インターハイ2



「青城移動すんぞ。」

「「「うーす」」」

青城がコートを使える時間が近づいて来た。
応援席から下に移動する。


「及川、私みんなのドリンク準備しとくね。」

「よろしく。
1人で大丈夫?手伝いいる?」

「ありがと。
でも大丈夫。
その分練習して。」

私はドリンクを取りに、バスへ戻る。
持ち歩くのが面倒だと思って置いてきたけど、取りに戻る方が面倒臭かった。
明日は持っていこうかな。

去年まではそんなこと思わなかったのに。

体育館を出てすぐのところにバスはある。
まあいいか、置いといても持って行ってもどっちでも。


バスから荷物をおろすと、体育館へ戻る。
その途中で声をかけられた。



「ねぇねぇ!」



「?はい?」

トイレの場所でも聞きたいのかな?
そう思って振り返れば、思いの外近くにその人の顔。

「ふぁ!?」

びっくりして、思わず声を出してしまった。

「うぉ!?」

「ご、ごめんなさい…!」

その人は、見た目がすごく派手だった。
ワックスで立ち上げられた金髪、サイドは刈り上げ、そして耳には穴が空いている。
え、怖い。

「そのジャージ…あ!青城のマネージャーさん?」

「は…はい…。」

見れば、舌にもピアスが刺さってる。
うわ、見るだけで痛い…。


「めっちゃ可愛いね!!!
今度一緒に遊びいかね!?」


「え…あの…」

ずずいっと詰め寄られる。
どうしよう…こ、怖い…!

「名前なんていうの?」

「つ、月島…。」

「下の名前は?」

「…灯…です…。」

“知らない人に名前を教えてはいけません!”
そう教えられて17年。
でもこれ、教えなかった時の方が怖い気がする、そう私の本能が告げていた。


「灯ちゃんって言うんだ!
俺、照島遊児!
よろしく!!」

「え…よ、よろしく…?」

テンションについていけない。
どうしたらいいんだろう…。
誰か助けて……!


「じゃああと電話番ご「やめなさい!」


「おっ?」

大きな声がしたと思えば、照島くんの顔が少しだけ遠ざかる。

た、助かった…?

見れば、照島くんはジャージの襟を掴まれていた。
照島くんと同じオレンジ色のジャージを着ている女子生徒に。
そして

「勝手にどこ行ってるのよ!
もう!
ほんとごめんなさい!!」

照島くんを叱ると、今度は私に何度も頭を下げる。

「い、いえそんな…!」

私は気にしないでくださいと首を振るけれど、ペコペコと何度と丁寧に謝られた。

「すみません!
ほら!行くよ!」

その人は照島くんを引っ張って連れて帰った。
その間、照島くんに手を振られる。

「じゃあまたねー!
灯ちゃん!!」

出来れば私はもう君に会いたくないです。
うん、やっぱり明日からはドリンクも持ち歩こう。

ああいう人、ちょっと苦手だ。





体育館に戻ると、みんなで烏野と伊達工の試合を見ていた。
そして私がみんなとちょうど合流した時、



ドバンッ!!!



ボールが床に叩きつけられる音。
気がつけば、ボールは伊達工のコート側に落ちている。
しん…と静まり返る会場。
しかしそのあと、一気に大きな歓声が湧いた。


「出たよ『バケモノ速攻』。」


岩泉が苦笑いで呟く。
気持ち悪いくらい精密なトス。
それを信じて目を閉じて飛ぶチビちゃん。
そんなの本当に『バケモノ』だ。


「ホント天才ムカつくわ〜。」


及川はフンッとつまらなそう。

「やっぱ強烈ですね〜。」

「怖いねぇ〜。
嫌だねぇ〜。」

監督とコーチも2人の速攻に注目してる。
伊達工の選手達は混乱してるみたいだ。
それはもちろん、二口も同様に。

「影山やっと使いましたねあの速攻…」

「伊達工は混乱してるだろうな…。
あんな速攻世界中探したって見れるモンじゃないだろうからな。
まったく末恐ろしい…。」

本当、脅威だ。
こんなコンビが現れたんだから。
今度はチビちゃんのサーブだった。
チビちゃんの打ったボールはネットを超える事無く、烏野のコートに落ちる。

………。


「他は色々と発展途上だけどな。」




そしてまた、変人速攻が決まる。

「烏野の10番すっげーな…。
あんなトス打てねーだろ普通…。」

そんな声が応援席の方から聞こえて来る。

「技術的に凄えのはスパイカーに完璧にトス合わせてるセッターの方なんだよな…。」

岩泉がまた苦笑いする。
そう、すごいのはチビちゃんじゃなくてトビオちゃんのほうだ。

「けっ!」

及川はトビオちゃんのことが嫌いなのか好きなのかよくわからない。

「あんな神業初見じゃ分かんないデショ。
俺らも最初わかんなかったし。」

「確かにね。」

そう、花巻に答える。
花巻は「だよネ。」なんて言ってニッと笑った。



今、会場も伊達工の選手たちも、チビちゃんを見てる。
なんとかチビちゃんを抑えなければ、と。

時間になり、青城はコートへ移動した。



伊達工のサーブは二口。
烏野の主将さんがレシーブをしたけど、ちょっと崩れた。
そしてチビちゃんがスパイクを打つけれど、3枚ブロック。
しかしそのボールを拾ったリベロくん。
やっぱりすごく上手い。
そして日向が戻り、ボールはセッターの真上。

10番!!

みんながチビちゃんを警戒する。
けれどモーションに入って打ったのはチビちゃんではなかった。


バックアタック


それを決めたのは烏野のエースくんだった。

見覚えのある動き。
それは確かゴミ捨て場決戦でみたもの。
音駒がやっていた攻撃の仕方と同じだった。

そして烏野が最初のセットを取った。


「やはりノせると怖いですね烏野…。
このまま2セット目も勢いで獲るでしょうか…。
国見ボゲェー!!
足動かせ!
アップになんねぇぞ!」

コーチの怒号が飛ぶ。
私も怒られないようにこっちに集中しないと。

「ふーむ。
とりあえず1セット目と同じ試合展開は無理だろうね〜。
伊達工の…とくにあの巨体の7番君は『びっくり速攻』にびっくりし慣れてきちゃったからね〜。
あと月島。」

「は!はい!」

「気になるのもわかるけど見すぎ。
こっちに集中。」

「すみません…。」


青城も初戦が始まった。
けれど気になってチラチラと隣のコートの様子を覗う。
烏野が得点したら伊達工が得点して…。
それを繰り返し、2セット目はもう22-24。
烏野のマッチポイントとなっていた。
でも、伊達工も負けてない。
この点差なら逆転したっておかしくない。

リベロくんが拾ったボールをトビオちゃんがカバー。
少しネットから近かったそのボールを打つ烏野のエースくん。
そのボールは、烏野のエースくんと伊達工の大きい7番くんとの押し合いになった。
そして
烏野のコートに落ちたボール。


……いや、まだ落ちていなかった。


トッ…

ボールをあげたのは、リベロくんの足。


嘘でしょ…?


会場が沸く。
そして繋がれたボールがトビオちゃんの元へ。
そしてトビオちゃんのあげたボールは再びエースくんのところへ。
打たれた重たいスパイク。
ゴッと伊達工のブロックに当たる。
弾かれたボールはネットに触れた。

そして、伊達工のコートへゆっくりと落ちていく。

二口が、必死でそのボールを追うのが見えた。


届け…!


思わず私はそう願った。
けれど、それが叶うことはなかった。

22-25

2セット目も、獲ったのは烏野だった。

残念だったなと思いながらも、視線を青城のコートに戻す。


いいぞいいぞ青城!
おせおせ青城!!
もう一本!!


試合の終わった烏野の選手達もこっちを見ている。

「…『王者』も『ダークホース』も全部食って。
全国に行くのは俺たちだよ。」

また及川のサービスエースが決まった。
これで4本連続だ。

初戦、2-0で青城が勝った。


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