エゴイスト教をブロック。


「返せって言ってんの!!」


月島のことを囲んでいた子達もびっくりしたらしいけど、物陰に隠れていた私達もびっくりした。

「とりあえず、心配はなかったね。」

私の隣に立つ岩泉に声をかける。

「そうだな。」

岩泉も一先ず安心したようだ。






昼休み、うちのクラスは4限が移動教室だった。
教室に戻る際、偶然見かけた月島。
声を掛けようとしたら月島が1人じゃないことに気付き、一緒にいた子達には見覚えがあった。

確か及川教のマネージャー…。

なんだか嫌な予感がして、同じクラスで近くにいた岩泉を引き連れて後を付けた。
岩泉にも何か引っかかるものがあったらしい。

やってきた場所は人通りの少ない裏庭。
ちょっとやばい気がする。

「ど、どうしよう、岩泉。」

「……一旦様子みよう。
それでやばそうならすぐ行くぞ。」

「わ、わかった!」

向こうからは言い争う声…というか一方的な罵声が聞こえる。
それも、どれも言い掛かり的なものだ。

「岩泉ぃ……。」

辛い。
助けなきゃいけない。
岩泉の制服の袖をグイグイと引っ張る。

「落ち着け、夜久。」

これが落ち着いていられるか!

「月島なら大丈夫だから。」

大丈夫って何だよ!
そう思いながら月島をこっそりと見る。

「………。」

「な?
大丈夫そうだろ?」

「……うん。」

月島は及川教の子達を見下ろしていて……。
なんというか、冷静そうだった。
何言われても受け流しているような……とにかく落ち着いていた。


「…話はそれだけ?」


月島の声。
それは聞いたことがないような冷めた声で、驚いて私と岩泉は思わず顔を見合わせた。

それからごちゃごちゃと及川教が色々言ってもすべて月島に論破される。
そして最終的に月島の


「返せって言ってんの!!」


で月島に鍵が戻ってきて終了。
そもそも鍵盗むとかありえない。

「逆恨みとかされないといいけど…。」

それがちょっと不安だった。
教室で一丸となって月島を無視するような奴らだ。
今回のことだってどうなるかわからない。

「そうだな。
もうちょっと様子みるか。」

そう提案する岩泉に賛成し、もうちょっといることにした。
そうすれば案の定、文句を言い始める及川教の子達。

最初はムカつくだの、ウゼェだの、頭の悪そうな愚痴ばかり。
しかしそのうち、報復してやろうという話になっていった。


「うちのクラスの男子がさ、『月島と一回でいいからヤりたい』って言ってたんだよね。」


ハァ!?
いよいよ雲行きが怪しい。

そして続け様に何人か上がる名前。
中には知ってる奴の名前もある。

「じゃあそいつらに言って襲わせれば良くない?」

「いいですね!
そのくらいしてもらわないと!」

そしてゲラゲラと笑いだす及川教。
ここまで来たら救いようがない。
調子に乗りすぎだ。

「……ねぇ岩泉。
そろそろいいよね?」

岩泉の方へ視線をやれば、もうすっかり額に青筋を浮かべてる。
そりゃそうだ。

「岩泉、殴るのはダメだからね。」

「お前もな。」

そう言ってまだグチグチ言っている奴らの前へ。
全員、私達の登場に驚く。

「な、何!」

1人がそう問いかけてくる。
何?なんて言われたって困る。

「私からしたらあんた達こそ何?って感じなんだけど。」

はぁ?とか、意味がわからない、とか、そんなことを各々が好きなように言いまくる。
でもそれに先程の月島相手の時より力がないのは、やはり私達が2人だからだろうか。

「俺はさ、」

岩泉が言葉を発する。
それで急に黙る及川教達。
なるほど、岩泉にビビってんのか。


「女子同士の事はよくわかんねぇ。
けど、お前らがさっきから言ってる事って人として最低だろうが!!」


岩泉の怒声にビクッと震える。
そして、さっき、という言葉に露骨に反応しているのがわかった。
ので、私は言った。

「私達、あんた達が月島呼び出すところから見てたけど。」

と。
また固まる及川教。

「だから全部聞いてたよ。」

そしてそう付け足す。
すると


「お、及川さんには言わないでください!」


そう聞こえた。
この子は、割と色々言ってた1個下の子か。
その子の一言に乗っかる他の子達。
バカみたい。


「月島も言ってたけど、及川に言うなってことは悪いことしてる自覚があるってことだよな?」


岩泉の一言で、ぐっと黙る。
岩泉が怖いからなのか、それとも及川と仲がいいからかなのかはわからないけれど、この子達は岩泉には言い返せないらしい。

「……だって…ムカつくじゃないですか…。」

と、思っていたら一個下の子が言い返した。
根性みたいなものはあるらしい。

「ムカつく?」

「そうですよ。
だってなんであの人だけが優遇されてるんですか!!
あの女!
裏で何かしてるから優しい及川さんは気にかけてるんでしょ!
私達だって頑張ってるのにいつもあの人だけが優遇されて…!
なんの苦労もしてないくせに!!」

………?
岩泉とまた顔を見合わせる。

「ねぇあんたさ、言ってる事支離滅裂すぎじゃない?」

この子が何を言っているのかさっぱりわからなかった。

「さっきは『月島が及川のこと追いかけ回してる』って言ってたよね?」

「言ってたな。」

するとブンブン首を振る。

「ち!違う!!
さっき言ったのは私じゃない!!」

思わずため息が出た。

「まぁいいんだけどさ、仮に及川が気にかけてるなら及川の責任じゃない?
月島に当たるのはおかしいし、裏で何かしてるから気にかけてるッて言うのもおかしいでしょ?」

「あとお前らが何をどう頑張ってるのかは知らねぇけど、マネージャーとして1番働いてくれてるのは月島だろ?
だったら月島が優先されるのは当たり前なんじゃねぇの?」

私もそう思う。

「いいの?
岩泉!
そんなこと言って私達マネージャーが辞めても!
そしたら月島さんだって仕事大変になっちゃうんじゃないの?」

「そうですよ!
月島さんの事を考えるなら、私達がいた方がいいんじゃないですか?」

なぜか急に強気になった。
今度はそういう作戦に出たのか。
しかし岩泉は首を横に振った。


「別に問題ねぇよ。」


そう言った。

「辞めたいならいつでも退部届け受け付けるぞ。」

はぁ!?と口々に言いはじめる及川教。
だったら辞めてやるよ!とか言い出す奴もいれば、ふざけんな!と怒る奴も。
そして、及川くんに言いつけてやる!!と。
もうアホかと。

「及川にいいつける?
別にいいけどよ。」

そう言うと、スマホを取り出す岩泉。


「ムービー撮ったしな。」


それには私も驚いた。
まさかそんなことまでしていたなんて。


結局、月島にこれ以上ちょっかい出すな、ということで落ち着いた。
何人かは部活やめるみたいだけど。

「岩泉、ありがとね。」

「いや、夜久こそサンキューな。
お前が言ってくれなかったら……取り返しのつかないことになってたかもしれないからな。」

「…そうだね。」

そう考えると怖い。
ちょっかい出すな、なんて本当にそれだけで良かったのかとさえ思う。

「あ、そういえばいつの間に録画してたの?」

「?
何が?」

岩泉は首を傾げる。

「いや、何がって…。
ムービー撮ったって……。」


「ああ、あれは嘘。」


「…え?」

嘘?
嘘ってことは………

「カマかけたの?」

「そう。」

意外だ。
岩泉がそんなことするなんて。
……でもまあ。



「あ!夜久ちゃーん!!」


パタパタと私達の方へ走ってくる月島。

「月島!」

私のところまでくると、ギュッと私に抱きついてくる。

「夜久ちゃん探したよ!
岩泉と一緒にいたの?」

「あ…うん、まぁね。」

「ちょっとクラスの用事でな。」

「うん、そう。ね。」

ふーんと、いいながら機嫌の良さそうな月島。

「じゃあ俺、ちょっと及川んとこ行ってくるわ。」

「うん、わかった。」

岩泉と別れる。
一応説明するのかな、及川に。

「じゃあご飯食べよ、夜久ちゃん。」

ニコッと笑う月島。
この笑顔を守らないとな、そう思った。

「夜久ちゃーん?」

「ごめんごめん、行こっか。
月島。」

「うん!」




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