塩キャラメルガール








素敵な人だと思った。
一目見たときから。










「国見ちゃーん。」

休憩中、名前を呼ばれた。
振り返ると、ニコニコ笑ったなまえさんがいた。

「どうしたんですか?」

「手ぇだして。」


何かくれるのだろうか。
とりあえず手を出せば、そこにボトボトと落とされるキャラメル。
しかもこれは…

「塩キャラメル…?」

なんと俺の好物の塩キャラメル。

「どうしたんですか?これ。」

「教室で友達がくれたんだ。
国見ちゃん、好きでしょ?」

ニコニコ笑いながらそう言うなまえさん。
歳の割に幼いその笑顔は、まるで向日葵みたいだ。

「ありがとうございます。」

「いーえ。
それ食べて頑張ってね。」

「はい。」

マネージャーであるなまえさんは、俺にそう言い残すと仕事に戻っていった。
俺はもらった塩キャラメルを一つ食べる。
甘くて美味しい。
その甘さの中にちょっとだけ塩気が効いてるのもまた美味しい。
残りは後で食べようと思って、自分の荷物の中にしまう。

チラッとなまえさんの方を見れば、そこには及川さんと岩泉さん。
声は聞こえないけれど、楽しげな雰囲気であるのは伝わってくる。


なんだろう、モヤモヤする。





『先輩の事が好きです。』




なまえさんは中学でも、バレー部のマネージャーをしていた。
なまえさんが中学を卒業する時、俺は告白をした。
意外だと思われる事が多いけど、事実なんだから仕方がない。

それはちょうど先輩達の卒業式が終わった時だった。

なんでそのタイミングかといえば、よく言えばもし振られたとしても気不味くならないように。
悪く言えば振られた後にそれまで通りにいられる勇気がない、つまり臆病者だったから。

そこまで振られた時のことを考え、この日を選んだというのになまえさんからの答えは意外なもので。


『嬉しい。
これからよろしくね、国見ちゃん。』


『え?』

『え?』


驚いた。
もちろん嬉しい誤算というものではあるけれど、まさか2個下の中1男子の告白をYesで返してもらえるなんて思わなかった。





「国見ちゃんさ、いつからなまえちゃんのこと好きだったの?」

「ハァ?」

部活終了後、着替えていたら及川さんに絡まれた。
トスを調整したい、ということで俺も一緒に(珍しく)自主練に参加していた。
もちろん俺がやりやすいようにトスを調整してもらえるのはありがたいし、やっぱり及川さんの実力はすごい。
けれど、それとこれとは話が別だ。

「急に何の話ですか。」

「何の話ってなまえちゃんの話だよぉ。」

ニコニコ笑ってはいるけれど、裏がある笑顔なのが見え見えだ。
そんなのいつもの事だけど。
だいたい、人の彼女のことを馴れ馴れしく呼ばないでもらいたい。

「無視していいぞ、国見。」

「はい。そのつもりです。」

「チョット岩ちゃん!
国見ちゃんも!」

自主練をしていたからこの場にいるのは俺と及川さんの他には岩泉さんだけだった。
全員が俺となまえさんの事を知っているわけではないから、3人だけの時でよかった。

「いいじゃんいいじゃん!
俺と岩ちゃんしか居ないんだしさ!」

「…別に人数の問題じゃないんですけど…。」

はぁ。
バレーの時はすごくても、普段は面倒臭い人だ。

「今俺のこと面倒臭いとか思ったデショ!?」

「…思ってません。」

「変な間あったけど!?」

「いい加減しろ及川。
国見困ってんだろ。」

呆れる岩泉さん。
正直俺も呆れてる。



「だってさ!
中学の時からなんて「終わった?」



……タイミングの悪い。

部室に入ってきたのはなまえさん。
…ていうか

「なまえさん、待っててくれたんですか?」

「うん!」

ニコッと笑えば、その笑顔に思わず自分も笑ってしまいそうになる。
絆されてるな、なんて思うけど、それは俺だけではない。

「及川ダラしねえ顔してんじゃねーよ。」

「してないよー。」

してる。
完全に及川さんも絆されてる。
あと分かりづらいけど岩泉さんも。


「何の話してたの?」


なまえさんは部室に入ると、俺達の方へやってくる。

「なまえちゃんの話だよ。」

「私の話?」

首を傾げ、俺の方を向く。
本人は全く自覚がないんだろうけど、この仕草はすげぇ可愛い。

「国見ちゃん、なまえちゃんのこといつから好きだったのかなぁと思って。」

「ちょっと及川さん…。」

何で本人達の前でそんなこと聞くんだろう。
そして何でなまえさんは目をキラキラさせてるんだろうか。


「私も聞きたい!」


………。

「ほら国見ちゃん、可愛い彼女が聞きたがってるよ?」

ニコニコ笑う及川さんとなまえさん。
及川さんはともかくとしても、なまえさんにそんな風に見られると困る。

「………。」

「……?」

「………。」

「?」

やっぱりダメだ。
さすがに一目惚れだった、なんて言いづらい。
顔だけ見て決めたみたいだし。
確かに顔も可愛いわけだけど。

及川さんとなまえさんは顔を見合わせている。
その姿にもモヤモヤした。

何も言わない俺と、?を飛ばす及川さん。
いつの間にか岩泉さんも聞き耳を立てている。
なまえさんはうーんと少し考えた後、ポンと手を叩く。

「なまえちゃんどうしたの?」

及川さんが尋ねればなまえさんはニッと笑う。


「実は私、国見ちゃんに一目惚れしたんだ。」



…………。


「………。」

「………。」

「?」

「………。」


「「「…え?」」」

俺も及川さんも、岩泉さんですら驚いた。

だって

「えっと…告白したのって国見ちゃんじゃないの?」

「そ、そうですよ。」

思わず素直に答えてしまう。
そう、告白したのは俺の方だ。

なのに


「だからびっくりしちゃったよ。
国見ちゃんに告白された時。」


あははと笑うなまえさんの頬は、ちょっとだけ赤く染まっていた。




その後はなんとなくお開きになり、俺はなまえさんと帰路につく。


「…ねぇなまえさん。」

「ん?」

「さっきの話って…。」

もしかしたらあの場の空気を変えるために、なまえさんが気を利かせてくれたのかもしれない。
そう思って聞いてみた。


「本当だよ。」


なまえさんはニッと笑う。
どうやら俺の杞憂だったらしい。
実は俺もだと言えば、嬉しそうに笑ってくれた。

「ねぇ国見ちゃん。」

「はい。」


「手、繋いでいい?」


はい、と手を差し出すと、ギュッと握り返してくれる手。
その手は俺よりふた回りくらい小さい。



「英くん。」



初めて呼ばれた名前。
本当はなまえさんに言いたかった。
あんまり俺にヤキモチ妬かせないで、って。

でも…



「大好き。」



彼女の向日葵みたいに笑った顔を見たら、そんなことはどうでも良くなっていた。


甘いけれど少ししょっぱい、塩キャラメルみたいな彼女。

いつの間にか、モヤモヤだって消えていた。


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