烏野高校排球部。


体育館に入ると、ちょうど2セット目が終わったところだった。

「アララッ。
1セット取られちゃったんですか!」

及川がそういえば、監督がバッと振り返る。

「おお!
戻ったのか!
足はどうだった!」

「バッチリです!
もう通常の練習イケます!
軽い捻挫でしたしね。」

そして上から聞こえてくる
キャーッ!
及川さーーん!!
の声。
それに烏野の選手達はびっくりしてる。
そしてその中で頭がちょっと出てる、1番の長身はうちの弟蛍。
烏野で特別背が高いのは蛍くらいしかいないみたい。

「まったく…。
気をつけろよ及川。」

「スミマセーン。」

「向こうには『影山出せ』なんて偉そうに言っといてこっちは正セッターじゃないなんて頭上がらんだろが!」

「あはは…。」

「月島もわざわざ悪かったな。」

「いいえ。
1年生のマネージャーの子達が仕事やってくれたので大丈夫です。」

私が監督と話している間にも、「及川さん無理しないで下さーい!」という黄色い声。
その子達にニコッと笑うと、烏野の選手達の方を向く。
そして


「やっほートビオちゃん、久しぶりー。
おがったねー。
元気に『王様』やってるー?」


及川はそう言うと、1人の選手にヒラヒラと手を振る。
あれがトビオちゃん……?
最後に見たのは彼が中学1年生の時だったから当然かもしれないけど、すごく大きくなった。
当時は私よりも小さかったのに。
及川の事を見ていた目が私を見る。
その瞬間、え?っと驚くように揺れる瞳。
私のこと、覚えていてくれたのだろうか?
私も軽く手を振ると、ペコッと頭を下げられる。
ついでに蛍にも手を振る。
蛍はフイッと向こうを向いてしまった。

「とにかくお前はアップとってこい!
いつもより念入りにだぞ!!」

「はァーい。」

及川は体育館の隅へ行く。

「監督、私も着替えてきますね。」

「おお。
ありがとな、月島。」

及川はジャージで病院へ行ったけれど、私は制服で付き添った。
なので体育館を後にして、更衣室へ行く。

着替えを済ませると、体育館に戻る。
点差はあまりないけれど、青城が押されてる。
坊主頭の子が主戦力なのかな。
あとはオレンジ色の髪のチビちゃんがよくスパイクを打つ。
その子はジャンプ力がとにかくすごい。
身長の差なんてものともしないみたいだ。

「すごい……。」

純粋に、そんな感想が溢れた。





「このっ…!
調子に乗るな!!」


「金田一ナイス!!」
「ドンマイ月島!」

蛍が金田一のスパイクをレシーブしきれず、青城の点となる。
21対24
あと1点で青城の負け。
監督も微妙な顔をしている。


「アララー。
ピンチじゃないですか。」


及川が監督の方へ近づいていく。

「…………アップは?」

「バッチリです!」



ピーーー!!



ピンチサーバーとして、及川は国見と交代する。
そのことによって烏野にもちょっと緊張が走った……かな?
坊主の子、中指立ててるケド。


「いくら攻撃力が高くてもさ……。
その『攻撃』まで繋げなきゃ意味ないんだよ?」


及川は右手でボールを掴むと、そう言って指を指す。
蛍に向けて。

及川はボールを上へと投げると助走をつけてジャンプ。
そしてその勢いを殺さぬまま、重たいサーブを打ち込む。

そしてその打たれたボールは、吸い込まれる様に蛍の腕へと飛んでいく。


ゴッ!!!!


そんな鈍い音がしたと思ったら、ガガン!!と体育館のギャラリーにボールが飛んでいく。
その音に、見ていた生徒が小さく悲鳴をあげた。

「い゛っ…。」

私も思わず小さく声を上げてしまった。
今まで何度も及川のサーブを見てきたけれど、及川サーブ上手いな、以外に何かを感じたことはなかった。
けれど今日は違う。
痛い。
思わず自分の腕をさする。

「…うん、やっぱり。
途中見てたけど…6番の君と5番の君。
レシーブ苦手でしょ?
1年生かな?」

「…じゃあ…もう一本ね。」

そう言うと及川はもう1本サーブを打ち込む。
同じコース。
それもまた、蛍の腕へと飛んでいく。

ゴガッ

また鈍い音がして、ボールがコートの外へ溢れ飛んでいく。

「ツッキーイイイ!!!」

そう叫ぶのは忠くん。
忠くんも大きくなったな…。
でも相変わらずツッキー呼びなんだ、そう思うとちょっとだけ冷静になった。

「おっ。
あと1点で同点だねー。」

23対24。
烏野が点を取らなければ、青城はずっと及川にサーブ権がある。
このままなら、逆転できるかもしれない。
烏野のコートでは、オレンジ頭のチビちゃんがジタバタと動いている。


「おい!コラ!大王様!!
俺も狙えっ取ってやるっ!
狙えよっ!!」


大王様?
多分及川のことだけど、なんで大王様なんだろう?
ちょっとあとで蛍に聞いてみよう。

「みっともないから喚くなよ!」

そう思ってたら蛍の声。

「なんだとっ!?」

ちょっと揉めてるのかな?
そう思ったけど、違った。



「バレーボールはなあ!
ネットの『こっち側』に居る全員!!
もれなく『味方』なんだぞ!!」



そう蛍に言うチビちゃん。
声が大きいからこっちにいる私達の方にも聞こえてくる。

………もれなく味方、か…。


烏野はそのあと少し場所が動いた。
主将さんが真ん中で、蛍と坊主くんが少し後ろに下がる。

「……よし、来い!」

これで主将さんの守備範囲が広がって、レシーブをフォローする形になった。

「……でもさ1人で全部は…守れないよ!!」

及川はまたサーブを蛍の方へ打ち込む。
相変わらず、すごいコントロールだ。
でもコントロールを重視する分威力が弱まり、なんとか蛍のレシーブが成功した。

「上がった…!
ナイス月島!!」

ナイス蛍!
心の中でそっとガッツポーズ。

「おっ取ったね。
えらーい。
ちょっと取り易すぎたかな?
でも……。」

及川はそう言いながらボールを眺める。
ゆるく上がったボールは青城コートの方へ上がった。

「こっちのチャンスボールなんだよね。」

「くそっ…!」

悔しそうな蛍。
及川は飛んできたボールを綺麗にレシーブする。

「ホラ、おいしいおいしいチャンスボールだ。
きっちり決めろよお前ら。」

それがセッターの矢巾の上へ。

「金田一!」

「オオッ!!」

ブロックのない方へ走った金田一。
そのはずなのに……いつの間にか回り込んだチビちゃんがいた。
高く飛び、大きく伸ばした手にボールが当たる。

「よしっ!」
「ナイスワンタッチ日向!!」

チビちゃんのワンタッチで、向こうのチャンスボール。

「「チャンスボール!!」」

「くそが!!
今度は俺が叩き落としてやるよ!!」

熱くなる金田一。
チビちゃんは着地と同時にコートの反対側へ。
……動き、速すぎない?

そこでジャンプをしたチビちゃん。
そこへズバッと一直線で飛んでいくボール。

今…
セッターのトビオちゃんのところにボール、なかったっけ?


ダンッ!!!


そして気がつくと、青城コートにボールが落ちていた。

23対25。
セットカウント2対1。
勝者、烏野高校。

最後の…なんだったの……?










「は?
及川がいない?」

烏野の選手達が帰った後、及川がいなくなった。

「悪いけど月島、アホ川のこと探してきてくれるか?」

「わかった。
クズ川のこと探してくる。」

どこいったんだあの男は。
体育館の周りでも見てみようかと思うと、校門のほうで見えた黒い集団に、ポツンと1つ白い人影。

烏野の人達に迷惑をかけているのではないだろうか…?
急いで近づいていくと、及川の声。

「インハイ予選はもうすぐだ。
ちゃんと生き残ってよ?
俺はこの…」

及川がトビオちゃんにピッと指を指すのが見えた。

「クソ可愛い後輩を、公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからサ。」

もう何やってんのアイツ!

「及川っ!!」

私の声に反応する及川と烏野選手達。
でも、チビちゃんには聞こえていないみたいだった。

「レシーブなら特訓するっ!」

蛍のジャージをつかんで及川につっかかる。

「!!?
おい放せ!」

それが迷惑そうな蛍。
及川は呆れたような目をして言う。

「レシーブは一朝一夕で上達するモンじゃないよ。
キャプテン君はわかってると思うけどね。」

ごめんね、灯ちゃん。もう戻るよ。そう呟いて私の横を歩いていく。

「大会までもう時間は無い。
どうするのか楽しみにしてるね。」

ヒラヒラと手を振りながら戻っていく及川。
その場に残ったのは烏野の選手と私。

「うちの主将がすみません!」

主将さんに頭を下げる。

「いっ、いえいえ!
大丈夫ですよ、気にしないでください。」

烏野の主将さん、及川と違って真面目で優しそうだ。
チビちゃんと目が合う。
蛍やトビオちゃんと並んでいるから小さく見えていたのかと思ったけど違う。

「……本当に小さいんだ…。」

「なっ!!」

ガーンとあからさまにショックを受けるチビちゃんと、ブッ噴き出す蛍、忠くん、坊主くん。

「ごっ、ごめんなさい…!」

「い…いえ……。」

「…でも、凄かった。
あのジャンプ。
まるで……」

小さな巨人みたいだった。

「…?」

その一言が言えなかった。
小さな巨人のことは知っているけど、それを言ってしまえばお兄ちゃんのあの一件を思い出してしまうから。

「ううん、なんでもない。
引き止めてごめんなさい。
今日はありがとうございました。
インターハイ、楽しみにしてます。」

ペコッと頭を下げると、主将さんにも頭を下げられた。
そして烏野の選手達は帰っていく。

烏野高校排球部

やっぱりカッコいいな。



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