hurricane mixed twins 2
高校を卒業してから2ヶ月。
俺は静岡にやってきた。
ピンポーン。
インターホンを鳴らすと、ガチャッと鍵が開く音。
そしてドアが開いた。
「どちら様ァ…って新開!
久しぶりダネ!」
中から出てきた女の子、なまえは俺のことを睨みつける。
多分本人に自覚はないと思うが。
「久しぶり、なまえ。
靖友いる?」
「靖友ォ?
まだ帰ってきてないけど……何か約束してた?」
「あれ?
何にも聞いてない?」
約束とかそういうことにマメな靖友が珍しいな。
「あのボケナス……。
とりあえず上がればァ?」
「お邪魔します。」
「どーぞォ。」
中に通される。
玄関を過ぎ、ドアを開けるとそこにはリビングダイニング。
奥にドアがさらに2つあった。
「……広いな。」
思ったことが口に出た。
自分が住んでいるワンルームより広い。
2人で住んでいるんだから当然か。
「んー、まあ2LDKだからネ。
アンタの住んでるとこよりは広いと思うよ。
あ、飲み物ベプシしかないんだけどいい?」
「全然。悪いね。」
ソファに座ると、テーブルに置かれたコップ。
そこに黒いベプシが注がれる。
「この部屋、結構高いんじゃないか?」
「家賃?
んー、まァ安くはないけど、2人が別々で済むよりは安いんじゃナァイ?
駅とかもそんな近くないしィ。」
確かにちょっと駅から遠い。
チャリを走らせて10分。
ママチャリだともう少しかかるだろう。
「じゃあ大変だな。
大学もそんなに近くないだろ?」
俺がそう言うと、なまえの瞳が輝いたような気がした。
「うん!
だからネ、私も買ったんだ!」
「何を?」
何か言いたくてウズウズしているようだ。
その様子は幼い少女のようで、なんだか可愛らしい。
「ロードバイク!」
「へぇ!
おめさんもついに買ったのか!」
「うん!」
ニコニコと嬉しそうに笑う。
高校の時、靖友が自転車を始めた時からなまえもかなり自転車に興味を示していた。
それで欲しい欲しいと言ってたけど、そうか、ついに買ったのか。
「パパとママがね、私と靖友に大学の入学祝いくれてェ。
そしたら靖友が『これでチャリ買えばァ?』って言ってくれたの。」
「ヒュウ。
おめさん、靖友の真似すげえ上手かったぜ。」
「なにそれ嬉しくない。」
でもなまえはご機嫌な様子だった。
よっぽど嬉しかったんだろうな。
「メーカーは?」
「靖友と一緒。ビアンキ。」
「そうか。
じゃあ今度…」
その時、玄関がガチャッと開く音がした。
「あ、帰ってきた。」
ドスドスと廊下を歩く音。
そしてドアが開いた。
「おかえりィ。」
「ただい……アァ!?新開!?」
「久しぶり!靖友!」
「靖友さァ、新開来るならちゃんと言っとけボケナス!」
「ちげぇよ!
オメー来るの来週じゃなかったのかヨ!」
「はァ?
何?新開の連絡ミス?」
なまえの敵意が俺の方に向いた。
「オメー今度の土曜に来るって一昨日連絡寄越したじゃねェか!」
「そうだよ。
だから今日来た。」
「今度だって言ったら来週だと思うだろうがァ!」
なまえは微妙な顔をしている。
「……今度からはちゃんと日付で連絡取り合ってェ。」
「そうだな。
悪かった、靖友。」
「……まァ俺もな…、おう。」
靖友はドカッとなまえの隣に座る。
「で?
今日は何しにこっち来たんだヨ。
わざわざ静岡までよォ。」
「そうそう。
これを見せに来たんだ。」
1枚チラシを見せる。
「あァ?
何だこれ?
ファンライド?」
「そう。
九州で行われるファンライドなんだけど、夏休みに旅行がてらどうかなって。」
「ハァ?
俺ァ忙しいんだよ。」
「ちなみに提案者は寿一だ。」
「行く。」
靖友は即決した。
隣に座るなまえも、興味を示しているようだった。
「いいなァ。」
「なまえも来る?」
「「エ!?」」
びっくりした顔はそっくりだな。
流石双子といったところか。
「え…い、いいの?」
「うん。
そもそも寿一、旅行にはなまえも誘ってやれって言ってたしな。
せっかく自転車買ったならファンライドも参加したらどうかな?」
嬉しそうななまえ。
それとは対照的に、微妙な顔をする靖友。
「なァんでこんなド素人連れてかなきゃいけねェんだヨ!」
さっきまで嬉しそうにしていた雅の顔が急変した。
「あァ?
私靖友と違ってすぐ乗れたんですけどォ?」
「ッセ!!
素人にはかわりねェだろ!」
……あーあ。
始まってしまった。
「だって福チャンが誘ってくれたんだよ!?
そうだよねェ!新開!」
「ああ。」
「福チャンが誘ってくれてたのは旅行だけだろォ!
それに旅行だって野郎しかいねェんだぞ!」
なるほど。
靖友の心配はそっちか。
(一応客人である)俺を差し置いて、ギャーギャー喧嘩をする2人。
近所迷惑とかじゃないんだろうか。
しかしなまえの一言で、この喧嘩に終止符が打たれた。
「靖友がいれば大丈夫じゃん!!
ファンライドで私のこと運んでヨ!!」
「お…おう…?」
「じゃあ決まりネ!
新開、福チャンに伝えといて。」
「はいよ。」
ニコニコ笑うなまえ。
靖友はケッ!なんて言って不貞腐れてる。
結局靖友は妹に弱い。
なんだかんだ溺愛してるのもわかる。
「つーかァ、これだけならわざわざ静岡来る必要ねェだろ。」
「もちろん。
走りに来たに決まってるだろ?」
ニッと笑えば靖友もニヤッと笑う。
「だァよネ。」
「行こうぜ、靖友。」
「おう。」
なまえはといえば、やっぱりちょっとウズウズしている。
「おめさんも行くか?なまえ。」
「エ!?」
「アァ!?」
「え…でも……。」
なまえはチラッと靖友を見る。
半ば無理矢理旅行を承諾させたこともあるのか、靖友が気になるみたいだった。
靖友はため息をつく。
「まぁ、いいんじゃナァイ?」
「ほ!ほんと!」
「ああ。
邪魔すんなよォ?」
「もちろん!
準備してくる!」
そう言うとなまえはリビングの奥のドアを開け、中に入っていった。
「やっぱり可愛いな、あいつ。」
「あァ?
まァだ言ってんのォ?」
「大学でも人気あるんじゃないか?」
そう言えば、ハッと笑う靖友。
「どうだろうなァ。
俺があいつの兄貴だしネ。
中には俺らが同棲してるカップルだと思ってる奴らもいるらしいヨ?」
なるほど。
「じゃあ大学には、いないんだな?
ライバル?」
「ハァ?」
俺は指でピストルを作ると、なまえの部屋の方に向かって「バキュン。」
その意味が、靖友にもわかったらしい。
「テメふざけんなよ!!!」
「靖友うるさい!!!」
荒北家に、今日一番の怒声が飛び交った。
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