもなんでマッキーまで笑ってんの!?」

「これは慣れないわ。」

マッキーもちゃんと働いてよ。そう言いながら及川も椅子に座る。
いや、お前も座るのかよ。

「で、2人は何の話してたのさ?」

「伊達工も文化祭なのに何で二口がウチ来てるのかって話。」

「バックレ?」

「違いますー。」

話が元に戻る。
やっぱりバックれてきたと思うよな。
二口ならやりそうだもんな。


「茂庭さんに話したら鎌先さんが許可くれました。」


「「…へぇ。」」

「…ちょっともう少し反応してもらっていいですか?」

俺らの反応が薄いせいでつまらなそうな顔をする二口。
は、ざまぁ。

「文化祭って先輩らが主体なんすよ。
で、茂庭さんに文化祭途中抜けしたいって言ったらダメだって言われました。」

「許可もらってないじゃん。」

そう言って、及川は目の前にあるアイスティーを飲む。

「だから許可くれたの鎌先さんで。
…つーかそれ俺のなんですけど。」

「いいじゃん。
で、なんで鎌先クンが許可くれたのさ。」

「なんで店員が飲んだものの料金俺が払うんだよ…。
まあ、で、理由聞かれたから『灯さんのところが文化祭でメイド喫茶やるらしい』って言ったら、近くで聞いてた鎌先さんが許可くれました。
『お前のかわりに働いてやるからメイドの写真送れ』って言われましたけど。」

二口がそう言いながらニヤリと笑う。
なんとなく二口の言いたいことがわかった。

「へぇ。じゃあ鎌先クンは二口に騙されたんだ。
かわいそー。」

及川の嫌味に対して、二口はニッコリと爽やかな笑顔を及川に返す。


「大丈夫です。
もう写真はおくりました。
及 川 さ ん の。」


「はっ!?」
「ぶっ!!」

予想通りで吹き出す。
及川は、だからなんでマッキーはそんな笑ってんの!?なんて言ってるし、それと同時に二口のスマホはブーブーと着信を知らせる。

「それ、お怒り電話じゃねーの?」

俺が指させば、そっすね!と言いながらゲラゲラ笑う二口。
…茂庭も大変そうだな…。


「3人とも楽しそうだね。」


振り返ればそこには月島。
制服に着替えていた。

「あれ?なんで灯ちゃん制服?」

確かに、午前中いっぱいは店にいるはずだ。

「岩泉が、二口来たなら一緒に回ってこいって。」

「ヤダ、はじめくんったら男前。」
「岩ちゃん男前過ぎじゃない?」

少し離れたところにいる岩泉と目が合うと、こっちに歩いてきた。

「いい加減働け。」

「へーい。」

空返事を返す。
同じように返したのに、及川だけ何故か怒られてるのがいつも通り過ぎて笑えた。

「じゃあよろしくね。
何か欲しいものあったら連絡して。買ってくるから。」

二口が来てくれたことがよっぽど嬉しかったのか、月島は楽しそうにニコニコ笑う。

「二口、さっきのアイスティーの料金が150円な。」

「俺飲んでないのに…?」

ぼったくりかよ、そう言いながら小銭を俺に渡す。
まいどー、と声をかければ、月島が二口に左手を差し出す。

「じゃあ行こ、二口。」

しっかりと手を握って、2人は教室から出て行った。
それを見て、「はぁ…。」と落胆のため息を漏らしたのは俺と及川だけではなかった。

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