hurricane mixed twins

寮に戻ると、靖友の部屋からきゃんきゃん喚く声が聞こえた。
女の声。
しかし女の声には間違いないが、それは男女の仲を想像するような色っぽいものではない。

「ねぇいい加減にしてくれナァイ!!?」

「いい加減にするのはおめーだ!!
バァカ!!!」


怒声。


それは男女の怒鳴りあう声。
ああ、またやっているのか。そう思ったのは俺だけではなく、尽八や寿一もそうらしい。
靖友の部屋の前に来ていた。


「おい!
お前達またやっているのか!!」


尽八が先陣を切って部屋に入る。


「「あァン!!?」」


取っ組み合い一歩手前まで来ている2人に同時に睨まれた。
萎縮したのか、尽八は再び部屋のドアを閉める。

………いやいやいや。


尽八は泣きそうだ。
思いの外、2人の顔が怖かったらしい。

「…入るぞ。」

今度は寿一がドアを開ける。
その途端


「「フクちゃん!!
聞いて(くれ)よ!!!

……真似すんなボケナス!!」」


相変わらず息ぴったり。
思わずヒュウと声をだすと、2人同時に睨まれる。
確かにいつもより凄みがある。

まぁまぁと寿一が宥め、2人を座らせる。
机を挟んで右と左に座らせて、間に俺と尽八、そして向かいには寿一、というように座る。

「で、どうしたんだよおめさん達。
また兄妹喧嘩か?」

「聞いてよ新開!!
靖友が私のことブサイクって言った!!」

「そりゃひでぇな。」

「ハァ!?
お前が俺にブサイクっつったからテメェもだろ!っつっただけだろォ!?」

「一緒にすんな!!」

「一緒だろォが!!」


俺から向かって左側にいるのは荒北靖友。
そして向かって右側は荒北なまえ。
共に4月2日生まれの牡羊座。
そしてA型。
靖友の方がほんの少し早く産まれた兄。
なまえが妹となる。
詰まる所、双子、というわけだ。

「一緒じゃねぇからァ!
お前はパパ似でブサイクだけど私はママ似だからァ!」

「親父ディスってんじゃねぇよ!
かわいそうだろォ!!
つぅかお前もなんだかんだ親父似だからァ!!
おい新開、こいつにいってやれヨ!
お前自分が思ってる10倍ブスだぞ!ってよ!!」

「ハァァ!!?
頭湧いてる!?
ねぇ新開!!
違うよね!!!?」

「…えっと……。」

吊り上がった4つの目が一斉に俺に向く。

「おめさんは……靖友を美人の女子にした……って感じかな?
ほら、化粧もしてるし?」

嘘は言ってない。

「え、じゃあ靖友は、私をブサイクな男にした顔ってコトォ?
ぶっはぁ!!!」

妹の方は大口開けて笑ってる。
機嫌が直ったらしい。
ただ問題は兄の方だ。
額に青筋が浮かんでいる。


「ただ素行はそっくりだけどな!!」


尽八。
威勢良く言うなら俺の影に隠れるな。
ほら……2人の機嫌も…


「もう帰る!!」

「おう帰れ!!」

あーあ。
バタンッ!!!とドアを壊す勢いで出て行ったなまえ。
まあ、いつのことなので気にしない。

ハァとため息をつく寿一。

「ごめんなフクちゃん。
あいつ煩くてよォ。」

「……いや、大丈夫だ。」

「煩いのはお前も同じだがな!」

「ッセ!
お前には言われたくねェよ!!」


「でも可愛いよな、なまえ。」


「ハァ!?」

別に俺はおかしいことを言っているつもりはない。
尽八と寿一も心当たりがあるのか、頷く。

「なァに言っちゃんてんのォ?」

靖友は本当に意味がわかっていないらしく、首を傾げる。

「喧嘩をしつつもわざわざ荒北の部屋に来てくれるのだろう?」

「…そうだけどォ。
わざわざっつっても女子寮じゃねぇか。」

「自分の事をやりながら、他の奴の面倒を見るなんて結構な労力だぞ。」

「……まァな。」

うーんと考え込む靖友。
結局靖友の中ではそれは当たり前の事で、雅の中でもきっと当たり前のことなんだ。
だからあまりピンとこないんだろうな。

「なまえのこと好きなやつ、結構いるぜ?」

バキュンといつものポーズ。


「………は?」


「そうなのか?」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔の靖友と、気付いていなかったらしい寿一。
尽八もよくわかっていなさそうだ。

「結構いるぜ?
俺のクラスにもな。」

難しそうな顔をする靖友。
何となく、言わんとしていることがわかった。

「安心しろ靖友。
『本人はともかく荒北靖友が義兄になるのは無理』または『性格きつそうだから無理』だそうだ。」

「それ好きなわけじゃねーだろ。」

呆れつつ、少しホッとしたような靖友。



以前なまえに相談されたことがあった。


『靖友に彼女が出来ないの、私のせいかな?
私が世話やきすぎるせいかな?』

と。

『そんなことねぇと思うぜ?
それよりおめさんこそどうなんだよ。
靖友のせいで彼氏出来ないとか思わないのか?』

そう聞いたらニヤッと笑って意外な答えが返ってきた。


『靖友のせいで彼氏ができない?
靖友を懐柔できないような男なんて彼氏にする必要あるゥ?』


ヒュウ。
思わずこぼれた。

『おめさん、いい女だな。
好きになっちまいそうだ。』

と。
そしてバキュン。

最初ハァ?と靖友そっくりの表情をしたと思うと、ニヤッと笑う。


『いいんじゃナァイ?』





安心してるとこ悪いな、靖友。
俺もなまえのこと好きなんだよ。





その後、いくつか話題がコロコロ変わり、1時間くらい経った頃。


「靖友ォ。」


またなまえはやってきた。

「あー?
どうしたァ?」

「今日ハロウィンでしょ?
だから昨日パンプキンパイ作ったんだけどォそのことすっかり忘れてさァ。
みんなで食べヨー。」

ほい、と箱に入ったパンプキンパイを差し出すなまえ。
ニコニコ笑っている。

「おー、あんがとネ。
フクちゃん、皿貸してくれよ。」

「わかった。取ってこよう。」

寿一が部屋を出て行き、そのタイミングで聞く。

「おめさん達、今日の喧嘩の原因は何だったんだ?」

なまえはパンプキンパイを切り分けている。

「原因?」

「まァいろいろあったけどよォ。
結局は」


「「福富なまえの話。」」


「結局いつも通りではないか!」

「おめさん達も成長しないな。」

いつもいつも、2人の喧嘩の原因は同じだった。
それだけが原因というわけじゃなかったが、結局はこれだ。

『自分は女だからフクちゃんと結婚出来る!』そう主張するなまえと、
『フクちゃんはお前みたいな女娶らない!』と主張する靖友。

なまえは恋愛感情として寿一が好きなわけではない。
それは以前本人も言っていたし、靖友のそれと同じなんだと思う。
けれど、『靖友を懐柔出来る男』。
それは本当は、寿一のことなのかもしれない。


「すまない、遅くなった。
皿だ。」


「「あんがとネ!フクちゃん!」」

なまえは切り分けたパンプキンパイを綺麗にお皿に分けて行く。

全員に渡ったとき、俺のだけ少し大きい気がした。
気のせいか?
そう思って顔をあげると、なまえは指でピストルを作る。
そして

「バキュン」

唇が小さく動いた。



「靖友どォ?
美味しいでしょ?」

「おー。
美味ぇな。」

「フクちゃんはー?」

「美味い。
なまえはいい嫁になるな。」

「ブッ!」

「もォー!
やめてよフクちゃん!
あと靖友汚い。」

満足気ななまえ。

「なぜ俺には聞かないんだ!!
なまえ!!」

「えェー?
東堂?うるさいんだもん。」

「なんだと!!」



「どうしたんだよ新開…。
お前が食わねェなんて気味が悪りィな。
なかなか美味いぜェ?」

「靖友あんがとネ!」

「おー。」

なまえはギューっと靖友の首に抱きつく。
それを靖友は振り払うでもなく、照れるでもない。
結局、この双子は仲がいい。
喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったもので、喧嘩したってすぐ仲直りする。


「新開?」

「あ、いや、頂くよ。」

なまえがちょっと多めに切り分けてくれたパンプキンパイ。
一口食べると、すごく美味かった。
でも、なかなか喉を通らない。


脳裏に再生される「バキュン」。



完全に撃ち抜かれちまったな。



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