脅迫LINE。
『明日の部活終わり、青城の門の前で待ってます。』
久しぶりに二口から送られてきたLINEの内容は、脅迫めいたものだった。
「いやいや、脅迫は言い過ぎデショ。」
ケラケラと笑う花巻。
「だって今まではどっかいきませんか?とかだったのにさ。
しかもうちの高校の前って…。」
まだ会いづらいっていうのにこれじゃ断れない。
「返信した?」
「…してない。」
「既読は?」
「……見ちゃった。」
「じゃあ来るネ、二口。」
「………。」
そりゃそうだよね。
私が見たことわかってるんだから。
「別に嫌じゃないんでしょ?」
「…そうだけど……。」
二口が悪いわけじゃない。
ただ単に、私が一方的に気まずいだけであって…。
「…というか、なんで二口知ってるんだろ。
うちの部活終わりの時間。」
「…ナンデダローネ。」
「うん、不思議。」
誰か青城に知り合いがいるのかもしれない。
同じ中学だった友達とか。
まあそんなことより…
「…どうしよう…。」
「会いたくないならそう言えばいいんじゃないの?
本当に会いたくないなら、ネ。」
花巻の言う通りだ。
会いたくないなら断ればいい。
本当に、会いたくないなら。
「…会う。」
「そっか。」
花巻はそう言うと、ポン、と私の頭を撫でる。
花巻にそうされたのは初めてかもしれない。
花巻はそして、ニヤッと笑う。
「とりあえず及川には兄貴が迎えに来るとか適当なこと言っときな。
うるさいだろうから。」
確かに。
及川はとにかく私に1人で帰るな、なんて言う。
心配してくれてるのはわかるけど、ちょっと鬱陶しい。
だから今日だってそう言うだろう。
それで二口がいる、なんて言ったら余計面倒くさそうだ。
「そうだね。わかった。」
「うん。
あと夜久達に言うのもちょっと止めた方がいいかもネ。
どこで及川の耳に入るかわかんないし。」
「わかった。
もし及川が知ってたら犯人は花巻ってことだ?」
「ちょっとヒドくない?」
「今の及川の真似?
めっちゃ似てる。」
「ありがと。」
花巻の意外な特技がおかしくて笑ってしまった。
喋り方がすごく及川に似ていた。
「ね、岩泉とかもできる?」
「岩泉…。
捻り潰すぞクソ及川。」
「似てる!
けどそこまで酷いこと言ってないデショ、岩泉。」
「言ってないけど言いそうじゃない?」
「言いそう!」
また笑ってしまう。
花巻のおかげで、ちょっとだけ勇気が出た。
「あれ?灯ちゃん帰るの?」
部活終了後、部室を施錠してから制服で体育館へ戻れば、案の定及川に声をかけられた。
「あ、うん。
及川達は今日も自主練してくんデショ?」
「うん。
ダメだよ、灯ちゃん。
1人じゃ危ないから。」
やっぱり。
こうくると思った。
「大丈夫。
今日はお兄ちゃんが迎えに来てくれてるの。
だから心配しないで?」
「え?そうなの?」
「うん。」
よかった、信じてくれたみたい。
「じゃあ門のところまで送ってくよ。」
「え!」
「ん?」
「いい!大丈夫!」
予想外。
「なんで?」
「な、なんでって…。
…及川達には、ちょっとでも時間を無駄にしてほしくないから。」
これは事実。
実際、無駄にしてほしくない。
「及川のせっかくの好意、無駄なんていうのは申し訳ないんだけどね。」
「月島もそう言ってるんだし、大丈夫でしょ。」
そう、助け舟を出してくれたのは花巻。
松川と岩泉も同じように言ってくれた。
「兄貴が来てるってことは用事とかあんだべ?」
「そ、そうなの。」
「…そっか。
わかった。
気をつけてね、灯ちゃん。」
「うん、ありがと。
じゃあみんなも程々にね。
オーバーワークにはくれぐれも気をつけてね。
あ、あと」
「月島。」
花巻に言葉を遮られるを
みんなは呆れたみたいに笑っていた。
「大丈夫だから早く行きな。
待たせてるんじゃない?」
「……そうだね。
じゃあね、みんな。
また明日。」
手を振ると、私は門の方へと走った。
走りながら、心が跳ねた。
あんなに会いづらい会いづらいと言いながら、楽しみにしていた。
「意味わかんない。」
小さく呟いてみた。
ドキドキと早鐘を打つ心臓は、きっと今、走ってるからだ。
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