ケーキとプリンとシュークリームと。



「…で、二口と付き合うようになったのね。」

「うん、そうなの。」


みなさん、お久しぶりです。
音駒高校男子バレー部リベロの夜久衛輔を従兄弟に持つ、青葉城西高校女子バレー部セッターの夜久杏華です。
下の名前は「きょうか」と読みます。

男子バレー部と女子バレー部の休みが重なった今日、久しぶりに月島達に会った。
月島達っていうのは、いつも通りピンク頭の男(本人曰く茶髪)、花巻貴大が一緒にいるというわけだ。
例によって私達はスイーツの食べ放題に来ている。

幸せそうにケーキを食べる親友は、ケーキが美味しいのか二口との事か嬉しいのかどっちの感情かわからない。
あ、両方か。

「とりあえず、おめでと。
よかったね。」

「うん!
ありがと、夜久ちゃん。」

そう言って顔が綻ぶ月島。
すごく可愛い。
もちろん月島が幸せになるのは嬉しいんだけど、ちょっと寂しい。
今までみたいに「夜久ちゃん、夜久ちゃん。」と言ってくれることは少なくなるだろうから。

……けど


「ちょっと花巻、私のケーキ取らないでよ。
最後に食べようと思ってとっておいたやつなのに!」


月島はムッと花巻を睨む。
花巻は悪びれる様子もなく、ニヤリと笑ってケーキを食べる。

「…私のケーキ……。
………また取ってくる。」

ガーンとショックを受けた月島は、フラフラとケーキを取りに行った。


「……アンタさ……。」

「何?」

花巻はニヤニヤと笑うのを止めた。
私と目は合わせず、斜め下を向いている。


「行動があからさま過ぎない?」


思わずため息を吐く。

「……別に。」

花巻は笑っていない。
多分余裕がないんだろうな。


花巻は失恋した。


本人は、前から結果は見えてたって言うけど、やっぱりショックだったんだろう。
そりゃそうだ。
頭で理解しようとしても割り切れない。
花巻だってただの高校生なんだから。

「なぁ、夜久。
お願いがあるんだけど…。」

「うん、何?」

花巻は月島の方へ目線を向け、目を細める。


「月島の前ではカッコつけさせて。」


花巻はそう言って薄く微笑んだ。
こんな寂しそうな悲しそうな顔は見たことがなかった。

「うん、わかった。」

「……さんきゅ。」

月島の方へ視線を移す。
花巻とは対照的に、幸せそうにケーキを持ってくる月島。

「いいのあった?」

そう聞く花巻は今の今までと打って変わって、いつもと変わらなかった。

「うん!
花巻も夜久ちゃんも食べていーよ!」

月島の持ってきたお皿には色んな種類のスイーツが乗っていた。
月島好みのケーキもあれば、私好みのプリンもある。
そしてシュークリームも。










「この後どうする?」


90分の時間制限が終わり、店を出ながら2人に聞いてみた。


「ごめん、私今日は帰る。
蛍が合宿から帰ってくるんだ。」

「合宿だったの?」

「うん。
埼玉で1週間。」

「…埼玉って関東のどこ?」

「……東京の近くかな。」

東京の場所ならわかるんだけど他の県は良く分からない。
花巻は私達の会話を聞いてケラケラ笑ってる。
自分だってわかんないくせに。

「じゃ、とりあえずお開きかな。」



私達は駅まで歩くと、月島は上りのホームへ、そして私と花巻は下りのホームへ行く。

「なあ夜久。」

「ん?」


「どっかで茶でも飲んでかない?」


花巻が私にそう言う時は、話を聞いて欲しい時。
私達は最寄駅が同じだった。
中学は違うから知り合ったのは高校に入ってからだったけれど。

「いいよ。」

電車に乗って2駅。
最寄駅で降りた私達は各々の帰路にはつかず、一緒に喫茶店に入った。
少し脇道にそれたところにあるそのお店は立地的にもあまりお客さんがいなくて、私達は気に入っていた。


「…まあ、元気だして?」


店に入って注文した後、花巻にそう声をかけてみた。
なんて言ったらいいのか分からなかったけど、凹んでいるのはわかったから。

「うん…ありがと。」

花巻は苦笑いしてコーヒーを飲む。

「結局、月島には想い伝えず終いだったの?」


「いや、告白した。」


「…え?」

びっくりした。
花巻はしてやったり、みたいな顔してニヤッと笑ったけど…いやいやいや。

「い、いつ?」

「月島が二口と付き合い始める1時間前くらい。」

「そんな直前なの…?」

花巻から、事のあらましを聞いた。
元から気持ちは伝えるつもりだったことや、月島達が付き合うきっかけとなったのは花巻だった事を。

「その日の夜に月島から電話もらって、そのことの報告と改めてフられたんだ。」

「そっか。
……じゃあ月島から二口のこと聞くのキツくない?」

月島が悪いわけじゃない。
でもやっぱり、好きで告白もした女の子からそういうこと聞くのは辛いと思う。


「…辛くないって言ったらウソになるケド……今まで通りにして欲しいって言ったの俺だから。」


「そうなの?」

「うん。
月島に変な気遣わせたくないし、今まで通りの関係でいたかったからさ。」

明後日の方向を見てニヤッと笑う花巻。
「自分から関係壊そうとしといて勝手だよな、俺。」とそのあと自嘲した。
そして


「なのに月島、『これからも友達でいてくれて嬉しい、ありがとう。』ってさ。
ほんと…勝てないよなァ。」


花巻は笑いながらため息を吐いた。

その姿はなんだか儚げで。
そんな花巻が………


ドキ…


………あれ?

………なんだこれ。



自問自答。
でも答えは出なかった。





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