衣装あわせ

「ぶっ!!」

「マッキーなに笑ってんの!」

「だってこれは…ぶぶっ!!」

「マッキー!!」

ここは部室。
今日は練習のない月曜日。
練習はないけれど、部員はほとんどが集まって打ち合わせをしていた。
文化祭の。

「まだー?」

月島の声が聞こえる。
俺と及川と松川は、部室の奥の部屋で着替えをしていた。
月島だって俺らの着替え中に部室に出入りしてるから、本来は奥の部屋で着替える必要はない。
でも「せっかくだから」の月島の一言で、着替えてからみんなの前に出ていくことになった。

「これ…公開処刑だな。」

松川がそう呟く。

「…確かにキッツイな、これ。
及川は……ぶっ!似合ってるけど…。」

「ぶっ!!
ほんと及川似合ってる…!」

俺も松川も、及川を見る度に笑いが止まらなくてヒィヒィ言ってる。
さすが我らが主将様。
なんでも着こなす。

「ねー。まだー?」

また月島の声。

「もういいよ。」

俺達はドアを開けると、みんなの前に出た。
一瞬シン…となった後、全員が大爆笑。
岩泉でさえも笑ってた。

「キッツ!!」

ゲラゲラ笑いながら言う岩泉に、俺も松川もふざける。

「もうヒッドーイ!」
「ハジメくんたら嬉しいくせにぃ!」

もちろん裏声。
そこでさらに笑いが巻き起こる。

「ちょっともうヤメテヤメテ!」

月島もあははと笑いが止まらないみたいだった。
その視線の先は及川。
腹を抱えて笑ってる。

「き、着こなしてる…!
さすがはハンガー…!!」

笑いながらそう言う月島に、俺達も更に笑う。

「もう俺達いいデショ!
次!岩ちゃんと灯ちゃん!」

俺らは格好はそのままに、椅子に座る。
隣の及川のスカートをめくったりすれば、「もうやめてよぉ!」と裏声で言う。
なんだかんだ及川もノリノリである。

岩泉と月島は一緒に奥の部屋に入っていった。
それは月島が「スカートの下にハーパン履いてるしワイシャツ脱がないから大丈夫」って言ったからだ。

奥の部屋からは月島の楽しそうな声が聞こえてくる。
あー。そこかわれ、岩泉。

ひとしきり、楽しそうな月島の声を聞いた後、ガチャッとドアが開いた。


「「「おお……!」」」


最初に出てきたのは岩泉。
思いの外はまってて、全員が感嘆の声を漏らす。

「岩ちゃん似合ってるじゃん!」

「そうか?」

「うん!」

岩泉の曲がっていた蝶ネクタイを及川が直す。
それはギャルソンの蝶ネクタイをギャルソンより背の高いメイドが直す、なんともシュールな絵面だ。

ガチャ。

全員がシュールな2人に見入っていると、ドアが開く。
月島も来たなと思ってそっちを向けば、思わず声にでる。


「「「おおー!!」」」


明らかに岩泉の時よりも反応が大きい。
ある程度予想はしていたけど、それ以上。
思った以上に似合っている。


「灯ちゃん似合うね!!」


その言葉を先に及川に言われ、同じ言葉を飲み込む。
2番目に同じ事をいうのはなんだか嫌だった。

「そ、そうかな?」

及川の言葉に、嬉しそうな月島。
自分がその言葉をすぐ言わなかったことが悔やまれる。

「あの…月島先輩…!
一緒に写真撮ってもらってもいいですか…?」

1年のマネージャー1人が月島のところに行く。
月島は快諾して一緒に写真を撮っていた。

「灯ちゃん!
次俺と撮って!」

「え……。」

「なんで!?」

及川も同じように言うけれど、何故か引かれる。
矢巾が及川のスマホで撮ったけど、もちろん俺達も後ろに写りに行く。

「チョット!!」

確認した及川が怒り、ハハハと他の部員に笑われる。
そしてそれを皮切りに、順番に撮影会が始まった。


「ねえ花巻。」


「ん?」

みんなが及川達と写真を撮ってる中、月島が俺の方にやって来た。

「一緒に写真撮ろ?」

「いーよ。」

ニッと笑って写真を撮る。
自撮りだから邪魔者は誰ひとり写っていない。
写真を確認して、「やったー。」と笑う月島。
あー、かわいいな。クソ。

「あとさ、私のこと撮ってもらってもいい?
全身。」

「?いいけど。」

月島の全身を写真に撮れば、スマホを返す。

「ありがと。」

写真を確認したら、月島はスマホを操作し始めた。

「二口にでも送んの?」

揶揄うつもりでそう聞けば、月島はえへへと笑って頷いた。
マジか。

「せっかくだから送ってやろうと思って。」

楽しそうに笑う月島。
そんな月島は、先程より断然可愛くて幸せそうだった。
そうさせられる二口が、純粋に羨ましくて妬ましい。

ほんと、ちっちぇーな。俺。
当分はこの失恋から立ち直れそうにない。

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