二口堅治誕生日



『今日会いたい。時間ある?』


授業終了後、スマホを開くと灯さんからLINEが入っていた。
声が出そうになるのを手で抑える。

やばい…!嬉しすぎる……!!

今日は朝から友達にグミを貰った。
だから、というわけではないけれど、自分の誕生日だということはわかっていた。
しかも、いつも灯さんを誘うのは俺。
こんな風に誘ってくれることはほぼ初めてだった。

『部活終わったあとでいいですか?
そっちも部活ありますよね?迎えに行きます。』

そう返事をすると、すぐに表示された「既読」の文字。
そして、ありがとうのスタンプ。



今日の練習ではいつもよりも熱が入った。
練習が終われば、青根に鍵を託して学校を出て、青城へ向かう。


青城の門の前まで来ると、灯さんにLINEで連絡する。
これもすぐ既読になって、『ちょっと待ってて!』と返事を貰う。
柄にもなく緊張して待っていると、見えたのは頭がピンク色の男子生徒と黒髪長身の男子生徒。
俺のドキドキした気持ちはどこへやら、一瞬で萎えた。

「二口じゃーん。」

「……ちす。」

「花巻と二口って仲いいの?」

「まぁねェ。」

ニヤニヤ笑う花巻さん。
別に仲良くないだろ。
そう思いつつも、花巻さんにはきっかけを作ってもらった恩もあるから邪険にできない。
どうしようかと思っていると、もう1人、門の方へやって来た。
また男子生徒。
身長は少し低い。

「お?二口。月島待ちか?」

「はい。」

「もうすぐ来ると思うんだけどな。
今日誌書いてんじゃねーかな。」

「そうなんですか、わかりました。
ありがとうございます。」

「そういやなんで今日は来たの。
いつも月曜なのに。」

松川さん?にそう聞かれる。
理由は言っても面倒なことにならないだろうか?

「誕生日なんだってよ。」

先に花巻さんに言われた。
なんで知ってんだこの人。

「月島が言ってた。」

「……そうですか。」

心の中を見透かされた気分だ。

そんな感じで青城の3年と喋っていると、こっちに走ってくる人影が2つ。
……なんで走ってんだ?


「ッ二口!!」


「は、はい?」

灯さんはそのまま、俺の後ろに隠れた。
灯さんを追いかけていたのは及川さんで、ゼーゼーと肩で息をしている。

「灯さんどうしたの?」

「わかんないけど及川が追いかけてきて…。」

「灯ちゃんが逃げるからデショ!?」

何か言い争いをしているけど、ちょっと嫌だった。


「及川さん。
あんまり人の彼女のことちゃん付けで呼ぶのやめてもらっていいですか?」


そう言えば、花巻さんと松川さんからヒューヒューと、へんな野次を入れられる。

「はぁ?
及川さん、二口が灯ちゃんと付き合う前どころか出会う前からそう呼んでるんだけど?
彼氏だからってそんな風に言われる筋合いないよ?」

「お前は会ってすぐに許可もなく勝手にそう呼んでたじゃねーか。」

「岩ちゃんはどっちの味方なの?」

岩泉さんと及川さんが言い合い……というか岩泉さんに一方的に罵られる。
それに呆気にとられていれば、灯さんに腕を引っ張られた。

「今のうちに行こ。」

花巻さんと松川さんも、行け行けと合図をくれる。
俺は頭を下げて、灯さんとその場を去った。





「ごめんね、二口。
変なことに巻き込んじゃって。」

「いや、大丈夫。
灯さんいつも大変だな……。」

「黄金川くん程じゃないから大丈夫。」

「それはなんも言えねえわ。」

そんな冗談を言い合う。
楽しいけどちょっとだけ胸がモヤモヤする。
それはなんてことない、小さな嫉妬心だ。
いつも一緒にいて、昔から灯さんを知ってるあの人たちへの。


「二口。」


灯さんは立ち止まり、ニッコリと笑う。

「これ、お誕生日おめでとう。」

そう言って俺に綺麗にラッピングされた箱を渡す。

「ありがとう、灯さん。
開けていい?」

「うん。開けてみて。」

開けると、中にはニット帽が入っていた。

「おお!
俺こういうの好き!
ありがと。」

「喜んで貰えて良かった。」

そう笑う灯さんはすごく大人に見える。
たった一歳しか違わないのに。
…いや……


「灯。」


名前を呼び捨てにする。
そうすればびっくりした顔で、俺を見た。

「ちょっとの間だけ、同い年じゃん?」

だから呼び捨てで呼んでみた。
そう言えば、灯さんは笑った。


帰り道、どちらからともなく指を絡める。
最初は緊張したけど、今は難なくできるようになった恋人繋ぎ。

もうすぐ駅に着く、そんな時だった。


「堅治。」


初めて呼ばれたその名前。
いや2度目か。
最初にそう呼ばれたのは確か初めて飯を一緒に食べた時だった。


「生まれてきてくれてありがとう。
大好き。」


熱くなる目頭を抑えて、気付くともう俺は灯さんを抱きしめていた。
嫉妬してた自分が阿呆らしい。


fin


[ 2/5 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]