文化祭

「今日は二口来んの?」


文化祭当日。
開会式で前に並んでいた月島に尋ねると、月島は首を横に振った。

「来ないんだ?」

意外。

月島が写真を二口に送った日の夜、テンションが上がったのか二口は俺にまでLINE送ってきたのに。
何が悲しくて好きな女の子の彼氏とLINEしなければならないのか。
無視したけど。

「伊達工も文化祭なんだって。」

「へぇ。」

そう言うと、月島は前を向き直した。










開会式が終わると、各々部活ごとに持ち場へつく。
俺達も割り当てられた教室に入り、着替えを済ませた。

「……ほんと及川ひどい……。」

「ひどいって何!」

月島が笑いを堪えるけれど、俺と松川、岩泉は大笑い。

「それに今日は名字じゃなくて名前で呼び合うって決めたじゃん!」

及川はそう言って怒る。
そういやそんなこと言ってたな、及川が。

「徹ちゃんきっつーい!」

松川がそんなことをいい始め、本気で笑いが止まらない。

「…みんな、もう始まるから一旦落ち着いて。」

頑張って笑いを堪えてる月島にそう言われ、各々持ち場につく。
持ち場とはいっても適当に立ってるだけだけど。

「……お客さん来るかな。」

「…及川のファンならくるんじゃね?」

「あー……。」

隣に立っていた月島。
微妙な表情だ。



9時、文化祭スタート。



教室のドアを開けると、意外にも開店?待ちの列が短いながらも出来ていた。
……まあほとんどは


「「「きゃー!!及川さーん!!」」」


だけど。
その後も絶えず及川目当ての客は来た。
でも意外とそれ以外の客やら、クラスの友達も来てくれた。

で、意外にも及川教の次に多かったのは



「つ、月島先輩!
一緒に写真撮ってください!!」



そう言ってやって来る後輩だった。
しかも全員女の子。

「うん!もちろん!」

月島と写真を撮ってもらった子達は、嬉しそうに何度もお礼を言っていた。

「モテるネー。」

月島に声をかければ、月島はあははと笑う。

「おかげさまで。
まあやっぱり及か………徹には負けるけど。」

律儀にもわざわざ言い直す月島。
嫌そうな顔するくらいならしなきゃいいのにと思えば笑える。

「灯ちゃん!」

今のやりとりを聞いていたのか、張本人がこっちにやって来た。
……あー、やっぱりいつ見ても…


「今俺のこと名m「「ぶっ!!」」」


及川の言葉を遮るように、吹き出す。
月島も同様に。

「いい加減慣れてほしいんだけど…。」

「ち、違うんだって。
なんかはまってるんだよねぇ、お…徹は。」

あははははと大笑いをする月島と俺。
せっかく月島に名前で呼んでもらえたのに、及川は微妙そうだ。


「「及川さーん!
あたし達とも写真撮ってくださーい!」」


「呼ばれてるワ、徹ちゃん。」

そう言って及川を呼ぶ女子生徒の方を指せば、及川は溜息をつく。

「マッキーに言われても全然嬉しくないんだけど…。」

そして再び溜息をつくと、女子生徒の方へ歩いていく。
そこへ行く頃にはもう完全にいつもの良い顔を作っているところは流石及川。
……つーか…


「…名前で呼び合おうって言ったの及川じゃんね。」


溜息が伝染ったのか、月島もそう言って溜息。
それが俺にも伝染する。

「俺も思った。
別に呼ばれたいわけじゃないけどな…。」

思わず苦笑い。
今度は苦笑いが月島に伝染る。


「月島!」


突然、よく知った声がした。
そして俺が振り返る頃には、月島は声の主に抱き着いていた。


「夜久ちゃぁぁあん!!!」


相変わらず速いな。
苦笑いをしつつ、俺も夜久の方へ。

「月島のこと見に来たよ。
カッコイイね!」

「ほんと嬉しいぃ!
夜久ちゃんは今日もかわいいよ…!」

ハイハイと月島の頭を撫でて軽くあしらう。
それはなんとも慣れた様子だ。
まあ、そりゃそうか。

「花巻、写真撮ってもらっていい?」

「あいよ。」

夜久にスマホを渡される。
今の今までだらしない顔をしてたのに、写真撮るときにはしっかりキメるあたり流石だと思った。
…その辺及川と一緒だな。

「撮れた?」

「ん。」

「お、サンキュ。」

2人でキャッキャしながら確認する。

「大丈夫?」

一応聞けば、うん!と頷く月島。
そして


「ありがとね!貴大!」


……ほんと、ズルいよな。
たったこれだけで心臓が跳ねるなんて、ちょろいもんだと自分でも思うけど。


「名前で呼ぶようになったの?」

俺と月島の顔を交互に見る夜久。

「…なんか及…徹がね。
そうしようって。」

「ふぅん。」

夜久は俺の顔を見て、ニヤリと笑う。
……なんだよ。


「ねえ月島、私のことも名前で呼んで欲しいなー!」


「えっ!」

月島はキョロキョロと視線を泳がす。
意外。
月島のことだから、すぐに「杏華ちゃーん!」とか言うと思ったのに。

「「?」」

そして小さな声で言った。


「…きょうか…ちゃ……ん。」


「「…………。」」

月島は顔を赤らめている。

「…照れてんの?」

苦笑いで聞けばコクコクと何度も頷く。
夜久は、それがわかっていたかのように笑う。

「可愛いね、灯は。」

にっこり笑って、夜久は月島の頭を撫でる。
月島はもう倒れそうだ。

「おい夜久、死にそうだからやめてやれ。」


「花巻は月島のこと名前で呼ばないの?」


「…え。」

ニヤリと笑う夜久と、こっちを見る月島。
月島もだけど、特に夜久は全て知ってるからタチが悪い。

…でも、流石に言われっぱなしなのは癪だ。



「灯「あ!いた!灯さん!」」



………は?

人が意を決して呼ぼうとしたその瞬間、邪魔された。
しかもそいつは


「えぇ!?
なんで二口が……!?」


「だって灯さんの執事姿、生で見たいじゃないすか!」


伊達工業高校男子バレーボール部2年、二口堅治だった。



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