友達。
「じゃあ今日はこれで解散。
明日は今日よりも集まる時間早いから気をつけてね。」
「「「ハイ!」」」
バスで学校に戻ると、調整程度に練習が行われ、それも今終わった。
帰る部員。
まだ残って練習する部員。
各々で違う動きをする部員達。
及川は多分残っていくんだと思う。
私は……及川の顔が見られない。
「…ごめん、岩泉。
今日は先に上がらせてもらっていいかな。」
「…わかった。
及川は…多分もう少し自主練してくと思う。」
「……うん。
でも…無理はしないように言って。」
「おう、伝えとく。
ありがとな。」
「ううん。
…じゃあ、また明日。」
私は早足でその場を去った。
息が詰まりそう、高校に入ってからはそんな風に思ったことなかったのに。
「月島!」
校門を出たあたりで呼ばれた。
振り返れば、タタッと小走りをする花巻。
「…どうしたの?
自主錬してくんじゃ…?」
「今日は身体休めようと思って。
そしたら及川と岩泉に月島のこと頼まれちゃったからネ。
危ないからって。特に及川が。」
「……そっか。ありがとね…。」
「いーえ。」
花巻が隣を歩く。
気まずい。
いつもどんな話ししてたっけ?
「俺で良ければ話し聞くけど?」
そしたら急にニヤッと笑う花巻。
びっくりした。
なんで何かあるってわかったんだろう。
「いつもなら及川が『俺が送ってくから待ってて』って我先に言うのに言わないしさ。
何かあったんデショ?」
「花巻…。」
心の中を見透かされてるみたい。
ギュッと自分のジャージを握れば、その手を取られる。
「月島、話してよ。」
握られる手。
すごく安心感があった。
そういうところ、まるでうちのお兄ちゃんみたいだ。
「…うん。ありがと。」
私達は公園のベンチに移動した。
電車の中だけじゃ、絶対に話しきらない。
だからってファミレスとかでご飯を食べながら話すことでもないから。
公園には、他には誰もいなかった。
「……どこから話したらいいのかわかんないからぐちゃぐちゃになっちゃうかも。
そしたらごめんね。」
「いいよ。」
「ありがと。」
ふぅ、と深呼吸。
……全部話そう、そう思った。
「………あのね、私、中学の頃……好きだったんだ。
及川のこと。」
「…いきなりすごい爆弾落とすネ…。」
花巻は苦笑い。
「ごめん。
…でも、全部聞いて欲しくて。」
「うん。
大丈夫、続けて。」
「中学の時、まともにサーブもスパイクもやったことなくて出来なかったの。
私にそれを教えてくれたのが及川と岩泉で、及川のバレーする姿がかっこよかった。
そしたらいつの間にか恥ずかしくなって及川のこと見れなくて…それが私の初恋だったの。」
「へぇ。」
「……でも、女バレの中にも及川のことが好きな子がいて、私は応援するって言っちゃった。
私だって好きだったくせに。
……そのあと私が及川達と自主練してるのバレちゃって…別に隠してたわけじゃないよ?みんな知ってると思ってたし。
でもみんな知らなくて、裏切り者…みたいな空気になって…。
私が告白する機会作って……。
それが中1から中3まで何度もあったんだ…。」
「……。」
「気付いたら恋心なんて無くなってたよ。」
乾いた笑いが溢れる。
花巻は黙って聞いてくれていた。
「その時期くらいから変な噂も流されてさ。
私が売春してるたとかビッチだとかって。
流したのは同じ女バレの子達なんだけどね、その時の私は及川が原因だ、って思うようになってたの。
……改めて考えると勝手だよね、私。」
好きになったのは私。
応援するって言ったのも私。
なのにその時は及川のせいにした。
「…月島はさ。」
「うん?」
「なんでバレー部のマネージャーやろうって思ったの?
及川が誘ったって聞いたケド、今の話し聞いてるとバレー部入る感じじゃないよね?」
「……うん。
最初は断ったんだけど、及川がしつこくて…。」
当時のことを思い出すと、思わず苦笑いをしてしまう。
ほんと……しつこかったな……。
「最終的に入部したきっかけはうちのお兄ちゃんなんだ。
お兄ちゃん、高校の時バレー部だったんだけど色々あって。
…そのせいでお兄ちゃんと蛍…弟はまだギクシャクしてるんだけど、なんかお兄ちゃんの前でバレーの話は憚られたっていうかちょっと避けてたの。
お兄ちゃん、バレー嫌いになっちゃったんじゃないかって思ってて。
でも話したらそんなことなかった。
お兄ちゃん今でもバレー好きだからバレーの話するし……。
…なんだかんだ結局、私もバレー好きなの。」
色々理由を言ってみたけど、結局はバレーが好き。
それが1番の理由だったなと思う。
「私、バレー部入って良かったよ。
花巻と仲良くなれたのも及川が誘ってくれたおかげ。
入ってなかったら花巻だけじゃなくて、夜久ちゃん達ともこんなに仲良くなれなかったと思う。」
「そりゃどうも。
じゃあ俺も及川に感謝しなきゃだ。」
花巻はニヤッと笑う。
そうだね、と私もちょっと笑う。
……ケド
「及川とも……また仲良くなれたと思ったんだけど………。」
今日の昼までは。
「…すごく裏切られた気分……。」
「結局何があったの?」
「…告白…された……。
……前にもそれっぽいこと言われたけど…。」
「…そっか。
でもそれで気まずくなっちゃったの?」
「……その後…キ……」
「き?」
ちょっと言いづらい上に恥ずかしい。
「キス…されて……。」
「……え?」
花巻は驚いた顔で私の方を見る。
そして少し視線が動くのがわかった。
「…見ないで。」
手で口を隠す。
「あ、ごめん…。
でも、え…及川……え、まじか…。」
「…そう。
……それに……。」
言葉が出なかった。
なんて言えばいいのかわからない。
「……もしかして、二口に見られた…とか?」
「え…?」
なんでわかったんだろう?
私がびっくりした顔をしていれば、花巻が教えてくれた。
「岩泉から少しだけ聞いたら、『なにがあったかはよくわからないけど、俺が行ったら及川と月島の他に二口がいた』って。」
「そっか……岩泉が……。」
「そのあと…二口と何かあった?
それも岩泉が変だったって。」
「……。」
「何かあったんだネ。」
「私……二口に嫌われたと思う。
……どうしよう。」
私は真剣に悩んでる。
なのに花巻は、プッと笑った。
「月島は二口のことになると忙しいよネ。
いっつも悩んでる。」
「…たしかに……。」
言われてみればそうだ。
「で?
この前悩んでた事は聞けたの?
彼女かどうか。」
「うん。
彼女じゃなかった。
幼馴染みなんだって。」
「そう。
よかったネ。」
「うん。
……でも…。」
“チャラチャラした奴なんて大っ嫌い!!”
「私……二口にチャラいねって言っちゃったの……。」
「…うん?」
「……私のこと、す…すごいかわいいって言ったり、会えて嬉しい…とか言うから……。」
「えっと……月島は二口からも告白されたの?」
花巻に聞かれ、カァッと熱が顔に集まる。
「その様子だとそうみたいだネ。
オメデト。」
「……。」
「?」
「でも今日…言っちゃったの。
チャラチャラした奴なんて大っ嫌いって……。
もちろん二口のことじゃなくて及川に言ったの。
……だけど、二口に言っちゃったから………。」
少しだけ、視界が揺れる。
「…そっか。」
「答え考えて欲しいって言われて…なのに今日そんなこと……。
絶対嫌われた……。」
視界がさらに揺れる。
バッグからタオルを出すと、目に当てる。
二口に借りたタオル。
まだ二口の匂いがする。
どうやって返せばいいかもわからない。
「そんなことないから大丈夫だよ。」
ポンと、頭を撫でられた。
顔にあげれば、ニッと笑う花巻。
「花巻…。」
「そのタオルは?」
「これ?
これは二口のなんだけど…。」
「じゃあこれ返す時に言えばいいじゃん?」
「……。」
確かにそうかもしれない。
でも……
「怖いの…。」
「怖い?」
「もし…拒否されたらって考えたら怖い……。」
中学の時だってそうだ。
好きになっても断られるのが怖かった。
今までの関係が壊れるのが怖かった。
「ほんと、二口のことになると月島性格変わるよネ。」
「……だって…。」
ハハハと花巻は笑う。
「また何かあったら俺と夜久がいくらでも慰めてやるからさ。
思い切ってやってきなよ。」
ポンポンと頭を撫でられる。
不思議と不安が溶けていくみたいだった。
「……うん、わかった。」
「うん。
……そしたら俺も頑張るから。」
「…え?
どういうこと?」
最後ボソッと呟いた花巻。
「花巻も好きな人いるの…?」
そう聞けば、ニヤッと花巻は笑った。
それがなんだか大人っぽくて、一瞬ドキッとしてしまう。
「…そりゃね。
俺だって普通の男子高校生ですカラ。」
そう言う花巻だけど、遠くを見つめるその姿はやっぱり大人っぽかった。
「…私の知ってる人?」
「ん?
……まぁ、そうだネ。」
私の知ってる人……?
「……あ!
わかった!」
「ん?」
「夜久ちゃんでしょ!」
花巻は苦笑い。
「どうだろうね」なんて言って。
これは正解っぽい気がする。
「花巻のためにも私がんばるね。」
私は初めて花巻から好きな人とかの話を聞いた。
前に彼女かいたとかっていうのは知ってる。
ケド、恋してる花巻は新鮮で、頑張れそうな気がした。
「うん。
がんばれ。」
「ありがと。
…でもまずは、インターハイだ。」
「そうだね。
よろしく、マネージャー。」
花巻に手を差し出され、私はそれを握る。
「こちらこそ。」
花巻と笑い合う。
明日の烏野との試合、私はサポートしか出来ないけど精一杯やろう。
そう決めた。
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