伊達工業



伊達工に来ました。


門の前でキョロキョロとしている様子は、傍からみたら怪しいことこの上ない。
しかも伊達工生じゃなくて青城生。
超怪しい、私。

どうして今日、ここに来たかと言えば、2日前に遡る。

2日前、二口からLINEが来た。
それは簡潔に言えば『デートしません?』というもの。
二つ返事で私は了承した。

伊達工まで来い、なんて言われてないし、本当は駅集合なんだけどそれまで時間がある。
折角だし、伊達工まで言っちゃえ!そう思って来たものの、どうしたらいいかわからない。

時間的にはもうすぐ部活も終わる筈なんだけどな…

そう思ってまたキョロキョロすると、なんか見たことのある顔が2人。
その人達も心当たりがあるのか、ばっちり目が合った。
そしてそのまま私の方に近付いて来る。


「何か用か?」


怖っ…。
すごく威圧感があった。
特に背の高い方の人。

「えっと…その……。」

思わずたじろぐ。
すると、チッと舌打ちされた。
え…怖い……。



「青城のマネージャーさんが何かご用ですか!」



……え?
なんで知って……


「あ!!」


私の声に、びっくりする2人。
そうだ、この2人は…

「伊達工のバレー部の人…!」

そうだった!
名前は覚えてないけど、伊達工の3年生。
二口の先ぱ…



「ちょっとぉ!!
鎌ち!!ささやん!!」



声の主の方をみる。
私だけではなくて目の前にいる2人も。
鎌ち?
ささやん?
こっちに走ってくるのは黒髪で小柄な人。
この人は知ってる。
元主将の茂庭くんだ。

「2人とも何やってるんだよ!
すみません……この2人に何かされてませんか?」

「なんでだよ!」

背の高い方の人は怒ってて、もう1人の黒髪の人は苦笑いしていた。

「だ、大丈夫……何もされてない…です。」

ちらっと見れば、ジッと睨まれた。

「………。」

ちょっとだけ茂庭くんの後ろに隠れる。

「鎌ち!怖がってるじゃん!」

「知らねぇよ!
大体青城のマネージャーがウチに何しに来てんだよ!」


「え?青城のマネージャー?」


茂庭くんは振り返って私を見ると、「ああ!」と納得。

「どうして青城のマネージャーがウチに…?」

「偵察か?」

私はぶんぶんと首を横に振る。

「あの…二口と約束してて…。」



「「「……は?」」」」



3人がぽかんとした顔で私を見た。


「え…何で二口……?」

茂庭くんに聞かれ、黒髪の人はハッとする。

「あれか!
二口が言ってた!!」

「あ!!
あれか!!」

「え!
それって青城のマネージャーだったの!?」

びっくりした。
突然3人であれかあれかと大声で話始めたから。
……一体何があれなんだろ。

「…あの……。」

意を決して聞いてみた。

「ああ、悪ぃ。
なあ、二口が来るまで暇だろ?
俺達とちょっと話さねぇ?」

「……え。」

なんか怖くて、思わず1歩後ずさりする。
そうすれば茂庭くんがべしべしとその人を叩いた。

「鎌ち言い方!!
…でも、もし良かったら暇潰しがてらどうかな?」


…まあ茂庭くんが言うなら。

「うん。是非。」





伊達工から少し歩いたところにファストフード店があり、そこに入った。
そこにいると、二口に連絡しようとしたら止められた。

「いいって、俺がしとくから。」

黒髪の人はそう言ってニヤッと笑う。
何か企んでるのかもしれない。
各々好きな物を注文して、席につく。
私は飲み物だけだけど、3人は食べ物もいくつか頼んでいる。
伊達工生3人と青城生1人。
うん、なんか変な組み合わせだ。

「じゃあ一応自己紹介からね。
俺、元主将の茂庭。
で、こっちがささやんでそっちが鎌ち。
よろしくね。」

「月島灯です。
よ、よろしく。」

私がペコリと頭を下げると、鎌ちとささやんもよろしく、と頭を下げる。



「……で。」



そう、ささやんが切り出す。


「二口とはどういったご関係で?」


「ささやんが言うとお父さんって感じするな!」

私の隣でゲラゲラ笑う茂庭くん。
笑い過ぎじゃない?

「一応…お付き合いさせてもらってます……。」

思わず敬語になる。
まだちょっと怖い。

「結局そうなったんだ!
二口からはちょいちょい聞いてたからさ!」

茂庭くんにそう言われた。

「え?そうなの?」

意外だった。


「じゃあみんな、私のこと知ってたの?」


3人とも、頷く。
まさか二口が先輩に私のこと話してたなんて。

「だから俺もちょっと気になってたんだけどさ、安心した。」

茂庭くんがそう言って、ふんわり笑った。















「え!
鎌ちも甘い物好きなの!?」

「結構和菓子とか好きだな。
特に白あんの最中。
あれ旨いんだよな。」

「わかるー!
私和菓子も好き!
大通りにある和菓子屋さんの美味しいよね!」

「俺あそこのポイントカード3枚目だから。」

「すごい!
私まだ1枚目がやっと終わったとこなのに!」

あれから3人と少し話して、かなり打ち解けた。
もう怖くない。
それに鎌ちと好みが合うとは思ってなくて、ほんとびっくり。
…そういえば

「ねえ、いつも部活って何時までやってるの?」

思ったより時間が経っていた。
でもまだ二口は来ない。

「もう終わってると思うけどなぁ。」

「そっか。
じゃあそろそろ…」



「月島さん!」





突然名前を呼ばれて振り返ると、そこには二口。
走ってきたのかぜぇぜぇと肩で息をしながら近付いてきた。

「ちょ…なに、走ってきたの?」

コクコク頷く二口に、とりあえず自分の飲み物を渡す。
それをもう、イッキだ。

「まあ座れって二口。」

鎌ちが近くの席の椅子を引き、誕生日席を作る。
ちょっと嫌そうな顔をして、二口は渋々椅子に座った。

「つーか何すか笹谷さん。
変なLINE送んのやめてください。」

そう言えばここにいるって連絡したのはささやんだ。

「なんて送ったの?」

ささやんに聞けば、見せてくれた。


『お前の彼女は預かった。
危害を加えられたくなかったら走って来い。』


「…ぷ。」

思わず吹き出す。

「何笑ってんすか。」

二口はちょっとムッとした顔をする。

「だって本当に走ってきてくれるなんて…。
てゆうか、ささやんも変なLINE送んないでよ。」

「俺も本当に走ってくるとは思わなかった。」

「それな!」

ささやんと鎌ちは大笑い。
二口はちょっとずつ不機嫌になる。
……ちょっと言い過ぎちゃったかな。



「だって大事な彼女なんだから当然じゃないっすか。」



………。

「「「………。」」」


ムッとしたままそう言い放った二口。
私を含め、4人ともぽかんとしてしまった。
そのうちに二口は立ち上がると、私の手を引く。
されるがまま、私も立ち上がる。


「じゃあ俺ら、お先に失礼します。
行きましょ、月島さん。」


二口は私の手を引いたまま、その場を後にした。
後ろから3人の茶化す声が聞こえ、熱が顔に集まる。

大事な彼女……。

嬉しくってちょっとむず痒い。
二口の横顔を見れば、二口もちょっと顔が赤かった。

「…ねえ二口。」

「…なんですか。」

「敬語使わないでいいよ?」

「………わかった。」

手は繋いだまま。
でもキョリがさっきよりも縮まった気がする。


「つーかさ……。」

「ん?」


「いつの間に鎌先さん達と仲良くなってんの。」


ちょっと怒ってる。

「ヤキモチ?」

「…別に。」

フィッと顔を背ける。
なんか可愛い。

「たまには私が伊達工に行ってみようと思ったの。
そしたら茂庭くん達に会って、ちょっと話してたんだ。」

「へぇ。
なんの話し?」

「二口のこと。」


「……は!?」


バッと私の方に振り返る。
驚いてる二口の顔がちょっと面白い。

「二口、私のこと鎌ち達に言ってたんだって?」

ニヤッと笑うと、二口は首を傾げた。


「……言ってない。」


「え?」

…話が違うな。

「…確かに茂庭さんには相談したけど、鎌先さんには言ってない。」

「…そう。
……二口が茂庭くんに話すの聞いてたのかな?」

「……そうかも。」

鎌ち……。

「まあいいや。
ね、どっか行きたいとこある?

灯……さん。」


灯……さん。
名前を呼び捨てようと思ったけど、出来なくてそうなっちゃったのかな。
…ちょっとキュンとする。
でも敢えてその事に触れるのはやめよう。

「二口は?
お腹空いてない?」

「……めっちゃ腹減った!」

ああ、可愛いなぁ。
思わず笑いが溢れる。

「じゃあ久しぶりに私が奢ってあげる。」

「マジで?
俺、結構食うよ?
遠慮しないよ?」

「……大丈夫!」

「何その間。」

聞き覚えのあるやりとり。
いつの間にか、二口も笑ってた。

「安いところでいいよね?」

「全然いいよ。」



久々に、二口の食べっぷりを見てやろうと思ってる。


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