たのしくてしかたがないです



日曜日。
少し早めに約束した場所に行けば、既に一ノ宮は来ていた。

「悪い、またせた。」

「岩泉さん。
おはようございます。
私も今来たところですからお気になさらず。」

一般的にはそれ、男のセリフだよな。
そう思って思わず苦笑いをする。

「行きましょう、岩泉さん。」

一ノ宮はにこにこ笑って、俺の隣を歩く。
私服だと雰囲気も違い、そんな一ノ宮に視線が留まる。

「……岩泉さん?」

「あ、いや、なんでもねえ。」

「そうですか?
……あ、私後でイルカのショーが見たいです。
いいですか?」

「おう。」

時間と場所を確認すれば、順路は最後の方。
とりあえず時間まで普通に回ろうということで、中に入ることにした。


「わぁ……」
「おお……」


最初に目に飛び込んできたのは大水槽。
その中には、たくさんの大きさや色の魚が泳ぎ回っていた。

「すごい……!
すごいですね……!
私、こんなの見たの初めてです。」

「へぇ。」

「岩泉さんは来たことありますか?」

「……そうだな、ガキの頃に来たくらいだな。」

「岩泉さんのお子様の頃のお姿……是非ともお目にかかりたいものです……!
お写真等はございますか!?」

「いや……俺のガキの頃の写真はどうでもいいから……。
……ほら、マンタ来たぞ。」

「いえ!
お写真は拝見させていただ…ああマンタさん……!」

予想以上に話のすり替えが上手くいったのと、目をキラキラとさせてマンタに釘付けになるその姿に思わず笑ってしまう。

「こんなに大きなお魚がいるんですね。
マンタさん、おめめが可愛らしい。」

「それ目じゃなくて鼻な。」

「え!?」

一々反応が大きくてまた笑う。
少し進んで違う水槽の前に行けば、また新しい反応。
それがおもしろくてじっと見ていれば、突然目が合った。

「…………。」

「?どうした?」

何か言いたいことがあるのかと思えば、じっと黙ったまま。

「……ショーの時間もあるし、行くか?」

「はい!」

急に元気になるから驚く。
ふふふと笑う一ノ宮は機嫌がいい。

ショーが始まるよりも少し前に会場に行けば、そこは半分以上の席が既に埋まっていた。

「混んでんなー。」

「そうですね……。
あ、あの辺り空いてます!」

一ノ宮の指差す先は、かなり後ろの方の席。

「そんな後ろでいいのか?」

「……子供も多いですし、後ろの方が全体が見渡せるからいいと思うんです。」

「そうか?」

早く座りましょう、と一ノ宮に腕を引かれて席に座る。
まあ確かに少し遠くても全体はよく見える。

ショーが始まると、大きな歓声。
隣には一段と目を輝かせる一ノ宮。
イルカがジャンプする度に拍手をするその姿はまるで子供のようで、また思わず笑ってしまった。


「凄いですね!」


そう言って一ノ宮は俺の方を向いた。
その時までにこにこしていたのに突然驚いた顔になり、頬が少し色付いたように見えた。

「どうした?」

「い……いえ!
イルカさん、凄いですね!」

「そうだな。」

一ノ宮はまたにこにこした顔をして、視線を正面に戻した。




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