金髪のプリンは目立たない

再び目を覚ますと、もうベッドの中にクロはいなかった。
時計を見れば、8時。
フラフラとリビングに向かえば、バスルームからシャワーの音が聞こえる。

私がシャワー浴びたかったのに…。

コーヒーを飲みながらテレビを見て待てば、シャワーを終えたクロが出てきた。

「お、柚瑠。
勝手にシャワー借りた。悪い。」

「……。」

「柚瑠?」

何も答えない私の顔をのぞき込むクロ。
それに合わせて私も違う方を向く。

「何?拗ねてんの?」

顔を見なくても、ニヤニヤ笑っているのがわかる。

「…別に拗ねてないし。」

「悪かったって。
俺が急にいなくなって寂しかったんダロ?」

頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でられる。
別にそうじゃない…とも言えない自分がいる。
朝起きた時に誰かがいるのなんて、いつぶりだろう。

「クロのばーか。」

「へいへい。」












「おまたせ。」

「おう。」

先程、1度家に帰ると言ったクロ。
日曜日なのに何故かと聞けば、今日は母校のバレー部で練習試合があるらしい。

『研磨がいるけど、お前もくる?』

懐かしい名前だった。
小学生の頃はよくその3人で遊んだ。
私は二つ返事で一緒に行くことになったのだが、それまで時間があったので1度解散となり、音駒高校の最寄り駅で再度集まることとなった。
集合場所に着くと既にそこにクロはいた。

「待った?」

「いや、俺も今来たとこ。」

「100点満点の答えだね。」

「バカ野郎。
引く手数多のこの俺がそんなところで引っかかるかよ。」

キリッと効果音がつきそうな顔で私の方をみるから、思わず鼻で笑ってしまった。

「引く手数多って言い方古…。
それに冗談はそのふざけた髪型だけにして。」

「なんてこというの柚瑠チャン…。」

そんな風にふざけていれば、すぐに音駒高校に到着した。
私は初めてなので、クロのあとに付いていく。
体育館の近くまでくれば、ボールが床を弾む音や叩き付けられたような音が大きく聞こえた。

「とりあえず体育館のギャラリー行くぞ。」

「おっけー。」

階段を上りギャラリーにくれば、何人か既に先客がいた。
女バレの子だったり、クロみたいに男バレのOBもいるみたい。

上からコートを見れば、あることに気が付く。


「対戦相手、梟谷じゃん。」


赤い短パンの向かいのコートにいる選手達には何人か見覚えがある。

「そっか、お前梟谷だって言ってたもんな。」

「うん。
バレー部はだいたいみんな顔見知り。」

梟谷の選手達の真ん中にいるのは赤葦。
教室でみる赤葦とは、なんだか少し違って見えた。

…というか……

「ねえクロ、もしかしてなんだけど…」

「ん?」


「あの金髪のプリンが研磨……?」


私の知っている研磨の印象は、大人しくて静かな子。
あ、そういえばゲームも好きだった。
とにかく目立たないで、悪くいえば教室の隅にいつもいるようなタイプだったはずなのに……。
クロがブッと吹き出す。

「確かに、初めてあの髪型みたらびっくりするよな。」

聞けば染めた理由は目立ちたくないから。
もう大混乱。

「えっ…じゃあもしかしてあのモヒカンの子も本当は目立ちたくないの…?」

「いや、山本は目立ちたくてあの髪型だと思う。」

「…もう頭使わせないで。」

はぁ、と思わずため息が漏れる。
それを見てニヤニヤしてるクロがまた腹立たしい。


ピーー!!


そんなやりとりをしていると、ホイッスルが鳴る。
選手達が整列をしてお互い挨拶をすれば、それは練習試合が始まることを告げていた。




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