盗難注意




ヴー…ヴー……



部活が始まるまでの時間。
金城と大学の学食にいると、スマホが着信を知らせた。

「電話か?」

目の前に座る金城に尋ねられ、名前を見る。

「なまえからァ?」

それは妹からだった。
普段はLINEで連絡することがほとんどで滅多に電話なんてかかってこないのに。
通話をタップして電話に出る。

「どしたァ?」

けれど、なかなか話し出さない。

「おい!」

イタズラか?
そう思い始めた時、電話の向こうからなまえの声が聞こえた。


『…や……やすともォ………。』


なまえの震えた声と、ズッ…と鼻を啜る音。

………は?


「なに…お前泣いてんの……?」


俺のその問に、金城が驚いた顔。
相変わらず電話の向こうからは鼻を啜る音が聞こえている。

「どうした?」

『……私の…自転車がぁ………。』

「チャリがァ?」


『……無いの……。』


「………。」

そう言って泣くなまえ。
……マジか。

「お前さァ、今どこにいんの?」

『…バイトの最寄駅……。』

「わかった。
行くからちょっとそこで待ってろ。」

『うん、わかった…。』


俺は電話を切ると、目の前に広げていたノートやらを片付ける。

「悪ィ金城。
ちょっと部活遅れるかもしれねェから伝えといてくれるか?」

「わかった。
なまえ、どうかしたのか?」


「チャリパクられたらしい。」















「なまえ!」

「…靖友。」

30分程経ち、なまえの待つ駅まで来た。
ベンチに座っていたなまえに声をかければ、俺の方に駆け寄ってくる。

「他んとこに止めたりは?」

「ううん……周りも探したんだけど無くて……。」

「そっか。
警察はァ?」

「まだ…。」

「じゃあ行くか。」

自分のチャリを止め、なまえを連れて交番に行った。
ここに来る前、一旦家に帰って取ってきたなまえの自転車の書類を出し、被害届を提出した。

「では被害届を受理します。
もし何か他のことがわかったら直接警察署に行ってください。
…出てくるといいですね。」

婦警にそう言われて「よろしくお願いします。」と俺は頭を下げる。
なまえも同じように言って頭を下げた。
けど、その声はかなり弱々しかった。

…まァ、当然か。

「…俺、部活戻るけど…大丈夫か?」

「うん。
……ごめんねェ。靖友。」

「気にすんな。
今日は早く帰っから。」

「…うん。」

なまえの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫で、俺は大学に戻る。
そしてすぐに部活に行き、遅れたことを詫びれば、先輩と金城に「大丈夫だったか」と心配された。
金城がうまく説明してくれたらしい。
先程までの流れを説明すれば、先輩は盗難車についての知恵を貸してくれた。


部活が終われば、他の先輩からも色々教えてもらった。
「早く帰ってやれ」と言う先輩の好意に甘え、俺は部活が終わるとすぐに家へとチャリを飛ばした。


「ただいま。」


まだなまえは塞ぎ込んでるだろうか。
そう思って家の中に入れば、なんてことはない。


「靖友おかえりィ。
もうすぐご飯できるヨ。」


夕飯を作るなまえは、いつもと違わなかった。

「…お、おう。」

本当はチャリの盗難なんかなかったんじゃないか?そう思わせるほどだった。
でも、自分のチャリをスタンドに置けば、いつも隣にあるはずのもう1台はやっぱり無い。

「…なァ。」

「ン?」

「これ。
先輩から。」

「?」

先輩がメモしてくれた紙をなまえに渡す。
文字が羅列しているその紙を見て、なまえは首を傾げた。

「それ、チャリの中古店。
たまに盗難車とかも売ってるらしいから探してみろってよ。」

「!!」

なまえは夕飯を作り終えると、すぐにパソコンを開いて書かれている店を検索し始めた。

「靖友は先食べててェ!」

「ん。」

飯の前に風呂入るか。
まだなまえは時間がかかりそうだしな。

そう思って風呂のドアを開ければ、すでに湯船には湯が張ってあった。
湯に浸かれば適温。
よく出来た妹だと思う。


「靖友!!」


風呂から上がれば、なまえの声。

「ンダヨ…。」

「見て!これ!」

なまえが開いているページは新着の商品のページ……って


「お前のじゃねェか!」

「だよね!?」

本体はなかった。
でも、この特徴のあるサドル。
そしてこのライトやサイコン、クランクの並びはどう考えてもなまえのものだった。


「見つけたァ……。」


ギラギラと目を光らせるなまえ。
…怖ェ顔してんな…。


つぎの日、なまえは俺を連れて警察署に行った。
昨日印刷したページとチャリの写真を見せて、被害届を出し直した。


その後、証拠があったおかげで1ヶ月もしないうちになまえのロードバイクは見つかった。
「なくなってたパーツもあったけど、とりあえず出てきて安心した。」と、なまえはそう言って安心していた。

しかし、長かったのはここからだった。


「…長かったな。」

「…長かったね。」

なまえの元にロードバイクが戻ってきたのは、盗難に合ってから5ヶ月後だった。


自転車の盗難にはくれぐれもお気をつけください。

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