あなたがすきです




部活を引退してすぐのある日。
放課後は俺ん家でみんなで勉強会しようよ、そう提案した及川の案に乗り、花巻、松川と4人で及川の家に行くことになった。
今日はこんなことがあって、そんな風にいつも通りたわいの無い話をしながら校門を出ると、俺達の前に1人の女が立ちはだかった。


「青葉城西高校の男子バレーボール部の方ですよね?」


ああ。と返事をすれば、俺達3人の脳裏に「また及川か。」という言葉が浮かぶ。
当の本人もそう思っている様で、突然キリッと外向けの笑顔に切り替えた。腹立たしい。

「俺に何か…………アレ?」


全員首を傾げる。
なぜならその女は、及川の言葉をスルーして横を通り抜けたからだ。
普段ならざまぁと笑ってやるところだけれど、今日は俺も花巻も松川も、そうはならなかった。
その女は俺の前に立つと、丁寧な動きで俺に頭を下げた。


「青葉城西高校男子バレーボール部の副主将、岩泉一さんですね?」


「あ、ああ。」

その女はニコッと笑うと俺の右手を両手で包む。
その手はひんやりと冷たい。



「私と結婚を前提にお付き合いしてください。」



……………………。

思考が停止する。
私と結婚を前提にお付き合いしてください
私と結婚を前提にお付き合いしてください
私と結婚を前提にお付き合いしてください
私と結婚を前提にお付き合いしてください
私と結婚を前提にお付き合いしてください……


………………は!?


「「「「いやいやいやいやいや!!」」」」

思考が停止したのも、それがおかしいと感じたのも俺だけではなかった。
当の本人以外。

「?どうしてですか?」

「どうしてって……全部おかしいけどそもそもアンタ誰だよ……。」

おかしいところをあげたらきりがない。
とりあえずこの女が何者なのかをまず聞くことにした。
場合によっては警察に連れていく必要があるかもしれない……。


「私としたことが申し遅れました。
新山女子高校二年の一ノ宮椿と申します。」


深々と頭を下げられ、俺も思わずそれに釣られる。

「……ところで一ノ宮さんはどうして岩泉のことを……?」

最初にそれを尋ねたのは花巻だった。
それに関しては俺も知りたくて、ウンウンと頷く。

「……春校で岩泉さんのスパイクがブロックを抜けていくのを見ました。
こんなに胸が高鳴り、感情が高揚したのは初めてです。
だから私は今日、貴方に会いに来ました。」

そんなふうに言われ、嫌な気はしない。

…………けどな


「それと今の愛の告白になんの関係が……。」


松川がそう苦笑う。

「?今言ったことが全てですが?
岩泉さん、これが私の電話番号とメールアドレスです。
連絡お待ちしています。」

一ノ宮はそう言うと、俺に小さな封筒を押し付けるようにしてその場を去って行った。

「……なんていうか、岩泉お疲れ。」

「お疲れ。」

松川と花巻にポンと肩に手を置かれる。

「なんでこういう時に限ってクソ川じゃねぇんだよ……。」

「さすがに俺でもアレは重い……てゆーかなんで俺今悪口言われたの?ねえ岩ちゃん?」

言い返す元気が無い程消耗している。
とりあえず開けてみれば?そう及川に言われて封筒を開けると、綺麗な文字で電話番号とアドレス、そして「また明日の下校時にお迎えに行きます」というメッセージ。

「…………ドンマイ岩泉。」

「……元気だせよ。」

「い、意外といい子かも知れないよ?」


これからの事を考えると頭痛がした。

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