世界猫の日

【大学生になって同棲してる設定。】




「…ただいま。」

「おかえり二口。
ご飯出来て……どうしたのそれ?」

恋人の二口が大学から帰ってきた。
手に持っているのはケーキの箱。
しかもちょっとお高いお店のやつ。

「えっと…灯さん、喜ぶかなって。」

………。

「怪しい…。」

「エ!?」

確かに嬉しいケド、記念日でもないのにあのお店のケーキ?

「何か、隠してるデショ?」

二口に詰め寄る。
そうすれば一定の距離を取るように後ずさる二口。
絶対怪しい。

「堅治くぅ〜ん?」

うっ、と目を逸らす二口。
何だ、何なんだ、何を隠して…


にゃーん


………?

「……ネコ?」

「………はい。」

二口が来ていた上着のファスナーをおろすと、パーカーのポケットがもごもご動いていた。
二口がそのポケットに手を入れると、出てきたのは小さな小さな仔猫。

「え、ちょ…なんで猫なんか…!」

「なんか…捨てられてて…。
大学の友達と見つけたんだ。」

「1匹だけだったの?」

「いや、4匹。
俺らも4人いたから1匹ずつ連れて帰ってきたんだ。」

「そ、そうなの……。
動物病院とかは…?」

「連れてった。
栄養剤打って、綺麗にしてもらってきた。」

「…そうなんだ。」

二口が拾ってきたネコちゃん。
まだちっちゃいけどもぞもぞ動き回って元気そう。

「よかったね。」

指でちょいちょいと撫でると、にゃーんと鳴く。
か…かわいすぎる…!

「あ、ところでなんでケーキ買ってきたの?」

「え?」

猫を拾ったのはわかった。
でもそれとケーキ、どう関係あるのだろうか。

「飼ってもいいの?」

「え?
だって病院も連れてったんでしょ?
このアパート動物OKだし、ダメな理由なくない?
……もしかして私が反対すると思ってケーキ買ってきたの?」

コクリと頷く二口。

「なんでよー。」

「だって灯さん、犬派って言ってたし。」

「…まぁ確かにどっちかって言ったら犬派だケド、猫だって好きだよ。
この子めっちゃ可愛いし。」

撫でるとまたにゃーんって鳴く。
もうほんと超可愛い。

「かわいー。」

ネコちゃんを両手で持ち上げてみる。
すごく軽い。

「本当かわいいねー。」


カシャ。


私がネコちゃん持ち上げて戯れてたら、スマホのシャッター音。
音の方を見たら、二口がニコニコしながら写真撮ってた。

「灯さん、かわいいね。」

「ちょ…!
何撮ってんの!」

「灯さんと猫。
ホーム画面にしよ。」

「ちょっとー…ヤメテよ…。」

二口に画像を見せられる。
髪は適当に束ねてるし、表情はユルッユル。

「こんなのホーム画面にされたら公開処刑だよ……。」

「えー?
かわいいと思うけどな。」

ブーブー言いながらスマホを弄ってる。
これは完全に替えてるな。

「ねえ、この子男の子?」

「そ。男の子だって。」


「ふーん。
じゃあ名前、及川にしよっか。」


「はぁ!?」

スマホに向いてた視線が私に移る。
明らかに動揺した目で私を見てる。

「及川さんだけはヤメテ…。」

「じゃあその画像ホーム画面にするのヤメテ。」

「……わかった。」

渋々了承した二口。
よかった。

「…うーん。
でも名前は決めなきゃね。」

ずっとネコちゃん、なんて呼んでるわけにもいかない。

「何かいい名前あるかな…。
……タマ?」

「いや、タマはないでしょ。」

「うん、超テキトーに言った。」

名前名前、なんて思いながらネコちゃんをジッと見ていたら、困った顔してることに気がついた。

「ね、二口見て。
この子困った顔してる。」

「え?
あ、ほんとだ。」

ちょうどおでこのところにある白い模様が眉毛みたいに見えて、それが八の字になっている。
困った顔……。

「あ、じゃあモニワくんは?」

「モニワ?茂庭さん?」

ジッとネコちゃんをみる二口。
そしてブッと噴き出す。

「そ、そっくり…!」

「デショー?」

「決定決定!
モニワさーん。」

ネコちゃんの名前は『モニワ』に決まった。

「ねぇ灯さん、本当の茂庭さんに伝えていい。」

「いいよ!」

「さっきの写真送っていい?」

「茂庭くんにならいいよ!」

「やった!
グループに貼ってもいい?」

「グループ?
誰いるの?」

「茂庭さん、鎌先さん、笹谷さん、俺、青根。」

「許そう。」

「ぶっ!
ありがとう。」

ゲラゲラ笑いながらLINEを送る二口。
そしてすぐに返ってきたらしい返事。

「鎌先さんからだ。
めっちゃ可愛いって!」

「そーだよ。
うちのモニワくんは可愛んだ。」

可愛いってよー、なんて言いながらモニワくんを撫でる二口。
何だか、それがすごく可愛かった。


カシャ。


「…は?」

びっくりしたみたいにこっちを見る二口。

「かーわい。」

確かにこれはホーム画面にしたい。

「私もこれ、青城LINEに載せていい?」

「えー……。」

「だめ?」

「……まぁ…いいけど。」

「やった。
幸せ自慢しよー。」

LINEに画像と『うちの旦那様と息子可愛いでしょー』なんて送る。
こっちもすぐに返信が来た。

花巻『可愛らしいお子さんですね笑』

松川『元気な男の子ですよ笑』

及川『2人ともノッてるね…』

岩泉『可愛い息子だな。』

及川『岩ちゃんまで!?』

何これ面白い。

「みてみて二口ー。」

「………。」

LINEを見せると、二口は急に黙ってしまった。
そして

「!?
二口!?」

突然ギュッと二口に抱きしめられた。

「ど、どうしたの…?」


「可愛すぎだよ灯さん!!」


「ふ…二口……。」

二口は離れると、私の手を両手でギュッと握る。


「灯さん。
俺と一緒にモニワさん、育ててください。」


真顔でそう言う二口。
何だか可笑しい。

「うん、もちろん。
じゃあ、一緒にモニワくんのもの買いに行こっか?」

「行く!」

ご飯を食べる前に、私達は近所のホームセンターへ向かった。


fin


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