可愛らしい方


ギシギシと音を立てて牛車に揺られる。
実家に戻ったのはほんの2日だったけれど、色々なものを見たように思えた。


姫様の家に着くと、今日も人だかりができていた。
そのために裏口から中へ入る。
そして姫様の部屋の前まで行くと、奥から話し声が聞こえた。
御簾に映る人影も、姫様一人だけではない。

「…姫様?」

お声をかけると、返事が返ってきた。
中へ入ると、そこには姫様の他に男の方。

「四の姫おかえり。」

「ただいま戻りました…。
…こちらの方は?」

「俺の友達。」

「お友達…?」

驚いた。
常に人の目というものから隠されていた姫様を、というか姫様の秘密を知っている方が他にもいたとは思わなかった。

「すごい驚かれてるけど。」

その方は、私を見てクスクスと笑った。

「四の姫は俺に友達なんていないって思っただろ?」

「……申し訳ありません。」

「肯定されてるな。」

お二人は楽しそうに笑う。
ひとしきり笑えば、ご友人の方は私にぺこりと会釈する。

「…松川一静と申します。
花とは昔馴染みなんだ。
父同士が仲が良くて、昔から外にあまり出ることのないこいつの話し相手にさせられていた。
同い年だということもあってね。」

以後、よしなに。
そう言う一静様がとても落ち着いた雰囲気を持っていて、慌てて私も頭を下げる。

「私は姫様の家庭教師を勤めさせていただいております、高階成忠の四女にございます。」

「なるほど、高階公の四の姫か…。
どうして家庭教師を?」

「はい。
勉学が好きな私のために父上がこの話を持ち掛けてくださいました。」


「……へぇ。」


その後、一静様は色々な話をして下さった。
特に盛り上がったのはお2人がお子の頃のお話。

けれど一静様も、なぜ姫様が姫様であるのかを話されることは無かった。
3人で話をしていて、そろそろ夕刻になろうかという時


「一静様。」
「お迎えに上がりました。」


いつからいたのか、御簾の外には2人の男性の影。

「もうそんな時間か。
わかった。」

「また国見と金田一のお迎えか?」

帰り支度をさせる一静様に、姫様はヘラリと笑う。

「姫様もお知り合いの方ですか?」

「まぁな。俺らが子供の時から松のそばにいたし。
お付きの奴らだよ。」

「折角だから四の姫に紹介するか。
国見、金田一。」

一静様の呼びかけに、2人の男性が部屋に入る。
そして私にお2人を紹介してくださった。

「じゃあね、花、四の姫。
また近いうちに。」

一静様が部屋を出られる。
その時、

「……四の姫様」

勇太郎殿に呼び止められる。

「はい。何でしょうか。」



「……貴女は早くに「金田一。」」



途中、英殿に遮られ、勇太郎殿の言葉を最後まで聞き取ることが出来なかった。

「……申し訳ありません。
では、失礼致します。」

言葉の続きを聞く間もないまま、一静様方は行ってしまった。

「姫様のことをご存知の方は他にいらっしゃるのですか?」

「いや、松達くらい。」

「そうですか。」


「……四の姫何かあった?」


「え。」

ジッと私の顔をのぞき込むようにして、姫様は訊ねる。
何も無かったといえば無かったし、あったと言えば…………。

「急に四の姫顔赤くなったけど?」

「ちっ…!ちがいます!!」

思わず大きな声を出してしまい、口を塞ぐ。


「まあいいけど。
……四の姫って宮仕えしたいって思ったことないの?」


「宮仕え?」

脈略のない話で、思わず聞き返してしまった。

「どうして急に?」

「……四の姫の友人が入内したっていうから、もしかしたらそのまま宮仕えしちゃうんじゃないかと思って。」

目線は泳ぎ、ふいっと顔を逸らされる。

「そしたら……ちょっと寂しいし。」

て……照れていらっしゃる?
いつも余裕そうなあの姫様が……?
それに少しだけ見える姫様の耳は赤く色付いていて、私のことばかり言えないじゃないかと思わず笑う。

「四の姫笑ってるでしょ。」

頑なにこちらを向かない姫様に、私が笑っているのか知りたければ私の方をご覧になってはいかがですか?と、そう声をかけたら口を閉じてしまわれた。

可愛らしい方だと、そう思ってしまった。
あながち噂も間違ってはいないみたい。


[ 7/9 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]