昼休みは空腹系女子。

月曜日という日は、基本的にいい日ではない。
月曜日が好きな人は少数派だろう。
そして私も漏れることなく多数派の方である。

そんなただでさえ嫌な日なのに、より気分の悪い状態に今、私はある。

「おはよう。」

無視。
確かにそこまで仲の良かった子じゃないけど、いつもは普通に返してくれてた。
それが今日になった途端これだ。
気分も悪くなる。
更に私の気分を落とす事、それは、こうなった心当たりが私にある、という事だ。


キャー!オイカワサーン!!


「みんなおはよー。」


そう、こいつ。
最初から伝えておけばいいものを、直前になって伊達工に行くのは私だけ、なんて言うから。
しかも他のマネージャーは帰れって。
そりゃ怒るよ、みんな。
気持ちもすごくわかる。

でもね、その矛先が私に向くのはおかしいと思うんだ。

それに及川も及川だ。


「おはよう灯ちゃん。
早速だけど昨日の記録まとめといてね。
灯ちゃんしかいなかったから大変だと思うけど。」


なんでわざわざここで言う?
キャーオイカワサーンな人達の視線が痛い。





「もうやだよ岩泉。」

「大変だな、お前も。」

その場の空気に居た堪れなくなり、私は自分の教室を飛び出し岩泉に泣きついた。
そしたらそこには花巻と松川もいた。

「ほら月島、シュークリームをお食べ。」

「ありがとう花巻…。」

プチシューを1個もらう。
おいしい。

「もう1個もらってもいい?」

「イーヨ。」

「ありがとう。
花巻大好き。」

「月島の愛は安いな。」

松川と花巻がニヤニヤと笑う。
なんか2人はとても大人っぽい。
今に始まったことじゃないけど。


「月島って友達いないのか?」


超ド直球。
プチシューで幸せになった私に、岩泉はすごい豪速球を投げてきた。

「岩泉、さすがにそんなストレートに聞いたら月島可哀想だろ。」

松川のその言葉は逆に胸に刺さる。

「やめてよ松川…。
いるよ、ちゃんと。」

「え?本当に?」

「本当だよ!」

そんなにみんなに友達いないと思われてたんだ、私。

「名前言ってみ、名前。」

松川に促される。
他の2人の目も、信じてくれてる感じじゃない。

「なんでそんな信じてくれないの?」

「友達いたら、わざわざ俺のところに泣きつきに来ねぇだろ。」

ウンウンと頷く2人。

「違うって。
最初は岩泉目的じゃなかったの。
でもまだ来てないから。」

「うちのクラスにいるやつか?」

「うん。」

「誰。」

岩泉はお母さんか。
いや、実際のお母さんよりも心配性だ。

「誰って、夜k」


「月島ァ!!!」


!!?

急に後ろ聞こえた叫び声?と、私の背中にドンッと何かがぶつかる衝撃。

「や、夜久ちゃん!」


「…ああ、そういえばお前ら仲良かったな。」


びっくりしてる私、花巻、松川を差し置いて、1人冷静な岩泉。

「そうだよ、岩泉知ってるじゃん。
私がいつも夜久ちゃん達とお昼食べてるの。」

岩泉と夜久ちゃんは同じクラスだから、私が夜久ちゃんと仲良いのは知ってる筈だ。

「何?私の話?」

私の背中にくっついてた夜久ちゃんは、ひょこっと顔を出す。

「月島には友達いないんじゃないかって話になってネ。」

花巻がケラケラ笑う。
あ、これ確実にわかってたわ。
松川も。

「なんで…ってああ、アレか。
なんだか及川ファンの子たちが色々騒いでるよね。
今日は特に。
それ関係ってこと?」

「月島が教室でみんなから無視されてんだとよ。」

「えぇ!?
本当に!?」

「べ、別に全員から無視されてるわけじゃないから…。」

「それならいいけど。
なんかあったらすぐ私に言うんだよ!」

「うん、ありがとう夜久ちゃん。
夜久ちゃん大好き。」

夜久ちゃんをぎゅっと抱きしめる。
かわいい。
夜久ちゃんもぎゅっと返してくれる。
本当かわいい。

「てゆーかお前ら本当親子みたいだよネ。」

「それな。」

花巻は相変わらずニヤニヤ笑っている。
親子みたい、それはよく言われる。
私達は身長差が22pある。
私が172pで夜久ちゃんは150p。
よく言われる、ぎゅっとしやすい身長差は22pらしい。
だからなのか、確かに夜久ちゃんはすごくぎゅっとしやすい。

「じゃあ私、教室戻るね。」

もうすぐ予鈴がなる。
もうちょっとここにいたいケド、仕方ない。

「月島、あとで色々話し聞かせて。
昼休みにいつもんとこね。
いつものメンバーで。」

「うん、わかった。」


教室に戻ると、及川のファンの子達は相変わらずだった。
そのおかげで関係のないクラスメート達は状況が飲み込めないようだった。
そして私もよくわかっていない。
多分張本人の及川もわかっていない。





「……ハァ。」

「やっぱり大変だったか。」

「大変だったというか面倒くさかった…。」

昼休み、私達は食堂に向かった。

「結局何があったの?」

「ね。
それうちらも思ってた。」

夜久ちゃんの他に、一緒にいるのは白井と入江。
私以外の3人は女子バレー部で、隣の体育館でいつも練習している。
だからある程度は男バレと女バレでお互いをわかってはいるが、結構知らないことも多い。
なのでいつも、お昼を食べながら情報交換をしている。
とは言っても、女子の雑談の延長だ。

「それがね、昨日伊達工と練習試合したんだけどさ…。」


私は3人に昨日の事を話した。
バスに乗るところまでを。

「なる程ね。
これは及川が悪いわ。」

夜久ちゃんはそう言ってカレーをもぐもぐ食べる。

「及川が悪いね。」

入江もラーメンをすする。

「てゆうかさ、なんでそれで月島に当たるわけ?」

白井はパンを食べる。
結構みんな空腹系女子だ。
かくいう私も親子丼を食べている。

「月島が及川と仲いいからでしょ。
及川が一方的にだけど。」

「あー、ね。
大好きな及川くんのこと非難するわけにはいかないし。」

もぐもぐと食べながら話を進める3人。
一瞬、話についていけなくなった。

「まあ時間が経てば収まるんじゃない?
つーかだいたい、及川のどこがいいの?」

「ほんとそれ思う。
あいつはあくまで観賞用。」

「顔だけ見ればお腹いっぱいって感じ。」

「やっぱり女バレってみんなそう思ってるの?」

「思ってる思ってる。
まあ精々入りたての1年生が騙されるくらいかな、最初のうちだけ。」

「うん、結構すぐ目を覚ますね。」

結構みんな、ズバズバ言う。
及川に対しての感情をここまで共有出来るのは女バレの子達くらいだと思う。
たまに合同練習もするせいか、よくわかっている。

「そういえば話戻るけどさ、伊達工行ったんでしょ?
例の男子高校生には会えたの?
バレー部の子なんでしょ?」

「そう!
聞いてよ!!」

私は昨日の二口のことを話した。
次にまた、ケーキバイキングに行くことも。


「え、それデートじゃん。」


夜久ちゃんに言われて気が付いた。

「…ほ、ほんとだ……。」

昨日は全く気にしていなかったケド、言われてみれば確かにそうだ。

「ど、どうしよ夜久ちゃん…!」

「どうしようっていっても…ねぇ?」

「私は応援してるよ。」

「私も。」

3人とも、ただただ楽しそうにしているだけだ。
私も逆の立場ならそうしただろうけどさ。

「及川よりはよっぽど月島のこと任せられるしね。」

「うん、ほんとにね。
及川信用ならないもんね。」

「だからなんでそこで及川の名前が出てくるの…。」

「なんでって…ねぇ?」

「ね。」

「でも実際、及川ファンの子達の気持ちはよくわからないよね。
何がいいんだろ、顔以外で。」

あ、それは同感。
ウンウンと頷く。

「頼り甲斐あるかって言われると……まあなんとも言えないよね。」

「及川より岩泉の方がよっぽど頼り甲斐あると思う。」

「わかるわかる。」

結構みんな、辛辣なことを言う。
私も一緒にだけど。


「頼り甲斐っていえばさ、蛍くん元気?」


白井から、突然弟の名前が出たからびっくりした。

「ほんと白井、蛍のこと好きだよね。」

我が弟ながら、歳上の女性にモテるのはすごいと思う。

「だって蛍くん可愛いじゃん!
ね!入江!」

「まあ確かに可愛いけどさぁ、私的には忠くんかな。」

忠くんは蛍の友達だ。
確かに入江を家に呼んだ時忠くんもいた。
それに忠くんと入江が仲良さげに話をしていたのも見てたけど、こんな風に思われてたなんて忠くんも思わなかっただろう。

「ねぇ蛍くん、中3だよね?
どこ高校受けるの?青城?」

「ううん。烏野だって。
お兄ちゃんが烏野高校だったんだ。」

「そういえば私、月島のお兄さんタイプ。」

「夜久ちゃん!?」

夜久ちゃんがとんでもない爆弾を落とした。
おのれ月島明光…!
我が兄とはいえ許さん…!!

「夜久ちゃんは私で我慢して!」

夜久ちゃんの肩をガッと掴む。
夜久ちゃんはそれにびっくりしたらしい。

「い、いや、私はあくまでタイプの話をしただけでお兄さんが好きなわけでは…。
あ!ほら!タイプでいえば月島も一緒じゃん!
兄妹なんだし!」

「夜久ちゃん大好き…!」

夜久ちゃんに抱きつけば、夜久ちゃんはよしよしと私を撫でてくれた。
ああ幸せ。

「……ちょっと話戻していいかな、ゆりっぷる。」

「どーぞどーぞ。」

「月島ゆりっぷる認めるんだ…。」

白井と入江が呆れてそう言う。

「まあいいや。
でさ、話戻るけど、蛍くん青城来ないの!!?」

バンッ!!と白井は机を叩く。
そ、そこまで?

「気持ちわりーよ白井。」

「ちょっと入江は黙ってて。」

何この人怖い。
蛍には絶対白井に捕まらないでほしいと思った。


そんな風に話をしていたら、予鈴が鳴った。

「え?もうこんな時間!?」

「ほんとだ!」

「さっさと片付けて教室戻んないと!
次うちのクラス英語だし!」

「ああ…あいつ来るの早いよね…。」

私たちは食器を返すと、教室へと帰る。

「じゃあね月島!
また会えたら!」

「うん!
じゃあねみんな!」

手を振って、それぞれのクラスに戻る。
多分クラスは今も朝と雰囲気は変わらない。
けれど、3人のおかげで元気になった。


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