背番号6番。

あ……。

私の探していた人は、案外あっさりと見つけられた。

青城の選手達がアップしてる時、ふとその人と目があった。
アッ!って思って会釈すれば、向こうも会釈した。
私に気が付いているかはわからないけど、とにかく私は彼にお礼が言いたい。
さすがに今は行けないから、休憩時間にでも行こうか、そう思っていたけど…



「マネージャーテーピングお願い。」

「はいはい。」

「すみません、タオルの替えお願いします。」

「はいこれ、渡して。」

甘かった。
そりゃそうだ。
いつも休憩の時のドリンクとタオル渡すのだけはやってくれる他のマネージャーがいないのだから。
練習試合で記録もつけないといけないし、とにかくいつもより忙しい。
それに向こうは向こうで休憩時間は色々やることもあるし、近付いて行けない。


そして2回の休憩時間は何も出来ずに終わり、昼休憩になった。
この時間なら、どこかお礼を言えるタイミングがあるはず。
そう思ってチラチラと確認していた。

「月島見過ぎ。」

「え…。」

どうやら結構見ていたらしい。
それを花巻に指摘された。

「あの6番のやつ?」

「そう。」

「ふーん。」

花巻には、あの日の事を話していた。
「あの日大丈夫だった?」という花巻の問いに、詰まって返事をしてしまい、何かあったのだと気付かれた。
花巻としては日直の仕事が大変だったとかその程度だと思ったのに、予想外の出来事に驚いていた。
そして謝られてしまった。
「俺もその駅使うのに一緒にいられなくてごめん。」って。
全然花巻は悪くないのに。
そもそも私が遅刻さえしなければそんな事にはならなかったんだから、結局悪いのは私だ。


「あ、月島、財布持って立ったよ。」

なんだかんだ一緒になって見ていた花巻が教えてくれた。

「え、ほんと?」

「うん。
財布持ったって事は、飲み物でも買いに行くんじゃね。」

「うん、そうかも。
ありがと、花巻!」

彼が体育館を出て行ったのを確認すると、私も追って体育館を後にした。
前を歩く彼は、やっぱり自販機の前で立ち止まった。

……追いかけてきたはいいけど、なんて声かけよう…。

私は思わず隠れてしまった。
普通に声かけたらいいんだろうけど、なんかいざとなると緊張する。

ガコン。

自販機から飲み物が落ちてくる音。
ど、どうしよう…。


「あの…。」


!?

上から降ってくる声。
飛び出そうになった心臓はドキドキと早鐘を打っている。

「俺に何か…用スか?」

「え…と、あの…。」

どうやら、私だと気が付いていないらしい。
挙動不振の私に、軽く引き気味だ。


「こ、この前はありがとうございました!」


頭を下げる。

「…俺、なんかしました…?
あと…会ったことありましたっけ…?」

「えっと……。」

この場合、なんて言えばいいんだろう。

「駅で…助けていただいた者です……。」

これ以外に言いようはない…よね。
そこで彼の中では繋がったらしい。
ああ!とポンと手を叩く。
よかった。

「あの時の人か。
あのあと大丈夫でした?」

「はい、お陰様で。
…というか私、お礼を言わないどころか大変失礼なことを言ってしまって…。」

思い出すと恥ずかしい。
見ず知らずの人にムキになって…。

「い、いえ俺こそ…。
生意気なことを言った上に普通にタメ語で話してたし…。」

スンマセン、と頭を下げられる。

「や、やめてください。
そんな事気にしてないし、あなたに助けて貰えなかったら私…!」

私……どうなってたんだろう。

そう考えると寒気がした。
怖い。
それを払うように、フルフルと首を振る。

「………あの、私、何かお礼がしたくて…。
部活の後、時間ありますか?」

「…7時くらいからなら。」

「じゃあその時間に…うーん…駅の南口に来てもらってもいいですか?」

「え、はい。いいですけど…。」

「じゃあそこでお願いします。
ご飯、奢ります。」

「……え?」

「あ、何か用事ありましたか?」

「いや…でも……俺結構食いますよ?
遠慮しませんよ?」

「……大丈夫!」

「なんスかその間。」

彼はこの前と同じようにふわっと笑った。
綺麗な顔してるな、なんて思った。
何だろう、及川も綺麗な顔してると思うけど、及川からは感じたことのない感情だ。

…そういえば、名前をまだ聞いていない。

「そういえば、お名前は…?
あ、私は月し」


「知ってます。
月島灯さん、ですよね。」


「え…なんで知って…?」

「さあ、何故でしょう。」

彼は意地悪っぽく笑う。
ああ、こんな顔もするんだな、なんて思う私。


「俺は月島さんの名前知ってたんですから、月島さんもなんとか俺の名前当ててくださいね。」


「……は?」

待って何言ってんのこの人。

「期限は今日の7時までにしましょうか。
あ、伊達工の人に聞いたらダメですからね。」

「ちょ!ちょっと待って!」

「じゃあそういうことで。」

ひらひらと手を振って先に体育館に戻って行ってしまった。

待ってどういうこと。

ちょっと私はまだ、理解が追いつかない。


[ 6/41 ]

[*prev] [next#]
[戻る]
[しおりを挟む]