文化祭の出し物


『各運動部の代表者2名は、本日放課後、会議室に集合して下さい。』


その放送が掛かったのが昼休み。
そして今は放課後。


「行こう、灯ちゃん。」

「うん。」

私と及川は会議室に向かった。
その途中で夜久ちゃんと入江を見かけた。

「夜久ちゃぁん!」

後ろからギュッと抱きしめる。

「わ!
月島…!」

「月島勢い怖っ…。
……及川…ちゃんと掴んどいてよ。」

「まさか俺もこんな勢いで行くとは思わなくて…。」

「夜久ちゃんと入江も会議室でしょ?
一緒に行こー!」

まあ、夜久ちゃんのこと離すつもりなんて毛頭ないけど。

私達は4人で会議室へ行くと、中で部活名を書かされた。
そして好きな席に座れと案内された。
とりあえず夜久ちゃん達女バレが前で、私達男バレがその後ろに座る。

「及川はともかく、男バレは月島が来たんだね。
岩泉が来るのかと思ってた。」

確かに、どこの部活も主将と副主将で来ているところが多い。
もちろんウチ以外にも、副主将の代わりにマネージャーが来ているところもあるけれど。

「岩ちゃんには部活の方行ってもらった方がいいかなって。
あんまりこういうの向かないし。」

「「なるほど。」」


4人で雑談をしながら待っていると、生徒会長がホワイトボードの前に立つ。


「では時間になったので、今年度文化祭の出し物を決めたいと思います。」


そう、今日は文化祭の出し物を決めるために集められた。
これは毎年行われている。
文化部は基本的に、各々発表や展示がきまっているからいい。
問題は運動部だ。
運動部は模擬店をやることに決まっているけど、その内容は毎年変わる。

「では部活ごとにクジを引いてもらいます。」

その決定はくじ引き。
それも別に問題はない。
ただ、問題はこの後だ。


「では今年の新たな出し物を1つ、サッカー部お願いします。」


これ。

「へーい。」

サッカー部の主将が紙を1枚目入れる。
ゲラゲラ笑っているのはサッカー部の副主将。

実は文化祭では、運動部の数に対して模擬店の数が1つ少ない。
そこはどうとでもなっただろうと思うけれどならなかったらしい。
その残された1枠は毎年変わる。
それを決めるのは前の年にその1枠にはまってしまった部。
去年はサッカー部だったために、今年その枠を考えるのはサッカー部だ。
年によって内容は様々だけど、先輩に聞いた話しでは昔、雑技団みたいなことをさせられた部活があったとかなかったとか…。
嘘か本当かはわからないけど。
ちなみに一昨日はアメフト部が見事なチアリーディングを見せてくれたのが印象深い。


「ではまず、去年駐車場係をやっていたサッカー部からくじを引いて下さい。」


駐車場係か…。
地味にきついな…。
順番にくじを引いていく。
今年は無事、模擬店を引き当てたようだ。

「男バレって去年何してたっけ?」

入江は後ろを向いて聞く。

「私達のところは塩焼きそばだったよ。
女バレはアイス売ってたっけ?」

「うん。
夜久、塩焼きそば引いて。
私食べたい。」

「おっけ。
主食系狙う。」

「まって夜久ちゃんが焼いた焼きそば私も食べたい。」

「灯ちゃん去年焼きそばいらないって言ったじゃん!」

「だって及川焼くの下手なんだもん…」

「下手じゃないし!
俺の焼いた焼きそば超人気だったからね!」

「…それはさ……ね?」

私が「及川教の子達だから」っていう言葉を飲み込みつつ夜久ちゃん達の方へ目配せすれば、2人はうんうんと頷く。
わかってくれたみたいだ。


「……それどういう「あ!及川!次!男バレ!!」


めんどくさくなって及川の言葉を遮る。
でも、次が男バレなのは事実だ。

及川は前に行き、くじの箱に手を入れる。


「及川変なの引け!!」
「男バレゲテモノ枠!!」
「引け!」


ゲテモノ枠って何……。


「チョット!」

及川がディスられ過ぎてて、3人で笑う。
及川は箱の中から1枚の紙を取り出した。


「引けって言ったってまだ半分以上も残ってるんだから引くわけ…………。」


紙を開くと及川はそう言い残し、頭を抱えて膝から崩れ落ちた。

……は?

「お?」
「お?お?」
「まさか及川くん…?」

他の部活の人達に茶化すように言われる。
え、ちょっと待って。嘘でしょ…?
夜久ちゃんと入江もちょっと笑いを堪えてる。

生徒会の人が及川から紙を受け取ると、フッと鼻で笑われた。
そしてそのまま読み上げる。



「男子バレー部、女装喫茶です。」



爆笑するサッカー部。
つられてバスケ部もちょっと笑ってる。
けど、ほかの部は苦笑い。
みんな顔がちょっと引き攣ってた。

女装喫茶って………。















「みんなごめん…………。」

部活終了後、及川はみんなに頭を下げた。

「まあこればっかりは運だからさ…。
あんまり及川を責めないであげて。」

さすがに私もフォローを入れる。
岩泉あたりが何か言うかと思ったけど、そんなことはなかった。
ちょっと顔は引き攣ってるけど。

「女装喫茶って…。」

「なんかちょっと古いな……。」

松川と花巻がそう言う。
本当そう思う。

「去年駐車場係って書いたアメフト部の方がセンスあったと思うな、私。」

「確かに。
革命児だったな、アメフト部。」

「一昨年はアメフト部がチアやってたけど、見事だったね。
……アメフト部すごいな。」

2年生と1年生を差し置いて、私達3年生は思い出に浸る。
………女装喫茶か………。



…………まぁ、私関係ないけど。



「あの……先輩方……。」

「ん?」

私達3年生がお葬式みたいな雰囲気になっていると、マネージャーの1年に呼ばれた。
何かダンボールを持っている。

「どうしたの?これ。」

「アメフト部からです。
よければ使って下さいって。」

「?」

みんな訳が分らないまま、ダンボールを開ける。
するとそこには


「……メイド服…?」


黒を基調とした、ちょっと可愛い感じのメイド服。
………待って待って。

「…なんでアメフト部がこんなものを………。」

みんながアメフト部に対して不信感を抱き始めた。
アメフト部……。
マネージャーの子はブンブン首を振る。

「違うんです。
えっと…アメフト部の主将さんが言うには、アメフト部でも前にメイド喫茶させられたことがあったらしくて…。
大きいサイズはなかなかないし、もういらないから、って。」

………ごめん、疑って。

服を出すと、確かにかなり大きかった。
これなら金田一でも着られそう。
本当アメフト部、凄い。
なんかもう、いろんな意味で。



「……で、誰が着る?」



松川がそう切り出す。
みんな静かになった。


「…とりあえず1人は及川な。」


「え、チョットまっつん!?」

「引いたの及川だしな。」

「そうだな。」

そんなわけで、1人は及川に決まった。
借りた服は3着で、あと2人分空きがある。

「…1、2年生にやらせんのは可愛そうだよね…。」

「「「………。」」」

誰も何も言わない。
……そりゃそうか。


その日は下校時間のこともあり、一旦帰る事となった。


文化祭まで残り約2週間。



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