花巻貴大誕生日企画





「あ。」





何気なく手帳を開いて気が付いた。
今日はもう18日じゃないか。


「?
どうかした?」


目の前でジュースをじゅるじゅると吸う恋人の貴大。
貴大の部活終了後、一緒にファストフード店に入っていた。

「ううん。なんでもない。」

「そう?」

「うん。」



貴大の誕生日は1月27日。
誕生日までもうすでに10日を切っていた。










「…と、言うわけで、何をあげたらいいと思いますか。」


次の日、月曜日。
この日はバレー部の練習が休みであることは知っていた。
そのため、私は及川、岩泉、松川を呼んでの作戦会議をする事にした。
場所はファストフード店。
ちなみに及川はお手洗いの為に席を立っている。

「そんなことの為に呼んだのかよ。」

「そうです!」

ハァとため息をつく岩泉。
それをまぁまぁと松川が宥める。

「花巻の誕生日、俺らも部活で何かしらするからみょうじも来れば?」

「え、なにそれ。行く。」

誕生日に何かするって、何するんだろ。
男の子だとすごくパワフルなイメージあるけど…バレー部だし、貴大にボール当て続けるとか………?
それはすごく楽しそう。

「もうそれでいいんじゃね。」

「面倒くさそうにしないでよ。
確かにみんなでお祝いするのもいいけどさ、私は私で何かしたいの。」

「そりゃ彼女だもんな。」

ニヤリと笑う松川。
ハァとため息をつく岩泉。
そして


「なになに、何の話ー?」


トイレから帰ってきた及川。

「みょうじが花巻の誕生日に何かしたいんだってさ。」

「そっか、もうすぐマッキーの誕生日か!」

「そうなの!
及川的に何かアイディアない?」

多分及川はこういうこと好きそうだし、いいアイディアも持ってそう。
最初から及川聞いたらよかったかも。

「そんなのマッキーが好きなものあげたらいいと思うよ?」

ニコニコ笑う及川。
まさかそんなに普通のこと言われるなんて。
正直ガッカリだ。

「そりゃそうだろうけどさぁ…。」

ずっとニコニコしてる及川。
何か企んでる感じだ。

「貴大の好きなものって…シュークリーム?」

「そうだね。
でも他にもあるデショ?」

「他…。」

他には……。

「服?」

「それから?」

「え、それから?
……バ、バレー?」

「うん。
でも他にもあるよね。」

「えっと…。」



私は思い付く限りの色々なことを言った。
けれども、及川は全部違うと言う。


「…もうわかんない。」


貴大の好きなもの…。
これ以上思いつかない。

「私……彼女なのに………。」

泣いちゃいそう。
けれど及川は、そんな私に指を指す。


「そう。
それだよ、それ。」


「は?」

私が首を傾げると、「なるほどな。」と岩泉。
「そういうことね。」と松川。


「ごめん全然わかんない…。」


ジュースを飲む。
じゅるじゅると音がなるそれは、もう中身がないことを表していた。
もう氷しかない。

そして、ニコニコ笑う及川が言う。



「つまりね、マッキーが1番好きなものはなまえちゃんってこと。」



「………。」


え?
え、え?
確かに付き合ってるけど…え?

カァァっと体温が上がっていくのがわかる。

「みょうじの顔、真っ赤だね。」

松川にニヤニヤ笑われ、恥ずかしくて顔を隠す。

「よかったな、みょうじ。」

岩泉がちょっと吹き出しながら言う。

「よ、よかったけどよくない…!」

3人の方に目をやれば、みんなちょっと笑っていた。
くっ…なんか悔しい。

「何がよくないの?
マッキー喜ぶと思うけどなぁ。」


「だって私は物じゃないからプレゼントできないでしょ…?」


ハァとため息をつく私を尻目に、3人は顔を見合わせていた。

「…なまえちゃん本気で言ってる?」

「はぁ?
どういう意味?」

馬鹿にされているんだろうか。
いや、違う。
みんなの顔は本当に驚いている顔だ。

……なんで?

「及川が言いたいことはさ…。」

呆れた顔した松川は、そう言うと私の耳元でこっそり教えてくれた。



「セックス誘えってことじゃない?」



………。

「なまえちゃん?」

……。

「大丈夫か?」

……。

「おーい、みょうじ?」


体温がどんどんどんどん上がってく。
熱が出たみたいに。
むしろ熱が出たのかもしれない。
いや、今はそんなことどうだっていい。



「ば、ばっかじゃないの!?」



言ってた意味がわからなかった自分も恥ずかしいけど、そんな風に言われたことも恥ずかしい。

「絶対マッキー喜ぶって。」

やっぱり及川はニコニコしてる。
ニヤニヤしてる松川よりもなんかヤダ。
と、いうかそんなことより


「絶っっっ対無理!」


「せっかくなまえちゃんの為に考えてあげたのにー。」

ブーブー言う及川。

「だ、だからプレゼントだって言ってるじゃん!」

わ、私はプレゼントじゃない。
それに……。



「あ、もしかしてなまえちゃんってまだ処「いい加減にしろ及川。」



ゴンと岩泉に殴られる及川。
「ヒドイ!」なんて岩泉に文句を言っている。

ありがとう岩泉。

幼馴染2人がギャーギャーやっている間、松川がまた私の方を向く。


「で、お前どうするの?」


「……無理…。」

「だろうね。」

ハハッと笑う松川。
私からしたら全然笑い事じゃない…。

「お前さ、お菓子作りとか出来ないの?」

「え…凝ったのじゃなければ…。」

「じゃあさ、シュークリーム作れば?
喜ぶんじゃない?」



…確かに。



結局、貴大の為にシュークリームを手作りするということで落ち着いた。
けど、及川のせいでずっと変にドキドキしていた。










「花巻おめでとー!」
「あ、花巻これあげるー!」
「シュークリームやるよ!」


誕生日当日。
貴大はいつにないモテっぷりだった。
貴大は友達が多いから、みんなが貴大にシュークリームを持ってくる。

……まずいな。

朝のHRが始まるまでに、貴大の机の上にはシュークリームのピラミッドが出来ていた。

HRが始まって担任が入ってくる。
担任は貴大のシュークリームピラミッドを見て驚いていた。
担任、怒るかな、なんて思ったけど、怒るどころかそこにもう1個シュークリームを足した。
まさか担任まで準備してるなんて…。



それから丸1日、貴大はシュークリームを食べては貰い、食べては貰いを繰り返した。

「なまえにもあげるネ。」

「ありがと…。」

そう言われてもらったけれど、さすがに2個が限界だった。


放課後、貴大は部活に行き、私はそれを待つのが日課だった。
今日は部活の後に貴大の誕生日を祝うから時間になったら私が部室に行く。
……だけど


どうしよう。


私はスクールバッグを開けると、そこには不恰好なラッピングをした手作りのシュークリーム。

帰るときに渡そうとは思っていたけど、まさか今日、こんなに貴大がシュークリームを貰うなんて思っていなかった。
部活前に貰った分も残ってて私が預かってるし、部活でも貰うだろう。

…お腹いっぱいになっちゃったらどうしよう。

貴大の事だしシュークリーム好きだし、食べてくれると思う、いつもなら。
でも今日貰った量は異常だって。
しかも並ばないと買えないような代物まである。

………貰ってくれなかったらどうしよう。
貰ってくれたとしても、微妙な反応だったら……。

1度そんな風に思ってしまうと、ちょっぴり不安だった。






時間になって部室に行くと、ちょうど始まるところだった。
私と及川と松川と岩泉の手にパイ投げ用のお皿が置かれ、準備は完璧。
仕掛け人の矢巾が貴大を連れてきて、その貴大にパイを投げつけた。
サプライズは大成功で、みんなも楽しそうだった。

…けど、やっぱり不安というか緊張は消えない。

やっぱり他の部員の子達にもシュークリームをもらってた。


「なまえ、帰ろ。」


いつもよりご機嫌な貴大。
手を繋いで一緒に帰る。
ヒューヒューと及川に茶化されたけど、私はそれどころじゃない。

貴大とたわいもない話をする。
いつも通り取り繕ってるつもりだったけど、貴大に気付かれてしまった。


「どうかした?」


「…え?」

貴大にジッと見つめられる。
一重の目が、いやに色っぽい。
いつも見ている目なのに。

そのせいで、嫌でもこの前のファストフード店での会話を思い出してしまう。


「……あの…さ。」


「ン?」

ドキドキする。
やばい。
体温が上がってくる。
きっとその熱は、私の左手から貴大に伝わってる。

私は1度その手を離すと、自分のスクールバッグを開け、シュークリームを出す。


「こ、これ…。
…お誕生日おめでとう、貴大。」



半ば押し付けるみたいに貴大に渡す。
貴大はちゃんと受け取ってくれた。

「これ…俺に…?」

コクコクと頷く。
まるで告白するみたいな緊張感だった。

「なまえが作ってくれたの?」

「…そう。
ご、ごめんね…下手くそで…。」

貴大は私とシュークリームを交互に見たかと思えば、バッと急にしゃがんだ。

「た、貴大…?」

びっくりして貴大に声をかければ、私の方へちょっとだけ顔を上げてくれた。
チラッとマフラーから見えるその頬が、ちょっと赤く染まっていた。

「…アリガト…なまえ。」

貴大はまた立ち上がる。
184pが急に立ち上がるから、すごくびっくりした。

「!?」

しかも

「すっげぇ嬉しい…。」

そう言いながら私をギュッと抱きしめられるから、もうドキドキが止まらない。


まさか、こんなに喜んでもらえるなんて思わなかった。


『マッキーが1番好きなものはなまえちゃんってこと。』


及川の言葉が脳裏に浮かぶ。
……案外間違ってないのかもしれない。
それは自惚れかもしれないけど。


「……あのね、貴大…」


気がついたら、私はもう声に出していた。

「なーに?」

ギュッとしたまま、聞き返される。

「……もう1つ……プレゼントあって…。」

「まだ何かくれんの?」

貴大がクスクス笑い、その振動が私に伝わる。

「…うん。」

ドキドキなる心臓。
これだけ密着していたら、きっと聞こえてしまっているだろう。
緊張の最骨頂。
私は意を決した。



「…私……なんて…。」





「………エ?」





心臓が壊れてしまいそうだ。
貴大は1度私を離し、私の顔を見た。
すごくびっくりしたんだと思う。
そりゃそうだ。
逆に私は多分今、真っ赤な顔をしていると思う。

「…そんな言葉…どこで教わってきたの。」

「えと…お、い…川…?」



「……なるほどネ。
じゃあ行こうか、なまえ。」



貴大は1度フッと鼻で笑うと、私の手を再び握って歩き出した。

「貴大?
どこ…行くの?」

「俺の家。」

「え…!
こんな時間からじゃ迷惑じゃない?」

「大丈夫、今日親いないし。」


貴大は私の方へ振り返ると、ニヤッと笑った。



「俺、なまえのこと好きなようにしていいんデショ?」




ドキドキしたし、死ぬ程恥ずかしかった。
でも、言ってよかった。
だから明日及川にあったら、牛乳パンでも差し入れようと思う。



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