文化祭の出し物2
「月島先輩!
もし良かったら、これ使ってください。」
部活前の時間、突然知らない子に話しかけられた。
学年章を見れば2年生だとわかった。
ケド、その子に見覚えはない。
「えっと………ごめんね、あなたは?」
「あ!
私演劇部の部長です!
突然すみません!
女装喫茶に決まってアメフト部がメイド服持ってったって話を聞いたんですけど。」
女装喫茶は決まった時にみんないたから知ってるのはわかるけど、アメフト部が衣装貸してくれたことまで知られてるんだ…。
「3着しかなかったと聞きましたので、せっかくだからこれを合わせて使って頂きたいと思いまして!」
ずいっと大きな袋を渡される。
……まさかこの中にはまたメイド服が……?
「よ、よければ中身を確認していただいてもいいですか!」
「あ…ハイ。」
恐る恐る中の服を取り出すと、私が考えていたものとは違った。
「…エプロン?」
ギャルソンっぼい黒いエプロンと黒ズボン。
しかもちょっと青城の制服っぽいチェック柄がアクセントで入っていてなんだかかっこいい。
「ご迷惑かと思ったんですけど、せっかくだったら合わせて使っていただきたいと思って作ってしまいました…!!」
「え!?
作ったの!?」
「はい!
黒い布が大量にありましたので!」
す、すごい。
こんな本格的なものを…。
「なのでもしお気に召すようでしたら使ってください…!」
「むしろいいんですか?
お借りしても…?」
「是非!」
「あ、ありがとうございます!」
好意に甘えて、借りることとなった。
「ついでにこれも作ってみたので是非。」と、メイド服用にもリボンを借りた。
縁取りがチェック柄の布でされている。
それがすごく可愛かった。
「失礼します!お「っっしゃぁぁぁぁあ!!」
「くっそぉぉぉぉおお!!」
……なんだなんだ。
私が部室に入れば、岩泉の歓喜の声と花巻の悲哀の声が同時に聞こえた。
「おめでと岩ちゃん。
そしてこっちの世界にいらっしゃいマッキー。」
部室では3年生4人を他の部員が囲んでいた。
「これ、何事?」
近くにいた矢巾に声をかけてみた。
「あ、月島さん。
お疲れ様です!」
「お疲れ様。」
「今文化祭の役割分担を決めてました。
腕相撲で。
岩泉さんが勝ちましたけど。」
「なるほど。」
腕相撲じゃ岩泉が圧勝じゃん。
そう思ったのは黙っておこう。
いつか勝てると思って挑戦し続けている花巻が不憫だから。
「あ、灯ちゃん!」
私に気付いた及川に、ちょいちょいと手招きされる。
「どうしたの?」
「文化祭のメイド、2人目はマッキーに決まりました!」
両手で顔を覆う花巻。
松川によしよしと慰められている。
笑いこらえてるけど。
「……がんばってね貴子ちゃん。」
私の一言で花巻以外の部員が吹き出す。
でも私は信じてるよ、花巻がいい仕事してくれること。
あと及川笑ってるけど、他人事じゃないと思うんだけどな。
「灯ちゃん、その袋は?」
そうだ。忘れてた。
「これね、演劇部の子が貸してくれたんだ。」
一瞬不安そうな顔をする4人だったけど、中の服を出せば「おお!」と歓声をあげた。
「すごいね!
いいなー!俺こっち着たい!」
「及川はメイドだからダーメ。」
「えー!」
ブーブーいう及川。
「いくつ借りたの?」
松川が袋をのぞき込む。
私は服を取り出すと、ズボンとエプロンが2着ずつあった。
「2人分か。」
「うん。
松川と岩泉で着る?」
2着を比べて大きい方を松川に………松川これ着れる?
「ちょっと松川立って。」
「ん。」
立った松川にスボンを当てる。
………。
「ちょっと短くね?」
「まっつん足長いからね。」
花巻と及川が口々に言う。
「…やっぱり?」
当ててみて短いから、履いたらもっと短くなっちゃうと思う。
……だめだ。
「……残念ながら…。」
ゲッて顔する松川と、ニヤニヤ笑う及川と花巻。
「やったわね!まっつん。(裏声)」
「一緒に頑張ろうね!松子!(裏声)」
2人の裏声にみんな笑う。
松川だけは椅子に座って苦悩のポーズみたいなのしてるけど。
「じゃあどうしよっか。
多分長い丈の方は岩泉なら長さ大丈夫だと思うけど…。
もう1着あるしね。」
この際メイド3人とウェイター1人でもいいか。
「月島さんが着たらいいんじゃないですか?」
「…え?」
振り返ると、国見と金田一がいた。
金田一は「バカっ!」って国見に小さい声で言っていた。
「…私?」
みんなの視線が私に向く。
私の視線はエプロンとズボンに向く。
「…私!?」
「はい。」
確かにこの服かっこいいとは思ったけど、自分が着るとなると話は別だ。
「いやいやいや!
私は裏方でいいから本当に…。」
「本物の女性も前にいた方がいいと思いますけど。」
「いや…でも似合わないと思うし……。」
「そんなことないと思いますけど。」
なんで今日の国見はこんなに食い下がる?
いつもはもっとめんどくさそうなのに。
「チョット国見ちゃん!」
私の後ろから及川の声。
うん、及川も国見に言ってほしい。
「いいこと言った!
今日の国見ちゃん冴えてるね!」
なんでよ…!
どうしたらいいのかわからないでいると、花巻と松川に肩をポンと叩かれる。
…………。
文化祭……どうなるんだろう………。
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