神様ちょっとでいいからさ。
「で、月島はまだ悩んでるの?」
「そうらしいよ。」
ゴールデンウィーク最終日の部活終わり、私は花巻と2人でファミレスにいた。
「今日月島は?」
「バレーの練習試合見に行くからって部活が終わってすぐ帰ったヨ。
烏野と…ネコ?なんとか高校の練習試合観に行くんだって。」
「あー、音駒?」
「それ。」
部活終わってから行って間に合ったのかな?
「夜久何食う?」
「パスタかドリアか悩んでる。」
「それこの前も悩んでなかった?」
「いつも悩んでる。」
花巻が私に暴露してくれたあの日以来、私達はかなり仲良くなった。
もちろん恋愛感情はない。
話すのは専ら月島のことだ。
よし、今日はドリアにしよう。
「決まったからボタン押して。」
「ン。あ。」
「え?」
呼び出しボタンに手を伸ばす花巻は、そこで動きを止めた。
視線の先にはちょうど今来店した、リア充と思しき高校生が2人。
リア充の彼氏らしき方も同じように止まっている。
………誰だ。
伊達工業の制服着て……伊達工業?
まさか…!
花巻の顔を見れば、視線を逸らさないままニヤッと笑う。
逆に向こうは、げっ、て感じの顔してる。
「花巻、あの人ってもしかして…。」
「そうだよ。」
ちょいちょいと手招きをする花巻。
嫌そうな顔をしながら近づいてくる2人。
なるほど…これが二口か。
「久しぶりダネ、二口。
よければここ座りなよ。」
やっぱり二口って奴だ。
へぇ。
二口は最初嫌そうな顔をしていたけれど、私の顔を見るなりニヤッと笑った。
「えー?
彼女サンとご一緒のところ悪くないスかー?
月島さんのこと好きなんじゃ…あ、なんでもないですー。」
彼女サンって私のことかな?
なんだろう、この男すごく性格悪そうなんだけど。
こいつのこと好きとか月島正気か?
そう言われた花巻はと言えば、ニヤニヤ顔を崩していない。
「いやいやそっちこそ。
ごめんネ?彼女さんと一緒のトコー。
月島のこと引っ掛けといて違う女の子とデート…いやいいんだけどネ。」
花巻も大概性格悪いな。
そしてまぁここ座りなヨ、なんて言って花巻は私の方に移動してきた。
ちょっと嫌そうな顔をしつつ、失礼します、とそこに座る二口と彼女?さん。
確か二口は私らの1個下だって聞いた。
他校とはいえ、先輩の言うことには逆らえない運動部の性だろう。
ははっ、笑える。
そのあと二口達も決めて、注文した。
混んでるから中々来ないかもしれない。
「彼女サンかわいいネ。」
おい花巻。
目の前に座る女の子。
確かに可愛いけど、唐突すぎやしないか。
ハァと観念したように、ため息を吐く二口。
「こいつ彼女じゃなくてただの幼馴染みです。」
「ふぅん。
そうなんだ。
俺青城バレー部3年の花巻。
よろしくネ。」
花巻が自己紹介を始めるから私も続け、そして私はとは初対面だった二口も。
そして最後に二口の幼馴染みだという女の子。
「はじめまして!
堅治の幼馴染みの仲ゆきなです!」
よろしくね、なんて言ってたら二口が「で、」と遮る。
またニヤニヤしていた。
「花巻さんと夜久さんはデートですか?
俺達いたら邪魔じゃないスか?」
ぷぷーと笑うような二口。
なんだろう、イラっとするな。
「別に俺達もお前らと一緒で付き合ってるわけじゃないから安心しなヨ。」
なんだ、とつまらなそうな二口。
二口とゆきなちゃんを見ていて私は、もしかして!と直感したことがあった。
「ねぇ二口。」
「はい?」
月島もいない。
どうせなら聞いてしまえ。
正直すごく気になっていたことがあった。
「一緒にプロジェクションマッピング観に行った子ってゆきなちゃん?」
「?はい。
なんで知ってるんですか?」
私と花巻は顔を見合わせた。
不思議そうにしてる二口とゆきなちゃん。
やっぱりそうか。
よかったな月島、杞憂だったみたいだ。
そして思いの外早く解決してしまった。
本人のいないところで。
二口はまだ首を傾げている。
「二口さ、月島と連絡取れてる?」
「…え?」
そりゃ、初対面の人にこんなこと聞くのは失礼かもしれないけど、なんだか放ってはおけなかった。
……というか…
「お待たせいたしました。
ドリアのお客様。」
このタイミングで注文したものが来る。
タイミングがいいのか悪いのか…。
ご飯を食べながら話す。
「で、二口。
どうなの?」
「グイグイいくねぇ、夜久。」
隣でもっとやれというようにニヤニヤする花巻。
すでに青城3年コンビは好奇心100%で構成されている。
もう止まれない。
そして更にもう1人。
「あ!月島さんってさっき堅治が言ってた人!?
LINEの返事が来ないってい…!」
「ちょ!ゆきな!」
二口はゆきなちゃんの口をふさぐ。
天然なのか計算なのかはわからないけれど、幼馴染みにも裏切られたらしい。
結局、LINE返してないのか、月島は。
「既読スルーされてるんだネ。
カワイソ。」
「かわいそう。」
「堅治かわいそう。」
「すみませんそういうのやめてください…。」
好奇心しかない私達にとって、この状況は最高に面白い。
「堅治心当たりないの?」
「……。」
どうやら心当たりはあるらしい。
「……前にケーキバイキング行った時……気を遣わせちゃったかなって…。」
…………。
「「そっちかぁ!」」
「!?」
私と花巻と、声が被る。
そして私達の声にびっくりしてる二口。
ああ、そっちだと思ってるのか。
違う、違うよ二口。
「…なんすか?」
「堅治、もう1回考えてみれば?」
頭を抱え、もう一度考え始める二口。
「……わからない。」
…そりゃそうか。
理由は月島の一方的なものだし、それを聞いていないんだから。
「…あの、知ってるんスか?
花巻さんと夜久さんは…その、理由みたいなの。」
知ってる。
けど、それは言っていいのだろうか。
花巻とまた顔を見合わせる。
そして、こくりとお互いに頷く。
今、好奇心でしか動いていない私達。
うん、言っちゃお。
「知ってるよ。
二口がゆきなちゃんに相談してたみたいに、月島もうちらに相談してたからね。」
どうしよう、面白くなってきた。
「知りたい?」
「………はい。」
「ベニーランド行った日の朝さ、月島からLINE来なかった?」
「来ました。
その日の夜空いてるか、って。
でもその日俺ベニーラン……」
そこまで言って固まる二口。
気が付いたみたいだ。
そしてそれは一緒に聞いていたゆきなちゃんも。
「……まさか、月島さんもベニーランドにいた…とか……?」
私は頷き、花巻はスマホをいじって1枚の写真を見せる。
「こういうことらしいよ。」
その写真は及川と月島が写ってる写真。
「……付き合ってないんですよね?」
「付き合ってないヨ?
今のところはネ。」
今のところは…か。
微妙な顔をする二口。
「……月島はさ。」
花巻はスマホをしまうと、二口に言う。
「二口がゆきなちゃんと一緒にいるところ見て、彼女がいるって思ったんだって。
それが気になってしょうがなかったみたいなんだけど、聞けなくてウダウダウダウダ悩んでさ。」
愛おしそうに笑う花巻。
本当に好きなんだな、月島のこと。
「多分あいつ、自分からじゃ一生言い出せないと思うんだよネ。
だから二口から誤解解いてやってほしい。
このままじゃあいつ、絶対後悔すると思うから。」
「いいんですか?」
「良くねぇよ。」
二口の問いに対して真剣な顔をする花巻。
さっきまでは感じなかったプレッシャーみたいなものを感じる。
「…言ってること矛盾してないですか?」
「してる。」
「………。」
二口が黙ると、また花巻はニヤッと笑う。
「俺が月島にちょっかいかけんなって言ったら、やめんの?」
「やめません。」
「ダロ?」
今度は二口もニヤッと笑う。
「いいんスか?
花巻さんも月島さんのこと好きなんスよね?
多分俺、奪っちゃいますよ?」
「ハッ。
言ってろ。」
そのあと、少し談笑して店を出た。
二口とゆきなちゃん、私と花巻に分かれて反対の道を行く。
「二口、花巻が月島のこと好きなの知ってたんだね。」
「ソーダネ。」
好奇心だけで色々言っちゃったけど、良かったのだろうか。
「…別にいいんじゃナイ?」
「え?」
「顔に書いてある。
言ってよかったのかな、って。」
「マジか……。」
「マジ。」
「……でも実際良かったの?」
正直、花巻がよくわからない。
月島のことが好きだけど、自分のことは適任者じゃないって言う。
でも、多分まだ諦めきれてない部分があるんだと思う。
……きっと自分でもよくわかってないんだろうな。
「……好きな女が悲しんでる姿なんて見たくないじゃん。」
「そうだね。」
「うん。」
花巻の横顔は、少し哀しげだった。
ちょっとでもいい。
月島の気持ちが、花巻に向いたらいいのに。
ふと、そう思ってしまった。
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