月島という女の罪深さ。
「……どうしよう。」
私の隣に座る月島は、そう言いながらケーキを小さく切って口に運ぶ。
ちょっとだけ顔が綻んだから、美味しいんだと思う。
「どうしようって言ってもネェ。」
私達の目の前に座る花巻。
花巻はプチシューを頬張っている。
こちらもまた幸せそうな顔をしている。
「聞いてみればいいんじゃないの?」
私はプリンを食べながらそう提案してみた。
うん、すごく美味しい。
「そんなこと言われても聞けないよ……。」
しゅんとしているけど月島はケーキを食べ続けているから、ちょいちょい表情が綻んでしまって真剣なのかそうでないのかよくわからない。
「でも実際月島はさ、見ただけなんでしょ?
その…二口?のこと。」
「そうなんだけど……。
百聞は一見に如かずっていうか論より証拠っていうか…。」
「まぁ…言わんとしていることはわかるけどさ。」
月島は及川とデートしたっていう日からずっとこんな調子だ。
最近仲の良い二口とかいう他校の後輩が彼女といるのを見てしまったと。
ずっと嘆いている。
どうしよう、どうしよう、と。
でもこれで不思議なことは、月島は二口のことが好きとか自覚していないことだ。
完全に恋する乙女じゃないか。
そしてもう1人。
「本人に聞いてみたらいのに。」
そう言う花巻。
こいつも恋する……何て言うんだろうな、男の場合。
とにかく花巻も恋してるようだ、月島に。
花巻は自分で言ってたから自覚しているけど、それでその好きな子に恋愛相談紛いのことされてるんだからたまったもんじゃないよな。
「聞けないよ。
なんかそれって意識してるみたいじゃん…。
『彼女いるの?』って聞いたら、なんか狙ってるみたい…。」
強ち間違いじゃないと思うけどね。
狙っているかどうかは別として、好きなのは事実なんだと思うし。
「別に気にしなくていいんじゃナイ?
言っちゃいなよ。」
正直その言葉、花巻本人にぶつけたい。
月島が二口のこと好きなのは一旦置いて、好きだって言っちゃえばいいのに。
「……やっぱり聞けない。」
月島は最後の一口を食べると、新たな甘味を取りに席を立った。
席には私と花巻だけになる。
「月島が自分の気持ちに気付いてないうちがチャンスだと思うんだけどな。」
「俺もそう思うよ。」
ケドさ、と付け足す花巻。
「もし上手くいったとしても騙したみたいじゃん。
それに月島と付き合えたとして、そのあとに気がついたら俺の所から去っていきそうな気がする。」
「月島、そんな子じゃないよ。」
「うん…。
でもそれも嫌だ。
月島には心から笑っていてほしいし、そうさせてやれるのは俺じゃない。」
考えすぎだよ、なんて言おうと思ったけどやめた。
月島は真面目だ。
人に対しても自分に対しても。
だから花巻が言った通りになってしまうような気もする。
「…でもほら、女心と秋の空、なんて言ったりもするしさ。」
実際月島だって二口に会ったのはつい最近だ。
二口が月島助けてくれた話は聞いたけれど、惚れるのが割と早かった。
だから今後何があるかわからないし、気も変わるかもしれない。
うーんと、花巻も似たようなことを考えていたのだろう。
「そうかもネ。」
ニヤリと笑う。
「そうなったらまた考えるよ。
多分月島、そしたら俺に言ってくれるだろうし。」
「たしかに。」
月島は花巻になんでも話す、らしい。
その場にいたことがないから、らしい。なんてあやふやな言い方になってしまうけれど。
大抵順番的にはまず登校の電車内で花巻に話して、同じ事を私達が昼休みに聞く。
「逆に近すぎるのかもね、花巻。」
「俺も今同じこと思ったヨ。」
「気があうね。」
「そうだネ。」
やっぱり月島関係の事だからかな。
私も月島のことすごく好きだ。
もちろん花巻とか及川の好きとは意味が違うけど。
チラッと月島の方を見ると、ウロウロとまだ甘味を物色していた。
「「かわいいね。」」
思わず顔を見合わせ、笑ってしまった。
なんか今日のこの時間だけで花巻と仲良くなった気がする。
「……夜久だから言うけどさ。」
「うん?」
花巻はそう言いながら、目線は月島のまま。
私も月島の方を向く。
「適任者じゃないとかいいながら、割と積極的にやってると思うんだよね、俺。」
「ほう。
というと?」
私は花巻の方を向くけれど、花巻は相変わらず月島を見たままだ。
「1回キスしたことあって。」
「……えっ!!」
パッと自分の手で自分の口を塞ぐ。
花巻はニヤニヤと笑っている。
「ほ…本当に……?」
「ウン。
って言っても寝てる時にほっぺにだけど。」
いやそれにしたって…!
「ね、寝込み襲ったの…?」
「そ。」
そ。じゃない。
予想外の行動にもびっくりしてるし、それを教えてくれたことにもびっくりしてる。
「花巻……。」
「これ、入江達にも言わないでネ。」
「言えるわけないでしょ…。」
とんでもないことを聞いてしまったよ、私。
頭を抱えていると、月島が戻ってきた。
「いいものあった?」
花巻が聞く。
もうなんなの、こいつ。
「あったの!
いっぱい持ってきたからみんなで食べよ!」
トンッと真ん中にお皿を置くと、ニコニコ幸せそうに笑う月島。
さっきまで悩んでたのはなんだったのか。
「そういえば、私がいない時になんか話ししてたでしょ?」
コテンと首を傾げる。
その仕草がとても可愛いというのは置いといて、なんでこの子はこういうことには鋭いのか。
「……あー…っと。」
花巻の視線とぶつかる。
なんて言おうか。
「及川は…甲斐性がなさそうだなと思って…。」
ブッ!と吹き出す花巻。
なんで私はそれが出てきたんだろ?
とりあえずごめん、及川。
「…まあ確かに。」
そして何故か乗っかる月島。
かわいそうな及川。
「うちの部なら断然岩泉が甲斐性ありそうな気がする。
なんか夜久ちゃんたちと前もそんな会話した気がするね。」
「そうだね。」
そういえばそんなこともあった。
「……お前ら普段そんな話ししてんの?」
ちょっと引き気味な花巻。
「偶然ね。
男子が勝手に女子の顔とかおっぱいで順番付けるのと一緒。」
「ああ、なるほど。」
納得しやがった。
「私は花巻も甲斐性あると思うよ?
甲斐性っていうか…頼り甲斐?」
ニコッと笑う月島。
「ありがとう…?」
…まったく…
「月島も罪な女だよね。」
「え?なんで?」
また首を傾げる月島。
その仕草はやっぱり可愛くて、もしこれが計算だったら怖い女だな、なんて思った。
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