マネージャー業は辛いよ。

日曜日の朝、部室の前にジャージで集合した部員全員。
人数確認をすると、及川がみんなに声を掛ける。

「全員集まったね。
今日はこれから伊達工に行くわけだけど、先輩達が抜けて最初の練習試合だから気を引き締めていこう。」

「「「ウス!!」」」

みんながバレー部のバスを待っている間、私は持っていく備品の最終確認を行う。

「1人だと大変じゃねーか?月島。」

私が黙々とチェックをしていると、上から声が降ってくる。

「岩泉。」

顔を上げると、岩泉が私を見下ろしていた。

「結構量あるじゃん。
1人でやる仕事じゃねーべ。」

「まあ…そうかもね。」

「他のマネージャーどうしたんだよ。」

「他のマネージャーは…」



「「キャーオイカワサーン!!」」



キンキンと頭に響くような声が聞こえる。
その中心にいるのは及川。
そしてキャーキャー言ってる女子から及川を守るようにしているジャージの女子集団。

「ほら、あそこで我らが主将様をお守りしているよ。」

呆れたようにため息をつく岩泉。
言いたいことはよくわかる。

「お前もちょっとは注意してもいいんじゃねぇか?」

「どっちを?」

「…………両方…か?」

そう言って首をかしげる岩泉に、思わず笑ってしまった。

「でもマジな話、マネージャー達には仕事手伝わせた方がいいと思うけどな。」

「いいよ、別に。」

「いやよくねーだろ。
100歩譲ったとしても1年にはやらせとかねーとお前がいなくなった時やばいんじゃねーの?」

その通りだ。
岩泉の言うことはごもっとも。
でも


「一般的な考えではそうかもしれないケドね、一般的で片付けられない時もあるの。」


あくまで一般論。
それが全てに当てはまるとは限らないし、そうすることで逆に問題が発生することもある。
捻くれてるかもしれないけど。

「あの子達には邪魔しないでいてもらえればそれでいいの。
手伝ってもらっても仕事できないから倍時間がかかるし。
不慣れとかじゃなくてただやる気ないんだもん。
だから居ないと思ってやるしかないでしょ。」

「……月島って結構辛辣なこと言うよな。」

「そうかな?
事実だと思うけど。」

私と岩泉はもう1度及川達の方へ目をやる。
今度はマネージャーの子達も「キャーオイカワサーン!」なんてやってる。
バカみたい。
ハァと、呆れてため息が出る。

「……まあでも、月島がそれでいいならいいんだよな。
悪りぃな、変に口出して。」

「ううん、ありがとう。」

確認が終わり、少し経つとバスが準備された。

「運ぶのくらいは手伝うから。」

「ありがとう岩泉。」

岩泉にも手伝ってもらったおかげで、すぐにバスに積み込めた。

……というか、このバス全員乗るの?

大きなバスだけど、人数に比べると小さい。
いつもはレギュラーメンバーにベンチの子達、マネージャー数人がこの専用のバスで行く。
他の子達は荷物だけバスに入れ、現地までは公共交通機関を使う。
でも今日はそんなことは一言も言っていない。

「じゃあみんなバスに乗っていいよ。」

及川がそう声をかける。
人乗らないんじゃないかと思い、それを及川に伝えようとした時だった。


「あ、マネージャーのみんなは今日はこれで仕事終わりね、お疲れ様。」


……は?

及川が突然そんなこと言うから、みんなポカンとした顔で固まる。
私も同様に。
でも固まってる子達の間を抜けて及川は私の方まで来ると、私の手首を掴む。


「でも灯ちゃんはバス乗ってね。
仕事してもらうから。」


「え?」

グイッと手を引かれて、私もバスに乗せられる。
他のマネージャーの子達にひらひらと手を振る及川。
私たちが乗り込めば、すぐにバスは発車した。
私は及川の隣に座らされる。
普通は副主将の岩泉が隣なんじゃないの?
当の岩泉は私達の座席のちょうど真後ろに座っている。


「…及川ってさ、性格悪いよね。」


思ったことがふっと口に出た。
それが岩泉にも聞こえたらしく、ブッと吹き出しいる。

「そんな俺、性格悪いかな?」

「悪いね。」
「悪いな。」

「そんな一斉に言わなくても…。」

「お前さ、今日も前々からわかってたんだろ?
バスのこととか。」

呆れた様に言う岩泉。
私は、及川は私の為もあって言わないでいてくれたんだろうな、ってことは薄々分かっていた。

「だって早くからそのこと言ってたら、あの子達灯ちゃんの邪魔するでしょ。
それは部としても困ることだからね。」

その通りだ。
及川だって馬鹿じゃない。
まあ馬鹿っぽいけど。
それに1番部活をわかっているのも及川だし、部員のこともよく見てる。

「確かにそうだけどよ。
そいつらをどうするかはいい加減考えた方がいいんじゃねぇの?
さっき月島にも言ったけど、まあ今はこれでいい。
でも1年後は月島も俺たちと一緒にいなくなるわけだろ?
それ、困るんじゃね?」

「問題はそれなんだよね。」

ハハッと苦笑いする及川。
私もつられて苦笑い。

「灯ちゃんはどう思う?」

「私に振らないでよ…。
……いつもはあの子達はいないものとして仕事してる。
やる気のない人はいても邪魔なだけだしね。」

「だよね。
うぅん…どうしようかな。」


30分程経つと、バスは止まった。

「はいみんな降りて。
1年生はマネージャーの指示に従って荷物運ぶの手伝って。」

「「「ウス」」」

近くにいた1年生2人に手伝ってもらい、荷物を下ろす。
そして『伊達工業高校』と書かれた門を通り抜けると、伊達工バレー部の主将さんに迎えられた。

「主将の茂庭です。
今日はわざわざありがとうございます。」

「主将の及川です。
今日はよろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

及川は外行きの笑顔を顔に貼り付けている。
確かに顔だけ見ればイケメンだ。
顔だけ見れば。

茂庭くんに案内され、体育館へ向かう。
体育館に近づくにつれ、ボールの跳ねる音や選手達の掛け声が聞こえてきた。

その中に、背番号6番の人もいる。

そう思うと、少しだけ心が跳ねた。


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