三割り増し意地悪。


家を出るとき、いつもは学校までの距離の関係で蛍より私の方が早く家を出る。
けれど今日は一緒の時間に家を出た。

「じゃあ蛍、また後でね。」

「うん。」

私は自転車で、蛍は徒歩。
いつもは制服だけど、今日は私も蛍もジャージ姿。
白いジャージの私と黒いジャージの蛍。
十字路をお互い違う方向へ進んでいく。

駅について電車に乗れば、そこには花巻。
花巻も今日はジャージを着ている。

「おはよ、花巻。」

「おはよ。」


今日はインターハイ予選本番1日目。
青城はシード枠だから今日は一戦だけだけど。

「……ねぇ月島。」

「ん?」

花巻の方を向けば真剣な顔。
バレーの時以外ではあまり見ない表情だ。

「今日さ、伊達工と烏野が戦うデショ?」

「そうだね。」

おそらく対戦校的にはそうなるだろう。

「勝った方が明日青城と戦うケドさ…。」

「うん。」

「もし烏野とやることになったらどっち応援するの?」

「?青城に決まってるデショ?」

「弟クンはいいんだ?」

ニヤッと笑った。
花巻が何を言いたいのかよくわからない。
ま、いつもみたいに笑ったから安心したけど。

「青城応援するのは当然だよ。
だって私だって青城バレー部だし。」

「そーだよネ。
……じゃあさ。」

また、花巻は真剣な表情になった。


「伊達工と青城だったら?」


なんだか花巻の瞳に吸い込まれてしまいそうで、目をそらす。

「……青城。」

「何で目ェそらすの。」

「…何でそんなこと聞くの。」

「……。」

もちろん青城に決まってる。
……でも、花巻の目を見られないってことはそういうことなんだろう。

「…当然青城に勝ってほしいって思うよ。
今日だって明日だって白鳥沢にだって…。
それで全国に行ってほしいよ。
それは本当に思ってる……ケド………。」

伊達工と青城なんじゃない。
青城に勝ってほしいと思うのに、二口の事が頭をちらつく。
多分これは


「私ね、二口のこと好きなんだと思う。」


恋心だ。


「だから…二口にも頑張ってほしい…なんて思っちゃって…。」

花巻の方を恐る恐る向く。
ドキドキしたけど、これが本心だったから花巻を見られたんだと思う。

ただ意外だったのは、花巻が笑いを堪えていたことだ。

「な、何笑って…!」

「だって月島さ、それ言ったら俺がびっくりすると思ったデショ?」

「そ、そりゃそうだよ。
…こんなこと始めて言ったし…。」

花巻はついにぶっと吹き出す。
もう意味わかんない!



「ねぇ花ま「知ってたよ。」



……?

「…え?」

花巻はニヤッと笑う。
え?知ってたって何?

「ずっと気付いてたヨ。
月島が二口の事好きだってこと。」

「…え?
そんなわけない…!
だって私……その事今気が付いたのに…!」

「うん、それも知ってた。
月島が自分の気持ちに気付いてない事も。
でも行動は完全に恋する乙女だったケド。」

ニヤニヤした顔でそんな事を言われ、恥ずかしくなる。

「ちなみに夜久も気付いてる。」

「えぇ!?嘘でしょ!?」

「月島ここ電車だから。」

「うっ…。」

自分の手で自分の口を塞ぐ。

「…え、本当に…?」

「本当本当。」

なんかすごく恥ずかしい。
花巻にも夜久ちゃんにも温かく見守られてたってことデショ…?

「月島顔赤い。」

「…見ないで…。」


「…本当そういうところかわいいよネ。」


終いにはからかわれるし。
何故か今日の花巻はいつもの3割り増しで意地悪だった。
インターハイ、緊張してるのかもしれない。

その後、車内アナウンスによって高校の最寄駅が近い事をアナウンスされた。



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