王様の想い人なんて認めない。


「そういえば青城のマネージャー美女だったな!」

部活終わりに片付けをしていると、田中さんが急にそんなことを言い出した。
この人は女子を見たらそんなことしか考えていないのか?

「身長の高い美女でした!」

日向も食い付く。
美女美女バカっぽい。

「後から来たマネージャーな!
確かにあの人が一番美人だったな。
他のマネージャーはどっちかっていえば可愛い系。」

「わかります!!」

後から来たマネージャーって……うちの姉ちゃんじゃないか?
背も高いし。

…ハァ?

そう言ってやりたくなった。
さすがに先輩の手前、そんなことは言えないケドさ。

「スガさんもそう思いません?」

田中さんが菅原さんに話題を振る。
菅原さんは、えぇ?っとちょっと困っている。

「確かに綺麗な人だったな。」

そう言ったことでさらにヒートアップする田中さん。
助けを求めるように菅原さんはキョロキョロとし始める。


「あ、そういえば影山は青城のマネージャーと知り合いなのかな?」


「確かに、手振られてたな。」

菅原さんのあとに澤村さんも続ける。
確かにそうだ。
山口ならともかく、どうして王様に手を振るのか。

「うぉい影山!!
お前あの美女と知り合いかぁ!!」

グワッと影山の方へ走っていく田中さん。
僕もちょっと気になって、掃除するふりして近づいて行く。

「あの人は中学の時の先輩です。
中学の時は女子バレー部に所属してたみたいですけど。」

それで姉ちゃんのこと知ってたのか。
いやでも、王様のこと知らない風だった……そうか、まだその時は『王様』じゃなかったのか。
だから姉ちゃんは知らなかったんだ。



「多分まだ及川さんと付き合ってるんじゃないですか?」



…………。


「「ハァァ!?」って月島!?」


王様がとんでもないことを言うから、僕まで大声を上げてしまった。
みんなの注目が僕に集まる。

「なんだ?
月島もあの美女のこと好きなのか?」

ニヤニヤ笑いで近づいてくる田中さん。
そして日向。

「……違いマス。」

田中さんと日向に突っつかれる。
非常に鬱陶しい。
そういえば、と菅原さんが続ける。


「月島も手、振られてなかったか?」



……。
田中さんの表情が変わる。
日向の表情も。

「なんだお前も関係者ですかコラ。」

「田中さんその顔やめてください…。」

なんか姉ですって言いづらくなってきた。
でもだからってどうしたらいいんだこれ。



「灯ちゃんはツッキーのお姉ちゃんですよ?」



「「「「え…?」」」」

…山口…。
全員が驚いた表情で僕を見る。
王様でさえも。


「ほ、ほ、ほ、本気で言ってるのか!!!?」
「そういえばあのマネージャーも月島って呼ばれてた!!」
「俺めっちゃ恥ずかしいこと聞いてたじゃねぇか!!!」
「早く言え月島!!!!」


みんなが一斉に言うから何を言われてるかよくわからない。
恐らく自分たちでもわかってないと思うケド。





「月島。」

「…なに、王様。」

散々みんなに姉ちゃんの事を聞かれ、それが落ち着いた頃、王様に話しかけられた。

「お前のお姉さん…月島さんは及川さんとまだ付き合ってるのか?」

「ハァ?」

冗談じゃない。

「姉ちゃんが及川さんと付き合ってたことなんてないよ。」

「え、本当か?」

「ウソついたってしょうがないデショ。」

「……そっか。」

安心そうに息を吐く王様。
意味がわから………え?

「……王様サ、前に好きな人の事言ってたデショ…?」

「言ったな。」

「………。」

なんだかチョット聞くのが怖くなってきた。

「なんだよ。」

「……。」

首を傾げる王様。
最初は難しそうな顔をしていたのに、急にパッと表情を変えた。

「もしかして、俺が前に言った好きな人が月島さんかってことか?」

そう言うと、王様はふぅと息を吐く。


「月島さんのことだ。」


………最悪。










「蛍!帰ってる!?」

僕が帰ってきてから1時間ほど経ったころ、姉ちゃんも家に帰ってきた。

「おかえり。
どうしたの、そんなに慌てて。」

「ただいま!
腕!」

「腕?」

「及川のレシーブ受けたとこ!
大丈夫!?」

僕の腕を引くと、ジッと見る。

「…あのさ、そんなヤワじゃないんだケド。」

「いや、及川のサーブは馬鹿にできないよ?
うちの選手何人か痛めたからね、腕。」

そういうとモミモミと僕の腕を揉む姉ちゃん。

「……あのさ。」

「ん?何?」

王様が………。
そんなこと、言ってどうするんだ。

「蛍?」


「姉ちゃんさ、及川さんと付き合うのはやめてね。」



「ハァ?」

突然のことで呆れたような姉ちゃんの顔。

「それはあり得ないから。」

「そうだよネ。」


なんか少しだけ、安心した。



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