汗と理性


練習試合が終わったころ、クロが選手達の元へ行くというのでついて行った。
選手達はクロに気付くと、「ちわーす!!」と元気な挨拶をする。
練習とはいえ試合の後なのによくこんな声を出せるなと感心してしまう。

「黒尾さん!お久しぶりです!
……彼女ですか!?」

クロに近付いてきた長身の…外国人?いや、ハーフかな?
クロよりも大きなその子の視線がクロから私に動く。

「よぉリエーフ、またでかくなったか?
こいつは…まあそんなもんだ。」

いやいや彼女じゃないじゃん。
そうつっこもうかと思ったけど、その前に「すげー!!」という声と人がワラワラ集まって来ちゃったからめんどくさくて辞めた。

「…こんにちは。」

とりあえず外向けの笑顔を貼り付けて挨拶をする。
集まる中には先程の山本クンの姿もあり、確かに彼は目立ちたくないと思うタイプではない事がすぐわかった。

……みんな純粋そうだなぁ。

とにかく全員に共通して思ったこと。
私とは住む世界の違う人達。


「………柚瑠?」


名前を呼ばれ、その方向に視線を向ける。
記憶の中の声よりも低く、私よりも低かった身長も見上げなければ目を合わせられなくなっていた。
でも、猫のような目には当時の面影がある。

「久しぶり、研磨。」

「え…なんでここに?」

「昨日クロと偶然会って、今日部活に顔出すって言うから付いてきちゃった。
研磨もいるって言うし。」

「そうなんだ…。
まさか会えるなんて思ってなかったから。」

「だよね。私も。」

私と研磨の会話を聞いて、「黒尾さん話が違くないですか?」と誰かが言う。

「柚瑠、クロと付き合ってんの?」

嫌そうな表情に変わる研磨。
すぐに首を振る。

「付き合ってないよ。」

「柚瑠ネタばらし早すぎダロ。」

ケラケラと笑うクロ。

「そんなこと言われても…。
あ、それより研磨、髪の色すごいね。」

「え…あ、うん。」

また嫌そうな表情。
考えてることがすぐ顔に出る所なんて全然変わってなくて笑える。

「あの研磨が女子と話している…」

そうボソッと呟いたのは山本クン。
意外にも話しかければ、「ひゃいッ!」と悲鳴みたいな返事をされる。
中々話が進まず、なんとか同い年だというところまで話すことができた。

ここまで女の子に慣れてない子は逆に可愛い。

子宮が疼く。
体育館に充満する汗の匂いが、私を求めるベッドでの汗の匂いと脳が混同し始めた。

ホント、嫌な性分。

本能的にも理性的にも、真逆の意味でそろそろ嫌になってきた頃、研磨達が監督に呼ばれた。
クロも呼ばれたため、私は一言伝えて体育館の外にでる。
そこで、よく聞きなれた声に呼ばれた。

「浴西?」

「あ、赤葦。」

「やっぱり浴西だったんだ。」

練習試合の時、赤葦は私に気付いていたらしいけど、クロと一緒にいるし音駒の人達と話してたから不思議に思ったらしい。

「クロと研磨、幼馴染なの。
幼馴染って言っても会うのはすごい久しぶりだけどね。」

「へぇ。
世間は狭いね。」

「ほんとそう思う。」

「……安心した。」

「うん?」

「学校来てなかったし電話も出なかったから。
俺、避けられてるのかと思ってちょっと不安だった。」

赤葦はそう言って優しく笑う。
その瞳に、吸い込まれそうになる。

…また、子宮が疼き出す。

最近の私はおかしい。
不安になったり欲情したり、理性が機能していないみたいに。
思わず、赤葦の薄い唇を見つめてしまった。


「赤葦ー!」


ハッとする。
私の理性を呼び起こしたのは、赤葦を呼ぶ梟谷の選手の誰かの声。

「そ、そろそろ戻らないとなんじゃない?」

「そうだね。残念だけど。」

赤葦の言う残念が何を指すかは分からないけれど、私も同じことを思う。

「浴西さ、よかったら今日一緒に帰らない?
これからミーティングだから少し待っててもらうようなんだけど。」

「え?」

チラリと体育館を覗けば、未だに音駒の選手達と楽しそうに話すクロ。
明日は月曜日だから今日は多分家に帰るだろう。
ただ……。
今の状態で赤葦と帰るのは、もしかしたら赤葦を困らせてしまうことになるかもしれない。

「厳しそう?」


ケド……


「わかった、待ってる。」


迷惑をかけてしまうことになるのはわかっている。
でも……私の理性は本能を抑える役目をとっくに無くしていた。





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