ロック番号を誕生日にするのは避けましょう。
「あれ、蛍は?」
朝、ご飯を食べているとお茶碗が1つ出ていないことに気付いた。
蛍の分だ。
なんでだろう。
「灯知らなかったっけ?
蛍、合宿に行ったよ?」
「合宿?
どこに?」
「東京。」
「東京!?」
びっくりした。
なんで東京で合宿?
…まあ、蛍が帰ってきたら聞いてみよう。
私はいつもの時間に家を出て、いつもの電車に乗った。
そこにはいつも通り、花巻。
「おはよー花巻。」
「おはよ。」
花巻といつもの様にたわいもない話をする。
そしてもう1駅で高校の最寄駅って時だった。
「で、月島はいつ二口に告白するの?」
「………え。」
相変わらず、花巻はニヤニヤ笑っている。
「インターハイ終わったし、テスト終わったし。
もう待つ理由ないデショ?」
「………そうだけど。」
「けど?」
「…………。」
車内アナウンスが目的の駅に着いた事を知らせ、私達は降りる。
本当は、借りたタオルをずっと持ってた。
いつでも返せるようにって。
でも、その勇気が出ない。
あと一歩なのに……。
「灯ちゃん危ない!!!!」
部活終了後、及川の声に気付いた時には顔に鈍痛。
片付けようと持っていたドリンクホルダーを落とし、それはガシャン!!と音を立てた。
「月島!」
「大丈夫か!?」
松川と岩泉がわざわざ手を止めてやってきてくれた。
「ん…大丈夫。」
「す!すみません!!俺……!!」
飛んできたボールは、金田一の打ったスパイクだったらしい。
「ううん、私がボーッとしてたから…。
私こそごめんね、金田一。」
金田一はブンブンと首を振る。
「月島さん血が…!」
「え?」
金田一に言われたところに触れるとピリッと痛んだ。
そして手に血がつく。
「ほんとだ。」
「すみません……!
本当すみません!!」
金田一の顔がどんどん青くなる。
「大丈夫だから。
全然痛くないし。
ごめんねみんな、練習中断させちゃって。」
そう謝って、みんなには練習に戻ってもらった。
痛い!!って程じゃないけど全く痛みがないと言ったら嘘になる。
「ごめん、後片付けお願いしていい?
ちょっと部室で消毒だけしてくる。」
「わかりました。
大丈夫ですか?手伝いますか?」
「ううん、大丈夫。
ありがとね。」
「はい。
後片付けなら任せてください!」
そう言ってくれる1年生マネージャー。
ほんと、なんていい子なんだろう。
彼女の頭をなでなですると、私は部室へ向かった。
「…思ったより切れてる…。」
鏡に向かっておでこを出すと、深くはないけど範囲が広く切れていた。
絆創膏…普通のじゃ足りないや。
私が鏡とにらめっこしていると、ガチャッと部室のドアが開いた。
「大丈夫?
手伝うよ?」
「花巻。」
花巻は私の返事を待たずに消毒液を取ると私を椅子に座らせた。
まあ、せっかくだしお願いしよう。
「ちょっとしみるかもー。」
「ん。
……しみる……。」
「やっぱり?」
そのあと花巻は手際よく私のおでこに絆創膏を貼ってくれた。
「出来たよ。」
「ありがと。」
鏡を見ると、少し大きめの絆創膏が斜めに貼ってある。
「なんかはしゃいで頭切ったけどそれが治りかけの小学生みたい。」
「なんだよそれ。」
花巻に笑われる。
「小学生みたいだなーと思って。」
前髪を下ろせば絆創膏は隠れた。
よかった、前髪切る前で。
「前髪切ろうと思ってたけど当分は切れないなぁ。」
「切るの?」
「うん。
弟が前髪短くて楽そうだからさ。
花巻くらいなの、前髪。」
「へぇ。」
花巻は自分の前髪をいじる。
「だから切ったらお揃いだね。」
花巻にそう言って笑えば、花巻は苦笑いで私の隣に座った。
「どうしたの?」
そういえば、花巻は戻らないのだろうか。
「…あのさ、前に好きな人いるって言ったじゃん。」
「ああ、夜久ちゃん?」
「………。」
「違うの?」
「違うよ。」
え、夜久ちゃんじゃないの?
ずっと夜久ちゃんだと思ってた。
…じゃあ誰だろ?
「お前が一歩踏み出せないなら、俺が先に言う。」
「告白するってこと?」
「そ。」
「お!ガンバレ!」
グッとガッツポーズをして見せる。
花巻の恋が実ったらいいなって、本気でそう思った。
花巻は立ち上がると、私の目の前に立った。
「?」
「好きだ。月島のこと。」
………。
…………は?
突然のことで理解が追いつかなかった。
「1年の時からずっと月島のことが好きだった。
でも及川がお前のこと好きなの知ってたし、それに「ちょ、ちょっと待って!!」
花巻が言い切らないうちに言葉を挟む。
私の頭の中がいっぱいいっぱいになって訳が分からない。
「え…う、嘘でしょ…?」
花巻は首を横に振る。
「ううん。本当。」
花巻はしゃがんで、私の目線よりも低くなった。
「月島が二口のことが好きなの知ってるし、二口がお前のこと好きなのも知ってる。
だから俺は気持ちだけ伝えられたらいいって思った。
ずっと俺は適任者じゃないって思ってたし。」
「て、適任者…?」
「うん。
でもさ…ずっと適任者だと思ってた及川がフられて、二口のことも言い出せない。
今がチャンスだと思った。」
て、適任者ってなんだろう…。
少しだけ冷静になった頭でそればかりを考える。
「えっと…適任者って何…?」
「…月島はさ、俺と付き合ったらって考えられる?」
「花巻と付き合ったら…?」
花巻とは登校する時も下校する時もいつも一緒。
2人で遊びに行ったことだって何度もある。
だけど……
「……考えられないかも。」
花巻は気の合う友達だ。
恋人同士だったら、なんて考えられないくらい仲のいい友達。
「…そういうことだよ。」
花巻が笑う。
その顔は、寂しそうだった。
「…ごめん、花巻。
私…花巻の気持ちも知らないで無神経に……自分のことばっかり…。」
二口のことだってそう。
花巻は笑って私の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「いいよ。
自分でもわかってたし。
それにどんな形であれ好きな子が何でも話してくれるの嬉しかったし。」
花巻はそう言ってくれるけど、私がもし逆の立場だったらって考えたらすごく悲しい。
花巻は私の気持ちを察したのか「だけど。」と付け加える。
「その分、月島にはちゃんと二口と付き合ってもらわないと困るんだけどネ?」
「…そうだよね。
私だって頑張らなきゃ…。
明日にでも…」
連絡して…。
そう続けようと思ったら、花巻に盛大にため息をつかれた。
「な、何…?」
「ちょっと月島、スマホ貸して。」
びっくりして、はいとスマホを渡してしまった。
ロックかかってるから大丈夫だろうと思ったら、いつの間にかホーム画面を開いている花巻。
そして電話をかけている。
「え!ちょ!
なんでロック外せるの!?」
スマホを取り返そうとしても、花巻に簡単にあしらわれる。
「だから誕生日の数字はやめた方がいいって言ったじゃん。
…あ、もしもし?」
電話繋がっちゃってるし!
誰にかけたの!?
「お前の好きな子が大怪我しちゃったから迎えに来てやりなよ。
30分後に青城な、じゃ。」
一方的にそれだけ話すと、花巻は私にスマホを返した。
通話履歴に残る『二口堅治』の文字。
「ま、そう言う事だから。」
ガンバレ。
花巻はそう言い残すと、体育館に戻って行った。
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