俺なりの。


ファミレスの机の真ん中にはピザとポテトと他メニューがちらほら。
俺の目の前にはケーキ。
注文したのは俺だけど。

「マッキーおいしい?」

「エ……うん……。」

俺の目の前にはニコニコと笑う及川。
『今日は俺が奢るよ。』
なんて言うからきっと裏があるんだろうと思っていたけど、目の前の甘味には勝てなかった。

「つーか及川、急になんなんだよ。」

俺の斜め前、及川の隣には岩泉。
俺の隣には松川がいる。
裏があるんだろうけど、だからって男子高校生3人に奢ろうなんて勇者だと思う。

「今日は月島呼ばなかったんだな。」

ピザをもぐもぐ食べながら聞く松川。
確かに月島がいない。
大抵は5人で行動してるから、4人になるっていうのは珍しい。


「灯ちゃんには声かけなかったからね。」


「お前が月島に声かけないとか珍しいな。」

岩泉もピザやポテトに手を伸ばす。
いつも及川は率先して月島に声をかける。
しつこ過ぎて嫌がられる程に。
結局はみんないる、と言えば大抵ついてくるけれど。

「だって今日は男子会したかったからさ。」

及川のその一言に俺と他2人が凍りつく。
そしてそのまま岩泉が一言。

「気持ち悪ッ。」

「チョット岩ちゃん!」

「触んなっ!」

「ヒドイ!!」

埒が開かなくなる前に、及川に理由を聞く。

「灯ちゃんについてマッキーに聞きたくて。」

……理由聞かなければよかった。

「俺に聞くことある?」

そう聞けば、ニッコリ笑う及川。
イケメンなその笑顔にチョット腹が立つ。

「この日のことなんだけど。」

及川はスマホを差し出し、そこに写るのはイルミネーションの前にいる及川と月島。
側から見たらカップルそのものだ。

「それ昨日見たんですケド。」

それは正しく昨日グループLINEで送られてきたやつ。
とりあえずノリで2人のこと茶化しては見たものの、イラっとしたのも事実。

「うん。
この時は楽しそうだったんだけどね。」

「?」

ふぅ、と及川はため息を吐く。
何かあったのだろうか、そう思いながらココアを飲む。


「灯ちゃんって伊達工の二口と何かあるの?」


「ゴブッ!」

「「花巻!?」」

思わず噎せてしまった。
松川と岩泉に心配され、松川には背中を摩られる。
思いの外驚かせてしまったらしい。

「悪い、松川。
ありがと。」

「だ、ダイジョブか?」

「ダイジョブ。」

多分。
及川だけは反応が違った。
薄くニヤッと笑っている。
その目は完全に、マッキー何か知ってるね?と言っていた。

「どういう関係なのかな?
灯ちゃんと二口。」

「……。」

「シューアイスも頼もうか?」

「シュー…アイス……?」

たしかここのシューアイスは少しお高いけれど、味には値段以上の価値があると聞いたことがある。
やばい、心が揺らぐ。
言ってもいいかな?月島。
あんまり突っ込んだこと言わなければ……でも…やっぱり本人のいないところで………。

「すみませーん!
シューアイス5個お願いします!」

及川が店員さんに声をかける。
……5個?

「マッキーは2個食べていいよ?」

……2個…だと……?










「ふーん。
灯ちゃん、二口と連絡とりあってるんだ。」

もぐもぐとシューアイスを食べる俺たち4人。
岩泉と松川も美味い美味いと舌鼓を打っている。

ごめん月島、勝てなかった。
シューアイスに。

「月島が連絡取り合うようになったのは何でた?
練習試合で伊達工行ってからか?」

一足先に食べ終えた岩泉が会話に混ざってくる。
岩泉には悪意も何も無く、本当に純粋に聞いてくるからタチが悪い。

「…そう。」

「なんか二口の下の名前が知りたいとか言ってたよな。
休憩の度に目で追ってるみたいだったし。
その前に会ったことでもあったんじゃねーの?」

松川も食べ終える。
こいつは多少わかって言ってる。
ちょっとにやけてるから。
3人の目が俺に向く。
…仕方ない。

「…なんか困ってた時に助けてくれて?名前聞かなかったけど制服で高校はわかってたし、顔はなんだか見たことがあったからバレー部の人?って思ってて伊達工行ったらその人がいた、みたいな?
お礼言い忘れたからお礼言いたかったって言ってた。」

ちょっと嘘も混ぜる。
及川関係で絡まれた、なんて言ったら及川が月島に謝りまくるだろう。
でもそんなこと月島は絶対望まないし、関係だって悪くなる気がする。

「へぇ。」

岩泉が頷く。
松川と、一応及川も。
納得していただけたらしい。

「俺飲み物取りに行ってくるわ。
花巻と及川は?」

通路側に座っていた松川が立ち上がる。
全員もうコップには何も入っていなかった。
俺と及川はおかわりを頼む。

「岩泉も手伝って。」

「わかった。」

松川と岩泉はドリンクを取りに行った。
多分これは松川がわざとしてくれたんだと思う。

「まっつんも粋な計らいするよね。」

「ソーダネ。」


「マッキーはさ、いいの?
灯ちゃんのこと。」


相変わらず笑顔を貼り付ける及川。
あー、腹立つ。

「知ってたンだ?」

「何となくね。」

薄々感じていた。
俺が月島のこと好きなの気付かれてるんじゃないかって。

「いいも何も、月島が決めることだから。」

「そーなんだけどさ。
でも今1番灯ちゃんのこと知ってる男、マッキーだと思うよ?」

「それは光栄だネ。
でも…」

自分でもそれは思う。
驕りじゃない、事実だ。
及川よりも、二口よりも月島のことを知っている。
だからこそ、わかってるんだ。


「月島の中に俺はいない。」


もちろん、何でも相談できる友達、なんて風には思ってくれていると思う。
事実何でも話してくれる。
俺はその関係が嫌じゃない。
むしろ好きだ。
壊したくない。
居心地がいい。
それに


「好きな子には幸せになってもらいたいから。
俺はその適任者じゃない。」


「……マッキー。」

多分及川も気付いていると思うけど、月島は二口が好きだ。
昨日の反応を聞いて確信した。
月島本人がそれに気付いているかどうかはわからないけれど。
あいつ鈍感だからな。

そう思うと、笑えた。

「マッキー。
俺はさ、諦めないよ。
灯ちゃん鈍感だからまだ自分の気持ちに気付いてないだろうし、俺の方が近くにいる。」

「うん、そうだね。」

及川の隣で笑う月島。
それで月島が幸せになるなら、それもいいと思った。
むしろ俺はずっとそうなると思っていたくらいだし。

でも

「今度からマッキーに色々相談するね。」

「それはヤダ。」

「え?」

鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をした及川。
イケメンが台無しだ、ザマーミロ。

「適任者じゃないのは頭ではわかってるんだけどネ。
同じ子のことが好きな野郎の相談を受け付けられる程出来た奴じゃないからさ、俺。」

ニヤッと笑ってやれば、及川は苦笑い。
そんなに上手くいくと思うなよ?


「……あ。」

「?
何マッキー。」

「あれ。」

松川達が行ったドリンクバーの方を指差す。
話に夢中で気付かなかったけど、岩泉が及川のドリンク(多分牛乳)にガムシロップやらを注いでいた。

「岩ちゃぁぁぁぁん!?」

それを止めるべく、走っていく及川。
ああ、面白い。



「へぇ、花巻って月島のこと好きだったんだァ。」



!?

突然、聞きなれた声が後ろからした。
振り返ると、そこにいたのは

「夜久!?」

「よっす。」

夜久が俺の真後ろの席にいた。
そしてその先に見える入江と白井。
……まさか


「全部聞いてた?」


その問いに、ニヤリと笑う3人。
コクコクと頷かれる。
もう最悪だ…。

「及川が月島のこと好きなのは知ってたけどね。」

「むしろそのこと知らない奴いるの?」

入江と白井はそう続ける。

「月島には言わないから安心しなよ。」

「月島以外にも言わないでほしいんですケド。」

ニヤニヤ笑う3人。
良からぬことを考えている予感。

「………。」


そのあとギャーギャー言いながら戻ってきた及川達。
岩泉と松川は3人を見ても特別な反応はしない。
お前らも来てたのかー、程度。

問題は俺と、及川。
もうこれは賄賂払ってでも黙らせなければならないと思った。




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